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一年生(14)——夏期休暇


 抜き足差し足……薄汚れた廊下を私はルーナを抱いて進む。


 どっちが出口かわからないけれど多分あっち。

 根拠のない勘を頼りに進む。


 廊下を曲がると……おっと見張りだ!私はすんでのところで身を隠した。

 心臓バックバク。うん、大丈夫。見つかっていない。でもあっちに行くのは無理そう……


 私は出口のドアでなく外に出られる窓を探し始めた。

 倉庫のようなこの建物は窓は皆高い位置についておりよじ登れそうにない。登っても降りられない。

 でも事務室のような部屋があれば低い位置に窓が付いているかもしれない。


 廊下を反対に進むとドアがあった。

 ここは事務室かも?

 近づくと中からボソボソ話し声が聞こえる。

 見つかるとマズい。私はそっとその場を離れようとしたが耳に入ってきた言葉に足を止めた。


「……様子を見に行かなくていいのか?」


「なあに、もう少ししたら夕飯をもって見に行けばいいだろう」


「今頃泣いているんじゃないか?俺が慰めてやろうかな。うへへ」


「お前あんなガキが趣味なのか?」


「綺麗なツラしてるじゃないか」


「おいよせよ!あのガキはガスパレ殿下への貢ぎ物だ」


「殿下への貢ぎ物は竜の子供じゃないんですかい?」


「あのガキは貴族だろう。魔力を持つガキは貴重なんだ。前々から欲しがっていた。魔力を持つ女が手に入ったら自分の子供を産ませるんだと言っていた」


「へー!じゃあ丁重に扱わねえとな」


 とんでもないことがわかった……

 こいつらはただの密猟者じゃなくてトシュタイン王国の手先だったんだ。ガスパレというのは確か第三王子の名前だ。第三王子と言っても三十は過ぎたおじさんだ。側妃とかも沢山いる。

 うげっ!絶対に逃げ出さなくちゃ!


「おい!そこで何をしている!」


 決意を新たにしたばかりで見つかった。


 その男の人はつかつかと私に歩み寄ってきた。

 まだ若いフィル兄様ぐらいの人だ。


「お前誰だ?それに……抱いているのは竜の子供じゃないか!」


 ん?この人は私のことを聞かされていないの?

 でも男の人が騒いだのでドアがバターンと開いた。


「おやおや嬢ちゃん、逃げ出すのはよくないな」


「あっ!お頭、竜の子供まで連れ出してますぜ!」


 私はあっという間に拘束された。うー、ホントにヤバイ。


「おい!お前らこれはどういうことだ?何でこんな小さな女の子が?それに竜の子供まで……」


 私を見つけた男の人が騒いでいる。

 けど密猟者の親分みたいな人がナイフを頬に当てるとピタリと口をつぐんだ。


「坊ちゃんよ、見なかったことにしてくれませんかねえ」


 親分が凄んだ。


「いいいや、だだだっておお前たちはヘーゲル王国まで内緒で物資をはは運びたいって言うから……」


「それを密輸って言うんですよ。もちろんわかっていて片棒担いだんでしょ、お坊ちゃん」


「そそそそれは……僕の失態で商いに損が出たから穴埋めにしようと……でででもそんな大それたことなんて……」


「俺たちが密輸をするってわかっていて倉庫を貸した時点で共犯なんですよ」


「うひゃひゃこいつバカだ」


 子分が笑い声をあげた。


「俺たちはヘーゲル王国じゃなくてトシュタイン王国の人間なんだよ。密輸品は魔力を持った女に竜だ」


「お前は黙ってろ!全部ばらしちまいやがって……まあいいか。坊ちゃん、俺たちがここを出ていくまでは口をつぐんでいてもらいますぜ」


「なななな……そそそそ……」


 もうこの坊ちゃんっていう人はまともに喋れないみたい……気の毒っていうか自業自得っていうか……って人の心配をしている場合じゃない!ホントのホントに私ピンチだ……



 私は最初の時よりグルグル巻きにされて倉庫に戻された。

 ルーナは檻の鍵を壊したので鎖でつながれている。

 密猟者たちはどうやって南京錠を壊したのか不思議がっていたけどばらすわけがない。

 それともう一人『坊ちゃん』という人も私の隣でぐるぐる巻きにされている。


「坊ちゃん、俺たちが明日ここを出ていくときにはばれないように協力お願いしますぜ。俺たちが無事に出て行けば坊ちゃんは大金が手に入る。けど少しでも怪しい素振りを見せたら坊ちゃんの腹にこのナイフが入る。一晩ゆっくり考えることだな」


 密猟者の親分はたっぷり『坊ちゃん』という人を脅して出て行った。


 おまけに今度はドアの外に見張りがいる。

 まあ、私が鍵を壊しちゃったからなんだけど。

 私は足元からじわじわ恐怖が這い上がってくるのを感じていた。

 ううん、しっかりしなさいヴィヴィアーネ!泣いても問題は解決しない。逃げる方法を考えなくちゃ!





 まんじりともしないうちに空が白み始めてきた。

 薄明かりが高い位置にある窓から差し込んでくる。


 夕べこの『坊ちゃん』いえ、フランクさんと言うらしいが、彼は一晩中ぐずぐず泣きながら私に謝っていた。でも君を助ける等の言葉は言わなかった。やっぱりこの人は密猟者たちの言うことを聞いちゃうんじゃないかと私はずっとジト目で見ていた。



 カタ……と上の方で音がした。


 上を見ると窓から人が入ってくるところだった。

 その人は窓枠を乗り越えると床に向かって飛んだ。

 ふうわりと着地する。


 スッと立ったその人は高い位置で長い髪をひとくくりにした女の人だった。

 黒いシャツに黒いズボンのその人は腰に剣を下げていた。







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