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ヴィヴィ十一歳(3)


 漆黒の絨毯の上をヴィヴィは背筋を伸ばして歩いて行った。


 周囲の貴族たちは騒めきヴィヴィたちに注目していることがわかったがあえて気にしていないように真っ直ぐ前だけを見ていた。ヴィヴィたちは前方の玉座に座る国王陛下の前まで進み壇上の陛下の前で止まった。


「国王陛下にご挨拶申し上げます。アウフミュラー侯爵家の娘ヴィヴィアーネ・アウフミュラーと申します。

 以後お見知りおきくださいませ」


 ヴィヴィのカーテシーに合わせ父と兄二人も頭を下げた。


「頭を上げてくれ」


 陛下の言葉に頭を上げヴィヴィは国王を見つめた。


「やっと会えたな。ルードルフご自慢の愛娘に」


 ヴィヴィから見た国王は豪奢な金髪を後ろに撫でつけた青空のような瞳の美しい男の人だった。歳は三十代の半ばくらい?優しそうで誰かに似ていた。


 いや、誰かというのはすぐわかった。国王の隣、王太子の席に座っているのは……


「王太子のジークハルトだ。ヴィヴィ、久しぶりだね」


 ヴィヴィの口がパッカーンと開いた。

 後ろからエルヴィンに小突かれて急いで口を閉める。


「ジーク兄様?」


 ヴィヴィのつぶやきにジークハルトは微笑みで答えた。


「ジークも世話になったな。こいつの宝物も守ってくれたと聞いた。礼を言う」


 国王の言葉にヴィヴィは慌てて答えた。


「い、いえ、お世話になったのは私の方です。ジーク兄様、あっ!王太子殿下にはいろいろな事を教えていただきました」


 国王は「それはよかった」と微笑むと


「まだ挨拶の者たちが沢山控えている。そのうちにゆっくり話をしよう」と締めくくった。


 ヴィヴィたちはその場を辞し、宰相のルードルフは挨拶を終えた後は国王の後ろに控える。



 二人の兄とその場を離れたヴィヴィはホールの片隅でエルヴィンに凄い勢いで問いただした。


「エル兄様!ジーク兄様が王太子ってどういうことですか?」


「え?あれ?俺言ってなかったっけ?」


「ジーク兄様は従兄弟だって」


「ああ、そうか。俺たちの母上とジークの母上は姉妹だったからジークは従兄弟だよ」


 衝撃の事実!何故誰も今まで教えてくれなかったのだろう。


 そう思ったところでヴィヴィははっと気が付いた。ヴィヴィのお母様は(多分、いや十中八九)兄様たちと違う。それはアウフミュラー家内で禁句のようなものである。だからエル兄様は言い出せなかったのではないか?

 

 シュンとしたヴィヴィにフィリップが話しかけた。


「ジークが王太子でも気にすることは無いよ」


「でもフィル兄様、私ジーク兄様が王太子殿下って知らなかったから何か失礼なことしちゃったかも?」


「あ、それは大丈夫だ。大体ジークに失礼なことをするのは俺の方だし」


 エルヴィンのフォローにヴィヴィは「兄様たちは従兄弟だから」という言葉を飲み込んだ。

 

「うん。もう気にしないことにします」


 侯爵令嬢という身分からすればジークと今後も関わり合いがあるのかもしれない。でもジーク兄様と呼んでいたあの頃とは変化してしまうのだろう。ヴィヴィはそれが少し寂しかった。


 ホールの前方を見ると今は男爵家の人達が国王に挨拶している。伯爵家までは一人ずつの挨拶だが、それ以下は数人づつ纏まっての挨拶となる。男爵家の後は爵位持ちではない貴族たちの挨拶が続く。

 もう少し時間がかかりそうだった。


「何か軽く食べようか」


 フィリップの提案で三人が軽食のコーナーに移動しようとしたとき大勢の令嬢が押し寄せてきた。


「フィリップ様!お久しぶりです。ハンクシュタイン侯爵家のゲルトルートですわ」


「フィリップ様、アナベル・レッダーです。お会いしたかったですわ」


「なかなか夜会に出てきてくださらないんですもの。寂しかったですわぁ」


「エルヴィン様!同じ学年の———」


「エルヴィン様!二学年の———」


 グイグイ来る女性陣に押されてヴィヴィはどんどんホールの隅の方へ追いやられていった。


(ふうっ兄様たち凄い人気……)

 ヴィヴィとてタウアー夫人に少しは会話術を習ったし同年代の女の子と話をするのを楽しみにしてたのだが彼女たちはヴィヴィと話す気はなさそうだ。


 しょうがない、兄様たちと離れて会話できそうな人を探そうかと思ったのだが辺りでこちらを窺っていた人たちはヴィヴィが近づこうとするとジリジリと後ずさりする。巻き込まれたくないと言うように。


 その時ジュースのグラスを持った一人の令嬢が近づいてくるのが見えた。










 国王陛下への挨拶はひどくあっさり終わった。

 ジモーネは不満たらたらである。


 前のアウフミュラー侯爵家の人達とは国王陛下は楽し気に話をしていたのにジモーネの挨拶に対しては

「うむ、学院に入学したら勉学に励んでくれ」と言ったきりだ。

 せめて王太子殿下ともお話をしたいと思ったのに王太子殿下は一言も喋らずジモーネ達は早々に下がらなければならなかった。



 陛下の御前を辞したところで姉のゲルトルートが声をかけてきた。


「ゲルトルート、遅かったではないか」


 ゲルトルートは直前でやっぱりドレスが気に入らないと騒ぎだし着替えに行ったので後から来るように言い置いてハンクシュタイン侯爵たちは王宮に向かったのだった。


「そんな事より、お父様!フィリップ様がいらしてるではありませんか!!」


「あ、ああ。私たちの前にいた」


 ゲルトルートの勢いにタジタジしながらハンクシュタイン侯爵が答える。


「あの女は誰なんです!?」


「アウフミュラー侯爵家の娘だと言っていたぞ」


「フィリップ様に妹がいるなんて聞いたことがありませんわ!」


「だってあの娘はフィリップ様にもエルヴィン様にも似ていないわ!」


 娘二人の勢いにハンクシュタイン侯爵は押され気味である。


「それは私もそう思うが……」


 その時ゲルトルートは少し離れた場所に一人の令嬢を見つけた。

 ホールの片隅でひっそりと立っていた令嬢のもとへゲルトルートは妹ジモーネと彼女の取り巻きの令嬢たちを従えて向かった。




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