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一年生(13)——夏期休暇


 私たちは今曲芸が行われているテントの裏手、道具類を保管していると思われるテントに忍び込んでいる。


 雑多に積まれた荷物の中からガサゴソと矢を探していた。


「あったか?」


「ううん、こっちにはない」


「あ、あれじゃないか?」


 カールがテントの梁から吊るされた筒の中を調べて矢を一本取り出した。


「あった!それだわ!」


 ちなみに会話は全て小声である。


 その矢を手近な布で包んでテントから外に出た時だった。


「何をしている!!」


 ヤバ!見つかった!

 私は布でくるんだ矢を背中に隠した。


「あ、あの~、私さっきの曲芸に凄く感激しちゃって……」


 言いながらじりじりと後ずさる。フェッツが私とカールの前に身を入れた。


「ふうん……それで何で嬢ちゃんたちはこんなところにいるのかな?」


「なんか記念になるものが欲しいかな~なんて」


「すんませ~ん、俺たちもう退散します!」


 私たちの言い訳なんて何も耳に入っていない様子で男の人が迫ってくる。

 止めようとフェッツが剣を抜いた。


 その時私は後ろから伸びてきた手に肩を掴まれ同時に口を塞がれた。


「あっ!ヴィヴィ!!   コノヤロー!」


 カールが気が付いて手を伸ばしたけれど私は男の人に担ぎ上げられた。

 油断した。一人じゃなかったんだ。


 男は私を担いで走ろうとした。

 男に気が付いたフェッツが私のもとへ駆け付けようとするが最初に声をかけた男がナイフでフェッツに襲い掛かる。

 やむなくフェッツは防戦している。


 カールが私を追いかけようとするが男に蹴られて吹っ飛ぶ。

 口を塞がれていた手が外れた。


 尚も追いすがろうとするカールに向かって私は矢の包みを投げた。


「カール!!逃げて!」


 男は私を担いだまま凄い勢いで走って行く。

 男は途中で呼子を吹いた。


 わらわらと曲芸師たちが集まってくる。興行はどうしたんだろう?

 フェッツとカールはちゃんと逃げられたんだろうか?



 私はホロ付きの荷馬車に放り入れられた。

 数人の男の人が荷馬車に飛び乗ってくる。素早く手足を縛られた。


 荷馬車には雑多なものが積まれていたけど私の後に放り込まれた人はいなかったからカールとフェッツは無事逃げられたと思いたい。


 荷馬車にガタゴト揺られながら(ああ、無謀だったな……フェッツとラルスがあまり怒られなければいいな)と反省した。





 荷馬車は暫く走ってどこかに停まった。走った時間の長さから考えてアウフミュラー侯爵領は出ていないと思う。

 倉庫のような場所に私は入れられた。周りにはいろいろな荷物が積んである。

 荷馬車を降りるときに足の縄は解いてくれたけど後ろ手に手首は縛られたままだ。

 ここはどこだろう?逃げることはできるだろうか?

 私は倉庫の中をぐるぐると歩き回った。


 とりあえず足は拘束されていないし扉は……うん、鍵がかかってるわね。当たり前か。

 今後はどうなるかわからないけど今すぐの命の危険はなさそうだ。

 彼らは私を誘拐したから。

 わざわざ誘拐したってことは私に利用価値があるってことよね。私が侯爵令嬢だとわかっていて誘拐したのか?ほかに利用価値があるから誘拐したのか?


 考えてもわからない。

 次に私はこの倉庫にある荷物を調べ始めた。

 と言っても後ろ手に縛られているので調べにくい事この上ない。


 私が荷物の海の中で四苦八苦していると少し離れたところからガサゴソと音がした。


 え!?なにっ!?何かいる?


 ぎくりとして動きを止める。音がした方を凝視した。


 そこには布をかけられた何か……形状として檻のようなもの。

 何?猛獣とかだったらどうしよう……それは高さは私の背丈ぐらい幅は両手を広げたくらいの大きさだった。今は手を縛られているから広げられないけど。


 またガサゴソと音がした。そして「キュー」


 今のは鳴き声だろうか?私はそれに背を向けて布を掴むとそろそろと引っ張った。


 ズルっと布が落ちて被されていた物が現れた。


 やっぱり檻だ。そして檻の中にいたのは……竜?


 子犬ほどの大きさの子竜が蹲っていた。


「キュー」


 か、可愛い!


 子竜は縋るような目で私を見上げる。


「待って、今出してあげる」


 と思ったけど当然檻には鍵が付いている。頑丈そうな南京錠だ。この鍵を壊せるものがないかしら?

 辺りを見回して……はっ!もしかしたらいけるかもしれない……


 私は魔術の授業中遠く離れた的を割ったことを思い出した。ウォンドを使うほど効果は無いかもしれないけれど私の魔力量なら至近距離でぶつければ金属の鍵も壊せるんじゃないかしら?


 とにかくやってみよう。私は子竜にそこから動かないでねと声をかけ鍵の前に後ろ向きに立った。

 方向に気を付けて……間違っても子竜の方に飛んで行かないように。


 鍵に向けて思いっきり魔力を放出した——



 ピキ……


 ひびが入るような音の後、鍵はバラバラと壊れて落ちた。


 やった!!


 檻の扉を開けると子竜は外に出てきた。すりすりと私に身体を擦り付けてくる。


 可愛い!可愛い!可愛い!


 はっ!今はそんな場合じゃない。密猟者は昨日の竜を仕留めようとしただけでなく子竜も攫っていたんだ。何とか逃げ出してこのことを伝えたい……


 私が座り込んで考えているとガジガジと背中から音がする。


……と、パラっと手首の縄が解けた。


 子竜が私の縄をかじって切ってくれたんだ!


「ありがとう!!えーと……ルーナ。あなたの名前はルーナよ」


 私はルーナを抱きしめた。

 ルーナは「キュー」と鳴いた。


 さて、後はここを逃げ出さないと……


 扉は鍵がかかっていたけど、さっき私は南京錠を壊すことができた。

 扉の鍵も壊せるかも?


 やってみると鍵はあっさり壊れた。後ろ手でないだけさっきよりも簡単だった。



 そうして私はルーナを胸に抱きそろそろと廊下に足を踏み出した。




 


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