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オリヴェルトの訪問(3)


 お母様とオリヴェルト様は翌朝もう一度国王陛下に連絡を入れ陛下の元を訊ねた。


 陛下と話し合いを繰り返しその後会議を経て様々な事が決定した。

 お母様は今年の秋に両国が更に絆を深めるためにリードヴァルム王国の国王(もちろんオリヴェルト様のことだ)に嫁ぐ。

 結婚式は秋にお母様とオリヴェルト様が竜と契約を結んだそのすぐ後に我が国で、次いでリードヴァルム王国で盛大に行われる。

 そしてそれまでの期間、お母様は婚約者と仲を深める、またリードヴァルム王国の視察という名目でリードヴァルム王国に滞在する。


 つまりお母様はオリヴェルト様の十日間の滞在の終わりと共にリードヴァルム王国に行ってしまうのだ。

 様々な事が決定するまでに五日かかったので後五日後にはリードヴァルム王国に旅立つ。


 この秋まではヴェルヴァルム王国の王女という立場であるので基本的には護衛や侍女、専属メイドなども一緒に行く。


 現在お母様付きの者たちは物凄いスピードで旅支度をしている。


 それからリードヴァルム王国駐在大使が決定した。

 なんとアルブレヒト先生……じゃなかったビュシュケンス侯爵だ。

 ビュシュケンス侯爵たっての希望らしい。彼は十五年前のユリアーネ王妃様の事件以来領地に引っこみ主だった役職についていなかった。

 ジークが学院に入学して以来学院で教師を務め私も教えてもらい現在はお母様の魔術の教師をしている。昨年の戦いでは総大将を務めたが戦いが終わった今では彼が大使になるのはちょうどいい人選かもしれない。

 夫人もお母様と仲がいいのでお母様も心強いだろうしビュシュケンス侯爵家は既に養子に迎えた嫡男が領地経営をしているので問題ないらしい。



 私は……私はお母様の結婚をもって一度はリードヴァルム王国の王女となる。

 リードヴァルム王国の王女としてヴェルヴァルム王国の王太子であるジークの元に嫁ぐことになる。

 その日取りはお母様とオリヴェルト様の結婚式後に決められることになるがだいたい一年後ぐらいだと思っていて欲しいと言われた。


 その一年、リードヴァルム王国に行くかこの国に残るかは秋までに私が決めればいいらしい。

 でもジークからは結婚式の準備も色々あるし当然この国に残るよねという目で見られている。

 この国の王族としても仕事があるしお母様が計画していた国民学校の事業は私が引き継ぐことになるだろう。


 私は——ちょっとややこしいのだが、立場上は再婚したお母様の連れ子という扱いになる。でも顔はお母様似だとしても髪はお母様の金髪とオリヴェルト様の銀髪のちょうど中間のような色味で瞳の色はオリヴェルト様と同じ、何より私の竜は白竜なのでオリヴェルト様の子供だということは皆がわかっているだろう。





 お母様の支度でバタバタしている中、北の離宮のお婆様に挨拶に伺った。


 お婆様は季節の変わり目などに体調を崩すことも増え少し弱ったように感じられるが、お母様に笑顔を向けていった。


「マリアレーテ、あなたが生きていてくれてヴィヴィアーネという孫に会うことが出来てこんなに嬉しいことは無いと思っていたのに、今度はあなたの花嫁姿を見せてくれるのね。あなたはどれだけ私を喜ばせてくれるの?」


「お母様……」


 お母様の目は潤み始めている。


「私も天涯孤独と思い育ってきましたがお母様に会うことが出来てこんなに嬉しいことはありませんでした。隣国に嫁ぎますが竜と契約すれば二日で帰ってくることのできる距離です。きっとまたここにお茶を飲みに参りますわ。お母様がお健やかに過ごされることを祈っております」


「ふふっ待っているわ。ヴィヴィアーネ以外の孫の顔も拝ませてちょうだい。あら、ヴィヴィアーネの子供が出来てひ孫の顔を見るのもいいわね。最近はディーも遊びに来てくれるのよ。子供の声って若返りの妙薬かしら。私は元気に暮らしているから安心してリードヴァルム王国にお行きなさい。秋にまた顔を見せてちょうだいね」


 お母様とお婆様はしっかりと抱き合いお婆様がお母様の頬に頬ずりした後その手を離した。


 私はお婆様がヴィヴィアーネの子供と言い出した時点で顔が赤くなり「気が早すぎます」とブツブツ言っていたがお母様とお婆様の抱擁を見てじんわり涙が浮かんできたのだった。





 そうこうするうちにお母様が出立する日になりお母様はオリヴェルト様たちと隣国に旅立っていった。


 リードヴァルム王国建国以来、ソヴァッツェ山脈の交易路は再び開かれておりリードヴァルム王国との行き来は民間の隊商を含め盛んになりつつある。王宮同士を結ぶ竜便(竜による郵便)も開設されたのでお母様とお手紙は頻繁にやり取りすることを約束した。


 それでも……それでもお母様と離れ離れになる事はとても寂しい事だった。


『おとうさん』が家を出て以来ずっとお母様が私に寄り添ってくれていたのだ、記憶が無い時も記憶が戻ってからも。

 

 お母様とずっと抱き合って別れを惜しんだ。でもとってもとっても寂しいけれど辛くはない。

 お母様がリードヴァルム王国に旅立つのは幸せになるためだから。ずっとずっと待っていた『おとうさん』とこれから先の時を一緒に刻むためだから。


 オリヴェルト様はずっと抱き合っている私とお母様を見て「やっぱりヴィヴィも一緒に来ないか?」と小声で言っていた。

 そしてやっとお母様と離れた私におずおずと「私も抱きしめていいか?」と聞いた。


「もちろん」とオリヴェルト様に抱き着くと「ああ、片手で抱き上げていたヴィヴィがこんなに大きくなったんだなあ」と感慨深く呟き「やっぱり一緒に……いや、嫁になんか……」と小さい声で言っている。



 ひとしきり別れを惜しんだ後、オリヴェルト様は陛下と握手を交わし、ギリギリと音がする勢いでジークとも握手を交わし、お母様は陛下やお婆様とハグをして馬車に乗り込んだ。

 馬車に乗り込むときにお母様はお父様(アウフミュラー侯爵)に頭を下げた。お父様もお母様に目礼を返す。


 お母様のお付きの人達やリードヴァルム王国の御一行の皆さんもそれぞれの馬車に乗り込み護衛隊長のユストゥス様が陛下に言った。


「それでは行ってきますねー。道中の安全は俺がいるんで万全でーす!あ、あっちの国に行ってもマリア様の安全はしっかり守りますから陛下もヴィヴィ様も安心してくださいねー」


 なんとも気の抜けた挨拶を最後に一行は旅立っていった。









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