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学院へ


 王国騎士団が凱旋した二日後、慌ただしく私は学院に向かう。


 卒業式のためだ。一年早いとは言えついに私は学院を卒業するのだ。


 王宮に住んで以来学院に向かう時はアロイスの竜に乗せてもらっていた。ルーナと契約した後は王宮に帰って来てからそのままペーレント伯領に向かってしまったため学院にルーナに乗って行くのはこれが初めてなのだ。

 アリー、カール、トーマスや一年生の時のクラスメイトにルーナを紹介したい。

 

 みんなに会える喜びで私は頬が緩みっぱなしだ。


 今回は随行者が多い。アロイスはいつもの事。ジークは卒業パーティーのパートナーとして絶対に行くと言っているので理解できるが謎の「父兄枠だ」との言葉でフィル兄様も行くのがわからない。フィル兄様の卒業の時には私はおろかお父様だって出席しなかった。学院は遠いのであまり父兄は卒業式に参加しない。卒業パーティーでは卒業生はパートナー必須だが学院が遠くて出席できないパートナーの代わりを在校生が務めることもある。

 おまけにジークの護衛でエル兄様も同行する。

 私の身支度のためにレーベッカまで一緒に行くと言い出した。そうしたらお母様がヴィヴィの身支度は私がずっとしていたので卒業パーティーもメイドのマリアとして身支度を整えたいと言い出した。流石にお母様はまだ竜と契約していないので馬車で学院に向かうしかないのでそれは却下された。しかしレーベッカは一緒に行くという。他の護衛も合わせ結局十頭の竜で学院に向かうことになった。



 学院の竜場に降りようとするとものすごい数の生徒の姿が見えた。

 歓声が聞こえる。


 十頭の竜で学院の竜場に降り立つ様は壮観だろう。先頭は黒竜と白竜だ。


 ルーナから降りると学院長が近づいて来た。


「ようこそお越しくださいました。王家の黒竜と伝説の白竜が並び立つ姿をこの目で見る日が来ようとは……感激のあまり言葉もございません」


「あ、いえそんな、私は卒業式に——」って……


 学院長が頭を下げているのはルーナとイグナーツだった!

 私とジークはおまけかい!


 学院長の横をすり抜け私はアリーたちの元に走り寄った。


「ヴィヴィ、おかえりなさい!」


「久しぶりね!元気だった?」


 アリーやリーネと抱き合ってトーマスと握手を交わす。


「はははは」


「どうしたのカール?いきなり笑ったりして」


「違う!!はは白竜って……お前……白竜って……」


「あ、ルーナを紹介するわね。私の白竜の名前なの」


 私はみんなをルーナの近くに連れて行った。一組のみんなだ。他の生徒たちは羨ましそうにそれを見ている。



 と言っても触れられるほど近くではない。契約者以外の人が竜に近づくのは危険だから。


「ふわーーー!私白竜なんて初めて見たわ。こんな近くで見られるなんて!」


「安心しろ。みんな初めてだ。しっかしなんかみんな冷静じゃないか?」


 感激するアリーたちの言葉を聞きながらカールが不思議がるとアリーが言った。


「だってヴィヴィだし」


「そうよヴィヴィですもの。想定の範囲内ですわ」


 リーネが同調するとなぜかカールが納得した。


「そうかヴィヴィだもんな」


「え?え?どういうこと?」


 私は訳が分からない。ヘンデルス様が苦笑しながら言った。


「一年の時からヴィヴィには驚かされてばかりだから今更何が起こっても私たちは耐性が付いているんだ」


「ヴィヴィ!」


 ジークの呼び声が聞こえた。

 学院専属の従者が私たちを案内してくれようとしている。

 今更慣れ親しんだ学院で案内なんていらないしこれから学院の偉い人たちとお茶を飲んだりしなくてはならないんだろう。

 竜の森の研修の時は免除されていたけど今回はジークも一緒だ。

 まあこれも王族となってしまった務めだと諦めた。


 みんなにまた後で会おうねと約束してジークの元に駆け寄った。






 学院長を始めとする学院の偉い人たちの歓待を学院長の応接室で受けてから私たちはやっと部屋に戻ってきた。


 既に学院のメイドたちの手を借りてレーベッカが部屋を整えてくれている。


 部屋に戻ってすぐにジークとフィル兄様が訪ねてきた。


 今回も私とジークは学院の貴賓室に滞在する。護衛や従者の部屋も近い。それとフィル兄様も貴賓室の滞在だ。フィル兄様は護衛や従者ではなく王太子筆頭補佐官という肩書でもなくアウフミュラー侯爵家の次期当主として来賓になるそうだ。必死でその立場をもぎ取ったと言っていた。


「ジークのお供じゃなくて来賓だからパーティーの時にヴィヴィと踊ることが出来るよ。夢だったんだ、ヴィヴィの卒業の時に一緒に踊るのが」


 嬉しそうにフィル兄様が言う。私も嬉しい。私がダンスを練習していた時に相手を務めてくれたのはいつもフィル兄様だった。足を踏んだのはフィル兄様が一番多い。


「踊ってもいいけど一番は私だからな」


 ジークが私を引き寄せながら言う。

 あれ?エル兄様がいない。


「ああ、エルヴィンは旧校舎にすっ飛んで行ったよ。学院ならそんなに危険はないからエルヴィンには休暇を与えたんだ。ほかの者たちも自由にしていいと言ってある。私の傍には一人居ればいいから」


 あ、そうか。エル兄様はナターリエ様に会いに行ったのね。ジークの近衛になれたのだからナターリエ様と結婚するのかしら?それともナターリエ様はまだ学院で研究を続けたいんだろうか?


「エルヴィンとナターリエ嬢の結婚は来年の夏に決まったよ。ナターリエ嬢は王都の魔術院に勤めるそうだ」


 フィル兄様の言葉に私は喜んだ。

 んーーーでもそれと同時に心配。フィル兄様は自分の結婚のことを考えているのだろうか?





 フィル兄様はもの凄くモテる。

 侯爵家筆頭であるアウフミュラー侯爵家の嫡男で自身も王太子筆頭補佐官。

 頭脳明晰で長身、素晴らしいプロポーションの上に少し甘い雰囲気の整った美しい顔が乗っている。くせ毛の濃茶の髪を今は短く整えエメラルドのような柔らかな瞳。


 どこまでも完ぺきなのに二十四歳になる今まで浮いた噂一つない。


 学院に在学中のことは私は知らないけれど卒業後は私と領地に引きこもっていた。王宮に出仕した後はほとんどパーティー等には出席せず、ジークが成人した後はジークの後ろに控えているのでパーティーに出席しても誰かと踊ったりしないらしい。


 私はじーーーっとフィル兄様を見つめた。


「ん?ヴィヴィ、僕に見とれてどうしたの?そりゃあ僕はいくら見ても飽きないくらい格好いいけどヴィヴィに見つめられると照れるなあ」


「違うわフィル兄様。もちろんフィル兄様は完璧に格好いいけど……フィル兄様って好きな女性はいないの?」


「いるよ」


 私の問いかけにフィル兄様は速攻で答えた。


「もちろん君だよ。僕のヴィヴィ」


「ちがーーーう!!」


 私が叫ぶのとジークが私を抱き寄せて「私のだ!」と叫ぶのが同時だった。

 レーベッカが後ろからポコーーンとトレイでフィル兄様を叩いた。




 レーベッカは一瞬自分の行動に驚いて固まったがすぐに深々と頭を下げた。


「申し訳ありません!!私はフィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官になんて失礼を!!どのようなお叱りでも受けます」


 深々と頭を下げたままのレーベッカを見つめてフィル兄様は微妙な顔をした。


「いや、いい突込みだったと私は思うよ」とジークが笑いながら言う。


「レーベッカの意外な一面を見たわ」と私も笑いながら言うとレーベッカは頭を下げたまま言った。


「いえ、私は……高位の方にこんな失礼をするつもりは……本当に申し訳ありません。どのように償えばよろしいでしょう……やはり職を辞してお詫びするのが——」


「え!ちょっと待って!そんな大げさな!」


 私は慌ててレーベッカを止めた。黙ったままでいるフィル兄様を見つめる。


「レーベッカ・アージンガー子爵令嬢、頭を上げてくれ」


 フィル兄様が冷ややかな声で言った。


 あら、いつものフィル兄様と声のトーンが違う。

 小声でジークに言うとジークは「ヴィヴィと一緒じゃないときはフィリップはいつもこんな感じだよ」と苦笑していた。

 フィル兄様は普段はとってもクールなんだそうだ。甘めの顔立ちでとっても優しそうで、実際言葉はソフトなんだけどどの令嬢に対しても礼儀の範囲でしか応対しないそうだ。




「じゃあ罰を与えるよ。まずこれから僕のことを『とっても格好いいフィリップ様』と必ず呼ぶこと。間違ってもフィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官などと呼ばないように。それから僕のヴィヴィに抱き着いても眉を吊り上げないこと。あとはーーあ、僕は君のことを下僕と呼ぼうかな」


 やっぱりフィル兄様はフィル兄様だった。

 フィル兄様の言葉を聞いたレーベッカは反応に困っている。


「そんなことでは罰になりません」と反論したが


「十分罰になると思うけど?ほら早く『とっても格好いいフィリップ様』って言って?」


 と促され悔しそうに「承知いたしました、と……っても……恰好良い……フィ、フィリップ様」と言った。


「はい、もう一度」


「とってもか格好いいフィ……リップ様」


「もう一度」


「とっても!格好いい!フィリップ様!!」


「よくできました。下僕と呼ぶのは勘弁してあげるよ」



 フィル兄様とレーベッカは相性最悪だと思っていたけど意外と相性良いかもしれない。





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