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一年生(15)——夏期休暇


「リーゼロッテ!どうしてここに?」


 フランクさんが侵入してきた女の人を見て驚いた声を上げる。その女の人はため息をついた。


「はあ……こんなことになってるなんてな……」


 前髪を掻き上げる。


「私はちょうどお前の家の商会に用事でいたんだよ。フランク、お前が今晩帰らないって知らせが届いたから様子を見に来たんだ。届いた手紙もなんかおかしかったし。ここに来てみたら人相の悪い奴がお前は忙しいから会えないとかいうし……おかしいと思ってしのび込んだら……はあ……」


 女の人——リーゼロッテさんはため息をつきながらも素早くフランクさんと私の縄を解いてくれた。


「お嬢ちゃんは?」


「誘拐されて閉じ込められたヴィヴィアーネ・アウフミュラーと申します」


「ひ……ひぇぇ……ご領主様のご令嬢……」


 私の自己紹介にフランクさんが情けない声を上げる。そういえばフランクさんには名乗ってなかったわ。


「ヴィヴィアーネ様、私はリーゼロッテ・シュトイデルと申します」


 リーゼロッテさんは一瞬遠い目をしたが気持ちを立て直して名乗ってくれた。面倒ごとに足を突っ込んだとか思ったんだろう。


「何とかここを抜け出そう。あの窓から……は無理か」


 リーゼロッテさんは私とフランクさんを見て言った。うん、無理です。


「あ、ルーナも連れて行かなくちゃ」


「ルーナ?」


 私は鎖に繋がれたルーナのところにリーゼロッテさんを引っ張っていった。


「竜の子供!」


 リーゼロッテさんは目を見張る。

 そして剣に魔力を込め……リーゼロッテさんは貴族だった……鎖を粉砕した。


 私はルーナを抱き上げる。


 倉庫のドアの前に立つとリーゼロッテさんが言った。


「私はドアを開けたら見張りをやっつける。ヴィヴィアーネ様とフランクは素早く廊下に出てほかの見張りの有無を探ってくれ」


 そうして息を整え、いざドアを開けようとした時——


 ギャー――オ―――――


 凄まじい竜の咆哮が轟いた。


「な、なに?」


 ギャー――オ――――――


 咆哮は真上から聞こえるような気がする。


 キュー――キュー――


 腕に抱いたルーナが呼応するように鳴き始めた。



 バターンとドアが開き見張りの男が二人入ってきた。


「うるせえぞ!あっ!お前は誰だ!」


 リーゼロッテさんは私とフランクさんを庇うように前に立って剣を構えた。


 男たちもナイフを構える。



 外の方で騒ぎが起こった。


「わー!」とか「ギャー」とか「逃げろ!」とかいろいろな声が聞こえてくる。


 え?もしかして領騎士団が来てくれた?



 バタバタと男たちが倉庫になだれ込んできた。


「おい!嬢ちゃんと子竜を攫ってずらかるぞ!」


 親分の言葉に子分たちが襲い掛かってくる。

 リーゼロッテさんが必死に剣で防戦している。


「うわ、うわわわ……」


 フランクさんが頭を抱えて蹲って震えている。

 私は何か抵抗できないかとあたりを見回した。


 魔力を人に向けることは怖い。でも物なら……


 子分の一人が襲い掛かってくるときに私は魔力を放出し彼の前方の木箱を粉砕した。


「うおっ!いてて……」


 駄目だ……木の破片が子分を傷つけたもののダメージは少しだけ。

 子分はまたナイフをかざして襲い掛かってくる。


 リーゼロッテさんが剣でナイフを弾いた。


 でも別の子分が襲い掛かってくる。


「わあ!わあああ――」


 一際大きな声がして倉庫のドアからなだれ込んできたのは——


「エル兄様!?ジーク兄様!?」


 二人を筆頭に騎士団の面々。


 彼らの手腕は鮮やかで密猟者たちはどんどん捕えられていく。


 ホッとしたときに目の端に何かが映った。


 そちらを向くと曲芸の見世物の時に矢を射ていた厳つい男が弓に矢をつがえて——


 え?こっちを向いてる?


 認識すると同時に矢が放たれた。


 その矢の軌道上に割り込んできたのは……


「ジーク兄様!!!」


 ジーク兄様の身体が白く光る。


 騎士が素早く男の腕を切り男は捕えられた。


 私はジーク兄様に駆け寄る。


「ジーク!危ない真似はするなと言っただろ!」


 エル兄様の怒声が響き渡る。


 ジーク兄様は微笑んで私を見た。


「ヴィヴィ、無事でよかった」


 私はルーナを抱いたままその場にぺたんと座り込んだ。

 ポロポロと涙がこぼれてくる。


「ジ……ジーク兄様……死んじゃうかと……思って……こ……怖かった……」


 今まで張りつめていた気が緩んだらしい。一度涙がこぼれ出したら止まらなかった。


 私はルーナを抱きしめながらわんわん泣いた。

 ジーク兄様はずっとルーナごと私を抱きしめていてくれた。


「ちぇ、兄の役目をジークに取られた」


 エル兄様はぶつくさ言いながらも私の頭をポンポンした。



 暫く泣いて目がパンパンに腫れて開きにくくなったころ私は泣き止んだ。


 ジーク兄様が私を抱いて運んでくれた。


 建物の外に出ると空に旋回している竜の姿が見えた。


「あの竜がヴィヴィの居場所を教えてくれたんだ」


 私の腕の中のルーナが身じろぎしている。


「飛びたいの?」


「キュー――」


 ルーナを抱く腕の力を緩めるとルーナはパタパタと羽ばたいた。


 パタパタパタ——


 ルーナは飛んでいく。


 やがて上空を旋回していた竜とルーナは竜の森の方角へ飛び去って行った。





 私はジーク兄様、エル兄様、領騎士団のみんなとお屋敷に帰ったんだけど……


 お屋敷はまだ夜が明けたばかりというのに皆が起きていた。


 エントランスホールに入るとカール、アリー、トーマスの三人が走り寄ってきた。

 アリーが私に抱き着く。

 アリーもカールもトーマスも泣いていた。


「ヴィヴィ、ごめんな。俺、守れなくてごめん」


 カールが言うので私も謝った。


「ううん、心配かけてごめんなさい。無茶なことしてごめんなさい」


「全くですな」


 振り返るとマインラートとハーゲンが腕組みをして立っていた。


「ごめんなさい。無茶なことをしました。あの……ラルスとフェッツは?」


「彼らは謹慎中です。それと三か月の減俸です」


 ハーゲンが厳しい顔をして言う。


「ラルスとフェッツは悪くないの。無理を言ったのは私なの」


「それでもです。彼らはヴィヴィ様を止めなければいけなかった。ヴィヴィ様が幸い無傷で戻られましたので減俸と謹慎ですが、ヴィヴィ様に万一のことがあればそんな生ぬるい処罰ではなかった」


 私は何も言えない……


「ヴィヴィ様も肝に銘じてくださいね」


「はい……」


「でも無事に戻られてよかったです。心配しましたよ」


 ハーゲンはにっこり笑って私の頭を撫でてくれた。

 


 








 

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