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一年生(7)


 入学して二か月が経った。


「みんな聞いて!やっと魔力制御、OKが出たの!」


 私は教室に戻ると真っ先にカール達に報告した。

 アルブレヒト先生は物腰は柔らかいが決して妥協してくれない。私はこの二か月毎回毎回同じことをさせられた。おかげで制御には自信持てるようになったけど。


「良かったですね~」


「やったなヴィヴィ!」


 みんな喜んでくれたけどここで気を抜くわけにはいかない。


「みんなはもうだいぶ進んでいるんだよね」


「俺は今障壁を張る練習だな」とカール。


「私は魔力の放出が上手く行かなくて。障壁までもう少しかかりそうなんです」


 アリーは少し悔しそうだ。


「僕は次の時間から障壁です……」


 トーマスの小声にも慣れて聞き取れるようになってきた。


「うーん!私ももっともっと頑張らなくちゃ」


 私は決意を新たにした。





 お昼休み。私たちは食堂から教室に戻ろうと歩いていた。


 二組の廊下の前にジモーネ様と三人ほどの令嬢がかたまって話をしている。

 私たちはなるべくかかわらないように彼女たちと反対側の廊下の端を歩いていたんだけど……


「あーら、まだ魔力制御もできない人がいるなんて」


「ふふっ、どれだけどんくさいのかしら~」


「侯爵令嬢が聞いてあきれるわね~」


「まあ皆さん、しょうがないと思いますわぁ。だって彼女は本妻の娘ではないんですもの~」


 この辺で私たちのおでこには青筋が浮かんでいたが……耐えた。

 早く教室に入ろうと足を早めた。だけど何で彼女たちは私が魔力制御でもたついてたことを知っているんだろう?


「あいつだ」カールが小声で言った。


「え?」


「グレーテ・ベーレンドルフだよ。俺たちが話してた時近くにいただろう。あいつが盗み聞きしてジモーネ嬢に教えたんだ」


「でも一つ間違えているわ。ヴィヴィは魔力制御OK貰ったでしょう」


 アリーの言葉に私はにっこり笑って頷いた。


 私がにっこり笑ったのが気に入らなかったのかジモーネ様たちは更に馬鹿にし始めた。


「ジモーネ様、あの庶子の娘はAクラスにいらっしゃいます?」


「あら、いないわよ。Bクラスには?」


「いらっしゃいませんわ~。魔力も少なくて覚えも悪いなんて……」


「ふふっ侯爵家の落ちこぼれ……」



 ここらへんでカールがキレた。


「ヴィヴィ!お前Sクラスなんだよな~!すごいなあ!特別クラスなんて!」


 態と大きい声で言う。私は急いで口をふさいだけど後の祭り。ジモーネ様たちはポカーンとこちらを見ていた。





 


 次の魔術の時間、私は魔力制御をマスターしたので次の段階に入る。


「まずは魔力の放出だよ。これができると呪文を覚えることでいろいろな魔術が使えるようになる。最終的には意識しなくてもどこからでも放出できることが理想だけど、まずは意識して掌から放出することから始めよう」


 アルブレヒト先生の言葉で私は両掌を前に突き出し意識を集中する。


 魔力制御の時のように魔道具に魔力を流し込むのは比較的簡単らしいが何もない空間に魔力を放出するとすぐ拡散してしまうらしい。それを拡散しないように意識を集中して放出した魔力に方向性を持たせる。それによって風を起こしたり障壁を張ったり、密談などの際に自分たちと周囲の間に魔力の幕を張ることで遮音もできるそうだ。


 竜の森に張られている結界もそれを高度かつ複雑にしたものだとアルブレヒト先生が教えてくれた。



「はい、集中して。掌から魔力を出したらまずはあそこの的を揺らすことを意識して!」


 私は的に届けと念じながら魔力を放出した。


 パッカーン!


 木の的が二つに割れた。……って、え?何が起こったの?


「ははは……」


 アルブレヒト先生の渇いた笑いが響いた。


 先生は咳ばらいをすると「うん、今度は三十パーセントの力でやってみようか」と違う的を指し示した。



 


 授業終わりにジーク兄様が褒めてくれた。


「ヴィヴィは魔力の放出は得意そうだな。すぐにいろいろな事が出来るようになるよ」


 ジーク兄様は私が制御で苦労しているときも授業の終わりに慰めてくれた。授業中は危ないので二人離れた場所で訓練しているが終わりには必ず話しかけてくれる。

 ジーク兄様とたわいもない会話ができるこの瞬間が私は好きだ。


「あ、そうだ。カールがグローブが切れたと言っていただろう。エルヴィンがお古でよければ使ってくれと言っていたぞ。今度のお茶会にもっていくからサイズが合うか確かめてくれとカールに伝えておいてくれ」


 お茶会はカフェに行きそこなったあの時から定期的に行われている。カール達三人もジーク兄様やエル兄様と大分打ち解けたようだった。


 カールに言ったら飛び上がって喜ぶだろうな、と思いながら私は教室に向かった。




 案の定、カールは飛び上がって喜んだ。


 カールとトーマスは剣術の授業を選択している。選択制の授業はいくつかあるが、三年生で騎士コースや文官コース、研究コース、教養コースと別れるため騎士コースに進みたい男子と少数ではあるが女子も一年生のうちから剣術の授業を選択している人が多い。


 カールは浮かれすぎて食堂に行く途中、男子生徒にぶつかった。


「あっ!すみません!」


「気を付けたまえ!」


 ぶつかった相手は上級生。じろっとカールを見た途端声を上げた。


「あっ!お前」


「え?あっ!」


 カールは一瞬わからなかったようだが次の瞬間一目散に逃げだした。


「こら!待て!」


 相手も追おうとしたが私たちを見て思いとどまったようだった。





 食堂で昼食を取り終える頃こそこそとカールがやってきた。


「カール、さっきの人は誰?」


 私が聞くとカールは急いでお肉を口に詰め込みながら話した。


「ヴィヴィ、俺たちの出会い覚えてるか?」


「出会いなんてロマンチックなものじゃないけど覚えているわよ。カールが何人かの男の人に追われてたのよね」


 私はアリーとトーマスにカールと出会ったときのことを話した。


「あの時追っていた人たちは泥だらけでずぶ濡れだったわ」


「あいつら……ウォンドを使って猫を的にしていたんだ……」


「!!」


 私は吃驚して声も出なかった。

 生き物を的にしてはいけないことは最初に習うことだ。


「あいつら動く標的を狙う練習だとか言ってゲラゲラ笑ってた。だから俺……ちょうど近くにあった植木の水やりの水をぶっかけたんだ」


「それであいつらカールを追いかけてきてたのね」


「うん。その後滑って転んで泥だらけになったのは俺の責任じゃないよ。俺もちょこまか逃げ回ったけどさ」


 突然トーマスがカールの手をガシッと握った。


「カールは偉いと思う。猫を助けてくれてありがとう!」


 珍しく語尾まで聞き取れた。小動物好きのトーマスは余程感激したようだった。


「私もトーマスに賛成。でもその人たちまたカールに何かするんじゃない?」


「先生に言ったらどうかしら。生き物にウォンドを向けるのは違反でしょう?」


 私とアリーも意見を言ったけどカールは難しい顔をした。


「うーん、見ていたのは俺しかいないからなあ……口裏合わせられたら立証できないよ」


「「「うーん」」」


 と私たち三人も考え込んだ。











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