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卒業とデビュー


 卒業式は滞りなく終わり後は卒業パーティーだ。


 卒業式では五年生の主席の方がスピーチしていたが面識はない。私も一組のみんなと卒業したかったなあ……なんてチラッと思ったけどすぐに否定した。来年の卒業だったらルーナに会えなかったのだ。一年前倒しになったからこそ私はルーナと契約を結ぶことが出来た。そう考えると運命の不思議を感じる。



 卒業パーティーは楽しかった。

 私は五年生がすべて入場した後、最後に入場したのだがとても大きな拍手に迎えられた。


 ジークとファーストダンスを踊った後はずっと一組のみんなと話をしていたらフィル兄様に拗ねられた。


「僕と踊る約束をしていたのに……」


「ごめんなさいフィル兄様、忘れていたわけではないの」


 慌ててフィル兄様と踊る。

 フィル兄様は満面の笑みを浮かべ私をリードする。


「ヴィヴィ、幸せになるんだよ」


 ポツリとフィル兄様が呟いた。


「え?なあに?私は幸せよ。ねえ知ってる?私はお母様が一人、お父様がなんと二人、優しいお兄様が二人もいるの。こんな幸せ者は大陸中探してもあんまりいないと思うわ」


「ふふっそうだね。僕も可愛い妹がいて幸せだ。君がどこに居ても僕は君の幸せを祈ってる」


「へんなフィル兄様。私はどこへも行かないわ」


「そうだった。ごめんよヴィヴィ。これからもよろしくね」






 フィル兄様は私と踊った後令嬢たちに囲まれてしまった。

 パーティーでも踊らないフィル兄様が踊った姿を見て私とも踊って欲しいという令嬢が押し寄せたのである。

 

 私は一組のみんなのところに戻って話に花を咲かせた。


 リーネはやっと領地も落ち着いたのでこの冬はフェルザー伯領に帰ることが出来ると喜んでいた。


 アリーとカールはやっと婚約を結んだそうである。


「なんだよ、驚かないのか?」


 とカールが聞くので


「カールがアリーのことを好きだって気が付かなかった人いる?」


 とみんなに聞いたらみんなぶんぶんと首を振った。


「だいたい去年の竜の森研修の……もがっ」


 トーマスに口を塞がれた。夜中に見てしまったことは言うわけにはいかない。ごめんトーマス、口が滑るところだった。


 そのトーマスにも彼女が出来たと聞いた。

 一つ下の学年の可愛い子でお父様は王立病院のお医者様らしい。騎士コースの鍛錬の後によく差入れを持ってきてくれるそうだ。


「姉上のお見舞いに行って知り合ったんだ」


 真っ赤な顔をしながら小さい声でこそっと教えてくれた。


「ヴィヴィが来年一緒に卒業できないのは寂しいわ」


 アリーが思わず言うとみんなも頷く。

 私も同じ気持ちだ。私は一足先に卒業してしまうけれどこの仲間は永遠にクラスメイトだ。


「来年、俺たちの卒業式に来てくれよ」


「そうだよ、もう一度一緒に卒業しよう」


 カールが言いだしヨアヒムが相槌を打つ。


「今年フィリップ様が来賓で来られたようにヴィヴィも来年来賓で来れるんじゃないか?」


 ヘンデルス様もそう言うので私は来年みんなの卒業式に来ることを約束して別れた。



 





 卒業式が終わり王都に帰ってからも二日ぐらいは余韻を引きずっていた。


 みんなに会えて嬉しい気持ちと一足先に卒業してしまった物悲しい気持ち。この一年半ほとんど会っていないのに変わらない友情に安堵する気持ち。いろんな思いが混ざり合って呆けていると遊びに来たディーに心配された。


「ディー、もうちょっと大きくなったらディーもヴァルム魔術学院に行くでしょう?」


 コクンとディーが頷く。


「学院に行ったらいろいろな人と知り合っていっぱいお友達を作ってね」


「ヴィヴィ姉様もいっぱいお友達がいるんですか?」


「そうよ。宝物みたいな大切なお友達なの。みんなのおかげで学院生活がとってもとーーーっても楽しかったの。嫌な人がいても嫌なことがあっても素晴らしいお友達がいたから振り返ってみると学院生活はキラキラ輝いて見えるの」


「ふわーーー!いいなあ。僕もそんなお友達ができるかな」


「できるわ。ディーはとってもいい子だもの。たーーーっくさん友達ができるわ」


「ヴィヴィ姉様、僕、学院に行くのが楽しみです。それまでお勉強頑張ります!」


 私はディーの頭を撫でた。本当は頭を抱え込んでグリグリと撫でまわしたかったのだがディーの髪の毛がぐしゃぐしゃになるのでどうにか耐えたのだった。








 プレデビューの夜会はいつにも増して盛大だった。


 もともとこの夜会は冬の社交界の始まりで出席率は高い。

 プレデビューする初々しい子たちが挨拶に来る間は王族として壇上で迎える。

 彼らは春になったら学院に入学するのだ。

 

 いいなあ、もう一度一年から学院を楽しみたいなんて年寄りじみたことを考える。別に王宮生活が辛いわけではないけれど私の根っこは平民のヴィヴィなのかもしれない。自由に友達と馬鹿なことを言い合ったり競い合ったりたまには喧嘩したり女の子同士でお喋りしたり、身分の違いも取っ払って。そんなことが楽しいのだ。おしゃれをしたり宝石を買ったり夜会でダンスを踊ったりするよりも全然楽しい。

 でもそんなことは言っていられないのだろう。私は学院を卒業した。もう成人したのだ。これからは公務も始まるだろう。


 ふと隣を見た。ジークは私がジークを見つめているのに気が付いてニコリと微笑んだ。


 そうね、私にはジークがいる。

 もちろんフィル兄様やエル兄様、お父様やレーベッカ、アロイス。

 学院の友達とは違うけれどみんな大切な大切な人たちだ。

 

 そしてその彼らとは離れてしまう時が来るかもしれないけれどそれでもジークだけは絶対に傍にいてくれる。いくつになっても何年たってもジークは傍にいてくれる。


 ジークの笑顔を見たらなんかすごく安心感が広がった。


 プレデビューの令嬢令息が会場を後にした夕暮れ時。


 ここからは本当の夜会だ。


 私は上品なおとなしめのドレスから華やかなドレスに着替える。


 ラベンダー色のプリンセスラインのドレスは大きく広がったスカートのドレープの下からふわふわのオーガンジーが覗き腰のあたりに大きなリボンが付いている。縁取りや胸の刺繍は金糸でとても華やかだ。


 ジークにエスコートされて陛下やお母様と壇上に姿を現すとわっと歓声が聞こえた。


 今回の夜会は戦勝記念パーティーでもある。

 昨日から王都はお祭り騒ぎで今日は王都の中心にある噴水広場で民衆に祝い酒も振舞われているそうだ。


 国王陛下のお言葉で夜会第二部が始まった。


 国王陛下は今回の戦でヴェルヴァルム王国軍が快勝し国の平和が守られたこと、トシュタイン王国が滅び新しくリードヴァルム王国が誕生したこと、その国とは友好な関係を築いていきたいこと、それらに尽力してくれた多くの者たちにお礼を言いたいことなどを話された。特に戦場で命を懸けて戦ってくれた騎士たちをねぎらった。

 そして最後の最後に付け加えた。


「最後に今回の夜会は戦勝記念の夜会であるが王族でジークハルトの婚約者でもあるヴィヴィアーネのデビューの夜会でもある。ファーストダンスは彼らに任せたい」


 え?陛下?聞いてません。え?何言っちゃってくれてるの?


 私はこの夜会が本当のデビューになるけれど戦勝記念の夜会だからこっそり目立たずデビューを終わらせることが出来ると安心していたのだ。


 ジークが微笑みながら手を差し出す。


 ファーストダンスは何度か踊ったけれどプレデビューの人達全員とか卒業生全員とかだったから衆人環視の中で一組だけ踊るというのはもの凄く緊張する。


 あーーー、もう!ジーク足を踏んだらごめんね!の微笑みを返してジークの手を取った。


 何とかやり終えました。ジークの足は踏みませんでした。昔何度も足を踏まれながらダンスを教えてくれたフィル兄様に感謝です。


 やっと終わって観衆にお辞儀をしながらホッと息を吐く。


 この後は壁際に下がって何か食べようかと思ったら、王族はそんなことはしないらしい。壇上の席に戻るか挨拶に来る人達と歓談をするかお誘いに応えてダンスを踊るか。


 ジークは早々と令嬢に囲まれている。

 そして私はダンスに誘われた。

 なんとお父様に!


 めっちゃ嬉しくてルンルンと踊ってしまった。


「あんなに小さかったヴィヴィアーネが立派なレディになったな」


 お父様が目を細めて笑う。お父様は私が王族とわかってからはずっと宰相として私と接していた。兄様たちは私と距離感が変わらなかったけれどお父様は私を『殿下』として扱った。でも今この時だけは、ダンスを踊り二人しか話が聞こえない距離で『お父様と娘』として話をしてくれた。そのことが嬉しかった。



 結局私はその後またまた酔っ払ったアルブレヒト先生……じゃなかったビュシュケンス侯爵や、またまた拗ねたフィル兄様、フーベルトゥス騎士団長とまで踊ってアロイスに目を剥かれていた。




 沢山踊ってくたびれ果てた次の日、国王陛下に春先にオリヴェルト様がこの国を訪れると告げられた。

 






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