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ヴィヴィ十一歳(5)


「ヴィヴィ、向こうに行こう」


 エルヴィンはヴィヴィを連れてホールの前方に向かった。

 王族の席にほど近いこの場所なら騒ぎを起こす者もいないだろう。


 プレデビューの者たちの国王への挨拶はもうすぐ終わりそうだ。

 終わればダンスが始まる。

(兄上は間に合いそうもないな。兄上には悪いけどヴィヴィのファーストダンスの相手は俺が努めよう)

 そうエルヴィンが考えた時だった。


「エルヴィン・アウフミュラー様、侯爵様がお呼びです」


 一人の侍従らしき人が声をかけてきた。


「父上が?何だろう」


 壇上の国王を見るがその傍に控えた父の姿は無い。


「エル兄様、早く行った方がいいわ」


「わかった。ヴィヴィ、ここを動くんじゃないぞ。ダンスまでには戻ってくるから」


 エルヴィンは足早に侍従らしき男とその場を離れた。





 ホールにほど近い一室に通されたエルヴィンは苛立っていた。

 そこで待っていると思われた父の姿はなかったからだ。


「戻る」


 言い置いてホールに戻ろうとしたが男に阻まれた。


「そこをどけ」


「もうすぐ侯爵様がいらっしゃいますので」


 エルヴィンが睨んでも男は飄々としている。


「あ、侯爵様がいらっしゃいました」


 扉を開けて入ってきた人物を見てエルヴィンは嵌められたと思った。


「やあやあお初にお目にかかる」


 入ってきたのは夫人を伴ったハンクシュタイン侯爵。そういえばあの男はただ侯爵としか言わなかった。勝手に父だと思ったのはこちらだが、通常は家名を言って「誰それがお会いしたいと言っている」という筈だ。ただ侯爵としか言わなかったのは明らかに誤解させるためだ。


 一応相手は侯爵夫妻でこちらは侯爵の息子、まだ学生に過ぎない。礼儀正しく挨拶をする。


「それでどのようなご用件でしょう?少々急いでいますので急用でなければ後日改めて」


 エルヴィンの言葉を軽く受け流しハンクシュタイン侯爵はのんびりと話し出す。


「まあまあエルヴィン殿。あ、エルヴィン殿と呼んでもよろしいかな?せっかくここで出会えたのだ。これからは両家の交流を———」


「失礼!またの機会に」


 エルヴィンは焦れて侯爵の言葉を遮り強引に部屋を出た。


 廊下に出たところでダンスの曲が流れ始めた。


「あちゃ~」フィリップにどやされるだろうな。と思いながらエルヴィンは駆け出した。

 何よりヴィヴィが心配だ。せっかくのプレデビュー、嫌な思い出にさせたくなかった。








 エルヴィンが行ってしまってからヴィヴィは暫くその場所で待っていた。


 国王への挨拶は終わり周囲の人々は動き始めた。ホールの中央はダンスフロアになり白いドレスを着た令嬢や胸に白い花を挿した令息たちがパートナーと共に続々と集まってくる。ヴィヴィは邪魔にならないように端に下がったが白いドレスを着た令嬢がダンスに向かわず一人立っている様はひどく目立ってしまっていた。

 国王への挨拶の時ヴィヴィの後ろを歩いていた女の子がヴィヴィを見て馬鹿にしたように嗤うのが見えた。



「それではプレデビューの方々にファーストダンスを披露していただきましょう」


 楽団の音楽が流れ始めるその時、ヴィヴィの前にすっと手が差し出された。

 その人物はパートナーが現れないヴィヴィにダンスを申し込もうとそわそわしていた男たちを牽制してヴィヴィの前に来ると優雅に手を差し出した。


「お嬢さん、私と踊っていただけますか?」


「ジーク兄様……」


 王太子の登場に周囲から声にならない悲鳴が上がる。


「ほら、曲が始まったよ。さあ踊ろう」


「はいっ!」


 ヴィヴィの手を取ったジークはホールの一番目立つ場所にヴィヴィを誘導する。

 まさかの王太子の登場に皆場所を空けた。


 音楽に乗って二人は踊りだす。

 ジークのリードは巧みでヴィヴィは背中に羽が生えたように感じた。


 見上げると大人っぽくなって男っぽくなったジーク兄様の顔がそこにあった。


「ヴィヴィ、綺麗になったね」


「ジーク兄様こそ……」大人っぽくなった……と言おうとしてヴィヴィは慌てて言いなおした。


「王太子殿下こそ——」


「ダメダメ。ヴィヴィはその呼び方は禁止だよ」


 ジークはヴィヴィの目を見つめて言った。


「昔のように呼んでくれ。敬語も無しだよ」


 昔のように?王太子殿下ではなくジーク兄様でいいの?


 ジークの瞳は昔からヴィヴィを落ち着かせる。なぜだかジークの青空のような澄んだ青い瞳はヴィヴィが一番安心できるものだった。


「来春、学院で待っているよ」


 ジークがヴィヴィを見つめたまま言った。






 ホールに駆け付けたエルヴィンは踊っているジークとヴィヴィがすぐ目に入った。

 なんていったって目立つのだ。ホール中の貴族の視線を釘づけにして二人は踊っていた。


 その場に立ち止まりエルヴィンはホッと息を吐いた。

 口元に笑みが浮かぶ。二人を眺めていると後ろから肩を叩かれた。


「兄上」


「なんでおまえじゃなくてジークがヴィヴィと踊っているんだ?」


 エルヴィンが肩をすくめ、さあ?というように首をかしげると


「ジークに一番いいところを持っていかれたな……」


 それは全く同感だったのでエルヴィンも大きく頷いたのだった。



 何かと騒動は起こったがヴィヴィはプレデビューを無事に終えた。




 これで第一章は終わりです。

 次は第二章魔術学院編になります。視点がほぼヴィヴィ視点になります。


 ここまでお読みくださってありがとうございます。

 気に入っていただけたら評価やブクマ等していただけるとめっちゃ嬉しいです。

 よろしくお願いします!

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