一年生(2)
教室に担任の先生が入ってきた。
「アレクシス・エルトマンだ。教科は数学。では端から自己紹介してもらおう」
エルトマン先生はまだ若いきびきびした先生だった。一組は男子六人女子は私を含めて四人。四人しかいないので是非とも仲良くなりたい。
端の男子が立って挨拶を始めた。
「ヘンデルス・ロットナー。王国北東部のロットナー伯爵家の嫡男です」
そして彼はなぜか私の方を向いて礼をした。
「以後お見知りおきを」
よくわからないがとりあえず会釈をしておく。クラスメイトだし当然お見知りおきするよね?
数人おいてカールの番になり彼は勢いよく立ち上がって言った。
「カール・ダーヴィトです!十人しかいないクラスメイトなんだから俺はみんなと仲良くなりたい。みんなで学院生活を楽しもう!」
私は全く同感だったのでうんうんと頷いたが、みんなはなぜか彼が名前を言った途端騒めいた。最初に挨拶したヘンデルス様などは眉を顰めている。
うーん……何なの?
次が私の番だったので私は立ち上がった。
「ヴィヴィアーネ・アウフミュラーです。私もカールと同じで皆さんと仲良くなりたいと思います」
みんなはまた騒めきを見せた。訳が分からない。
一限目は自己紹介と諸注意事項、カリキュラムの説明等で終わったので、休み時間に私は早速カールに話しかけた。
「ねえカール、自己紹介の時なんか変な雰囲気じゃなかった?」
「あーそれは……うん、昼休みにでも話すよ。一部の人間は俺のことを気に入らないっていうか……そういうこと」
何がそういうことなのかわからないがその後は大人しく授業を受けお昼休みになった。
「さあカール、食堂へ行きましょう」
私は意気揚々とカールをお昼に誘ったのだがそこに邪魔が入った。
「ヴィヴィアーネ嬢、彼は君に相応しくない。食堂なら僕たちがお供しましょう」
見るとヘンデルス様とえーと……パウリーネ・フェルザー伯爵令嬢が立っていた。
ん?相応しくないってどういうこと?
「友達に相応しいとか相応しくないとかあるのかしら?クラスメイトなんだからあなたたちも一緒に行きません?」
私が話しかけるとパウリーネ様が眉を顰めた。
「私は平……ダーヴィト様と一緒に食事したくありませんわ」
「ヴィヴィアーネ嬢も彼との付き合いは控えた方がいいだろう」
「??どうしてですか?」
私の問いかけにヘンデルス様が答えるより前にカールが答えた。
「俺が平民の生まれだからだろ」
「え?それで?」私はますます訳が分からない。
カールはちょっとイラっとしたように言った。
「だから!俺は平民の生まれで赤ん坊の時に魔力が発現したんだ。それでダーヴィト男爵家と養子縁組したんだよ!別に恥じることでもないし隠してもいないけどな」
「カールの生まれはわかったわ。でもそれが友達にならない理由にはならないでしょ?」
「お前……」
「カールだって今恥じることでもないって言ったじゃない。私もそう思うわ」
私がこぶしを握って力説するとカールが噴き出した。
「ぷっ。まあいいや。お昼に行こう!」
そしてさも聞いていないふりをしてこちらを注目していたクラスメイトに向かって言った。
「俺とヴィヴィは一緒に食堂に行くけどほかに一緒に行きたい奴はいるか?」
カールの問いかけに皆は顔を見合わせたりしていたがそのうちに女の子が一人と男の子が一人名乗り出た。
「あ、あの……私も一緒に行っていいですか?」
「僕も……」
私もカールも大歓迎だ。
ヘンデルス様たちはまだ何か文句を言っていたが、私とカールは彼らと行かないと言っているわけではない。
「御一緒したければどうぞ」と言って四人で食堂に向かって歩き始めた。
ヘンデルス様とパウリーネ様は結局来なかった。
食堂に入ると空いている席を探す。窓際の四人掛けのテーブルがちょうど空いていた。
「あそこに座りましょうよ」
私はそのテーブルに座りすました顔で待っているとカールが呆れたように言った。
「やっぱりお嬢様だな。そこですましてても何も出てこないぞ」
「え!?」
私は慌てて周りを見回す。
入り口にほど近いところにカウンターがあり皆そこで何かを受け取っていた。
「あそこで自分の食べたいものを受け取るんだよ」
カールが説明してくれたが私は知っているふりをした。
「い、い、今行こうと思ってたのよ」
後ろの三人がクスクス笑っているけど気にしない!私はズンズン歩いてカウンターのところに行った。
メニューは日替わりでお肉料理のセットとお魚料理のセット、そのほかにパスタやサンドウィッチもある。セットはメイン料理のほかにスープとサラダとデザートが付いている。
私はお肉料理のセットを頼んだ。ちなみに食事代はかからない。学院で出る全ての食事は只である。
トレイに載せられた食事を慎重に運ぶ。初めての経験にドキドキした。
先ほどの席まで慎重に運んでテーブルにトレイを置いたときはホッとした。
にんまり笑って席に座る。一緒に来た女の子がグラスに入った水を持ってきてくれた。
「あっ、ありがとう。えーと」
「アライダ・トスパンですわ。ヴィヴィアーネ様」
「アライダ様、私のことはヴィヴィって呼んでね」
アライダ様は驚いたように私を見た。
「いえ、あの侯爵令嬢様を呼び捨てするわけには……」
私より早くカールが答えた。
「ヴィヴィがいいって言ってるんだからいいんだろ。こいつ気を遣うような奴じゃなさそうだし」
カールは打ち解けるのが早すぎると思う!なんかいつの間にか〝お前〟とか〝こいつ〟とか呼ばれてるし。私はカールを軽く睨んで言った。
「じゃあアライダ様、私もアリーって呼んでいいですか?」
「もちろんです!」
「よろしくお願いします。アリー」
「よろしくお願いします。ヴィヴィ」
二人で微笑みあっているともう一つ声が割り込んだ。
「あの~……トーマス・ビーガーです……トーマスって呼んでください……」
割り込んだのはいいんだけど声が小さくてよく聞こえない。トーマスって……の後はほとんど聞き取れなかったので想像力で補った。
「よろしくな、トーマス!!」
カールがトーマスの背中をバーンと叩いてトーマスがむせた。
ちなみにトーマスは一組で一番身体が大きい。カールより頭一つ分は確実に大きい。カールは割と小柄で私と同じくらい。アリーは私と同じくらいの背でちょっとふっくらした女の子だ。
学院初日で三人も友達ができた!
人生初の友達だ。私は踊りだしたいような気分だった。