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一年生(4)


 えっ!?球は?消えた?


 私はきょろきょろとあたりを見回した。


「上です!ヴィヴィアーネ嬢!」


 アイゼン先生の声に上を見ると私の持っていた球が天井付近からゆっくりと下りてくるところだった。

 そしてそれと同時にパラパラと何かが降ってきた。


「何?何が起こったの?」


 とりあえず先生と避難し、控室のようなところで待機させられた。




 暫くして戻ってきた先生に訊ねると私の球は天井も屋根も突き破ったらしい。

 パラパラと落ちてきたのは穴が開いた天井や屋根の材料だったようだ。


 魔力測定の後、A~Cクラスのどのクラスになるかが告げられるのだが、私が告げられたのは……


「Sクラス……ですか?」そんなクラスあったっけ?


「そうだよ。ちなみに生徒は全学年を通じて二人だ」


 アイゼン先生の言葉に私は首をひねった。






 今日は魔力測定を終えた者から解散になるので私はそのまま寮に帰った。


「おかえりなさいませ、ヴィヴィ様」


 マリアの顔を見るとホッとする。

 私は制服から普段使いのドレスに着替えて大きく伸びをした。


「お疲れさまでした。学院はどうでしたか?」


「聞いて!マリア。お友達が三人もできたわ」


 私はカール達の話をした。身振り手振り付きの話をマリアは微笑んで聞いていたが、カールが魔力ゆえに男爵家の養子になった話を聞いて表情を曇らせた。


「その方は養子だと言うことを公表されているのですね」


「うん、そうなの。男爵家にはほかに子供がいなくて赤ちゃんの時に引き取られたからカールは男爵家の父上や母上しか両親と思えないって言ってたわ。凄く可愛がってもらってるって」


「本当のご両親のことは知っているのですか?」


「その人たちとも男爵家のご両親が会わせてくれたんですって。王都でパン屋さんをしていて偶に遊びに行くって言ってたわ」


「まあ!男爵家のご両親はそれを許されているのですか?」


「そうみたい。でもパン屋さんのご両親に会っても男爵家のご両親がホントの親だって気持ちは変わらなかったって言ってたわ。やっぱり赤ちゃんの時からずっと育ててもらったんですものね」


 この話を聞いてマリアはとても悲しそうな顔をした。私がその意味を知るのはずっと後になるのだけれど……


 

 私は学院に入るときにお父様からはっきり養子だと言うことを告げられた。

 高位貴族の養子縁組は庶子だということを表す。お父様は私に告げるとともに養子だということは知らないことにしなさいと言われた。お母様のことを訊ねられても答えなくていいと。

 私は五歳より前の記憶が無いのでお母様のことを訊ねられても答えようがないのだけれど……


 私のお母様についてやいろいろな事情は学院を卒業したら話すとお父様は約束してくれた。そして「私は君を愛してるよ」と抱きしめてくれた。



「そうだわ!ヴィヴィ様今日は魔力の封印が解かれたのでしょう。なんかお体に変化はありましたか?」


 気を取り直すように手をパン!と打ってマリアが言った。


 私は封印が解除されたときの熱い何かが体を巡る感覚や魔力測定の時の話をしたのだけれど


「Sクラス?私も聞いたことが御座いませんわ。私は詳しいわけじゃありませんけど」


 とマリアも首をひねっていた。


 


 



 次の日登校すると一年生の教室はどこも魔力測定の話題で盛り上がっていた。

 教室に入りカール達に挨拶する。


「おはようございます、カール、アリー、トーマス」


「おはようヴィヴィ。聞いてくれよ!俺Aクラスだったんだ!」


 カールが嬉しそうに報告してくる。


「おめでとう、凄いじゃない!」


 カールと一緒に喜んでほかの二人も聞くとアリーはCクラス、トーマスはBクラスだった。


「竜騎士になるためにはBクラス以上の魔力が必要だからホッとした……」


 とトーマスは相変わらず小さい声で言い、アリーは


「私の家は両親共に魔力がそんなに多くなかったから魔力無しって言われなくって良かったわ」


 と、こちらもホッとした顔をしていた。


「それで?ヴィヴィはどうだったんだ?」


 カールの問いかけに私は答えたのだが……


「「「S……クラス!?」」」


 大きくなりそうな声に私は必死で人差し指を唇に当てシーのポーズをとった。

 Sクラスがどんなクラスかわからないが、いやわからないからこそ目立ちたくなかった。


「Sクラスって俺聞いたことないけど……アリーやトーマスは知っているか?」


 カールの問いかけにアリーもトーマスも首を振っていた。







 


 ついに魔術の授業の時間になった。


 私は指定された部屋に向かう。

 そう、指定されたのは教室ではなく魔術棟の最上階。それも一番奥まった特別室だった。


 ノックをして入室すると一人の人物が迎え入れてくれた。


「やあ、よく来たね。私がこれから君を担当するよ。自己紹介はもう一人の生徒が来たらしよう。そこへ掛けたまえ」


 勧められてソファーに腰を下ろす。迎え入れてくれた人はお父様ぐらいの歳の優し気な顔つきの男の人だった。

 程なくノックの音がしてもう一人の人物が入室してきたが


「ヴィヴィ!」


「ジーク兄様!あっ、王太子殿下」急いでカーテシーをしようとしたけどジーク兄様に止められた。


「王太子殿下って呼び方は禁止だと言っただろ。昔のようにジーク兄様と呼んでくれ」


「でも……」


「学院に身分の上下は無い、だろ。私はヴィヴィの幼馴染のジーク兄様だ」


 プレデビューの時にジーク兄様が王太子殿下だと知って寂しい気持ちになったけどもう少しの間はジーク兄様としての関係が続けられそうで嬉しかった。


 二人で先生の前のソファーに座る。


「改めて自己紹介しよう。私が君たちを担当するアルブレヒト・ビュシュケンスだ。と言ってもジークは引き続きということになるがな」


「そうですね。私はヴィヴィには自己紹介はいらないな」


 ジーク兄様が言うと先生はうんうんと頷いた。


「君たちは知り合いだったんだな。ルードルフの娘なら知っていて当然か」


「私ももう一人生徒が増えると聞いたときには疑問だったんだが、ヴィヴィなら納得だな」


 私は暫く大人しく二人のやり取りを聞いていたがハッと気づいて立ち上がって先生に礼をした。


「ヴィヴィアーネ・アウフミュラーと申します。よろしくご指導ください!」


 先生は微笑んで言った。


「三人しかいないクラスだから和気あいあいとやっていこうね」


 ジーク兄様が小声で呟いた。


「にっこり笑ってスパルタだろ」






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