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私の望み(1)


 お母様が旅立って数か月、私は変わらぬ日々を送っている。

 

 東の離宮は今住んでいるのが私だけになりなんとなく寂しい。お母様とお茶をすることがなくなって私は足繁く北の離宮に通っている。

 ディーは変わらずに遊びに来てくれるのでとっても癒される。

 

 お母様がいなくなり一月後にビュシュケンス侯爵夫人もリードヴァルム王国に旅立ったのでエミーリア側妃様がゴルトベルグ公爵夫人と共に社交を頑張っている。私もそこに偶に混ぜてもらう。

 心を入れ替えたらしい(?)ハンクシュタイン侯爵夫人とゲルトルート様も協力してくれるらしいが


「悪い人ではないのよ……多分」


「そうね。高飛車で嫌みでうざ……コホン、悪い人ではないのよ……きっと」


 と微妙な評価だ。

 わかります。ジモーネ様を見れば。



 お母様が計画していた国民学校は概ね軌道に乗り先日王国北東部の山間地、リッケルト男爵領に第一校が開設した。山間ののどかな地で農業や酪農、狩りで生計を立てている領民は識字率が低い。大人も子供もこの学校に通うそうだ。ただ、生活もあるので毎日は通えない。地道に教えていくことになるようで最初のケースとしては難しいがここで成功すれば他の領でも手を上げるところが増えるだろう。


 リッケルト男爵領に決定したのは男爵子息のエーリクが私の元のクラスメイトだからだ。竜の森の研修で学院に行っている時に国民学校の話をしたらすごく乗り気になってお父様にすぐ手紙を書いたそうだ。

 リッケルト男爵からアプローチがあり第一校に決定した。


 開校の日はジークとリッケルト男爵領を訪れ歓待を受けた。

 エーリク様は学院に行っているので不在だったが彼のお父様やお母様とエーリクの話で盛り上がったりした。





 そしてお母様と手紙のやり取りをしながら日々を過ごし私は自分の中にある欲求が生まれてきたのを感じた。

 日々を過ごす中でその欲求は日増しに膨らんでいく。




 とうとうその気持ちを持て余した私は国王陛下に面談の申し入れをした。


 本当は一番にジークに相談にのって欲しかった。

 でもなぜかこのところジークに会えないのだ。自分の気持ちが膨れ上がりそれでもまだ形をとる前だった十日ほど前までは頻繁にジークに会っていた。

 ジークはお母様が旅立って以来私が寂しくないようにと事あるごとに離宮を訪れ私と時を過ごしていた。フィル兄様も顔負けなほど甘い言葉を囁き「早く結婚したい。秋に僕たちも一緒に結婚式を上げようか」などと言うので困ってしまう。でも不思議なことにフィル兄様が「僕のヴィヴィ、今日も可愛いね」などと言って私とハグをするのを止めないのだ。今までは必死で引きはがしていたのに。


 結局引きはがすのはレーベッカの役目でレーベッカは「とっても格好いいフィリップ様、外聞がございますからヴィヴィアーネ殿下から離れてくださいませ」と言って「うるさいな下僕」と返され眉を吊り上げている。


 そんな日常だったのに十日ほど前からぱったりジークに会えなくなった。

 私の気持ちがかたまってジークに相談しようとした矢先のことだった。

 それから一週間、なかなかジークに会えないので私は陛下に面談を申し入れた。面談の際にはお父様も同席して欲しい事を伝えた。



 そして長い時間陛下と話し合った。お父様に助言も貰った。

 ジークとよく話し合ってからという条件付きだが了承の返事を貰って陛下の元を辞す。


 廊下をアロイスと歩いているとその先にジークが立っているのが見えた。


 あんなに会えなかったのにこのタイミングで会うなんて!と駆け寄るとフィル兄様が先にハグをして私に言った。


「ヴィヴィ、会いたかったよ。この拗ね王子がヴィヴィを避けるから僕までヴィヴィと会えなかった」


 え?私避けられていたの?タイミングが悪いだけだと思っていた。


「私何かした?ジーク私の事嫌いになっちゃったの?」


「ちがっ!!僕がヴィヴィを嫌いになる筈がないだろっ!!」


「こいつはね、ヴィヴィから決定的な言葉を聞くのが怖いんだ。決定的って言っても結局はこいつの元に戻ってくるのにな。『待て』が出来ない奴なんだ」


 フィル兄様の言葉に私は息を呑む。気づかれていた。ジークだけでなくフィル兄様にも。


「とっても格好いいフィリップ様、王太子殿下をこいつ呼ばわりするのは不敬ですわ」


 レーベッカの苦言を受け流してフィル兄様は続ける。


「結局こいつが意気地なしだから陛下に相談に行ったんだろう?今からこいつととことん話し合うといいよ。今日の公務はすべて終わりにしてきたから」


 フィル兄様に促されジークは私の前に立つ。


「ごめんヴィヴィ、君の気持には気が付いていたんだ。でも僕ははっきりと告げられるのを避けた。君は僕に無断で事を推し進めたりはしないだろうからこのまま時が過ぎれば時機を逸して君の考えも変わるだろうと考えた。ごめん……」


「ここでいつまでも話していても人目もあるし落ち着かないだろ、東の離宮に行ったらどうだ?」


 エル兄様が横から口を出し私たちは私の部屋に移動した。


 そして久しぶりにジークと二人きりになり遅くまで話をした。

 フィル兄様も一緒に話をすると思ったらあっさり帰るという。


「僕のヴィヴィ、言ったろう『僕も可愛い妹がいて幸せだ。君がどこに居ても僕は君の幸せを祈ってる』って。僕は君が望む事なら何でも全力で叶えるよ」


 帰り際にそんな言葉を残しフィル兄様が帰るとレーベッカも部屋を後にした。

 エル兄様やアロイス、護衛騎士の人達は部屋の外で警護をしている。私とジークは婚約者同士、二人きりで居ても問題ない。


 ジークは私を抱き寄せ口づけを交わし「もっと早くに結婚の日取りを決めておけばよかった」と囁いた。

 私はジークの胸に顔をうずめながら「私が一番安心できるのはこの腕の中なの。この場所は他の人に渡さないでね」と言った。


「だったら……いや、うん、この腕に抱くのは君だけだ。懐が寂しいから早く帰ってくるんだよ」と私の我儘を許してくれた。


 私たちは話をし、抱き合い、口づけを交わしながら長い夜を過ごした。



 

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