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クーデター(2)


「竜です!!竜が再び竜が襲ってきます!!」


 悲鳴のような見張りの声にオリヴェルト達は立ち上がった。

 全軍を纏めオリヴェルトが先頭に出る。


 密集した方がいいのか分散した方がいいのかの判断もまだ付かないままだ。

 一か八かこちらに向かってくる竜に向かって竜巻を放つ。しかしこちらに向かっていた三頭の竜は難なくそれを回避した。やはり接近しなければ効果を発揮しない。

 向こうもそれをわかっているのだろう。オリヴェルトを避けるように大きく迂回した竜が後方の兵たちに襲い掛かる。


「数人で固まれ!円形になって盾で防御するんだ!!」


 オリヴェルトやラーシュ、他の幹部たちが喉をからして叫ぶ。現状そのくらいしか手立てが無いのだ。

 しかし必死で防御するもほころびは出来る。少しずつ倒れる兵士が増えていく……


「くそっ!くそっ!私は絶対あきらめないぞ!一人になっても国王の首をはねてやる!!」


 ラーシュが呻く。

 安心しろ、私も同じ気持ちだと思いながらオリヴェルトは必死に相手の動きを目で追う。接近することが出来さえすれば……


「竜です!新たな竜が数頭こちらに向かって飛んできます!!」


 皆の顔に絶望が広がったその時竜の雄叫びが響き渡った。


 ピギャ――――




「え?」


 皆が空を見上げる。


 やりたい放題に兵たちを襲っていた竜が三頭とも動きを止めたのだ。竜の背で焦っている男たちが見える。彼らは必死に竜を動かそうとしているが竜たちは空中でピタッと静止したまま動かなかった。


 竜の背に乗った男たちはやむなくウォンドで地上に光線を放つが動かないならばウォンドの射程圏内から離れればいいだけだ。


 オリヴェルト達は竜と十分距離を取って布陣しなおした。


 その頃には新たな竜の姿がわかるほど彼らは近づいて来ていた。


 ああ、なんという神々しい姿だろう……


 赤竜と青竜を従えて飛んでくるのは二頭の竜。向かって右側は輝くような優美な白竜。左側はどっしりと威厳のある雄々しい黒竜。


 五頭の竜はオリヴェルト達の軍の少し前方、停止した三頭の竜に相対するように空中で停止した。


 黒竜の背から小さな竜巻のようなものが放たれ三頭の竜に向かうと竜から何かが地上に落ちた。


 ラーシュが回収に向かわせると兵士がウォンドを持って戻ってきた。


 ギャオ―――ン


 白竜が再び雄たけびを上げると三頭の竜が地上に下りてくる。

 背に乗った男たちが慌てふためいている。


 地上に降りた竜から男たちは下りて来ようとしなかったが地上に居さえすれば事は簡単だ。四方八方から縄が投げられ男たちは引きずり降ろされた。


 男たちが拘束されるのを待って五頭の竜が地上に降りる。


 大地を揺るがすような歓声の中を五頭の竜は下りてきた。


 そして地上に降り立ったのは……






「ヴィヴィ!!」


 オリヴェルトは駆け出すと白竜から降り立った娘を抱きしめた。


 昨年会った時には距離を感じていた。四歳の頃別れすっかり年頃の娘らしく美しく成長した娘とどう接していいかわからなかった。娘からはよそよそしさを感じた。無理もない彼女はオリヴェルトに育てられた記憶など無いのだから。


 それでも来てくれた。オリヴェルトの危機を察知したように彼女は飛んできてくれたのだった。


 ヴィヴィを抱きしめるオリヴェルトの横でジークはラーシュと握手を交わしていた。


「これで少し恩を返せましたか?」


「おつりがくるほどだ」


 にっこり笑って手を握り合う。もう少し遅かったら危なかった。リードヴァルム王国軍という反乱軍は散り散りに瓦解するところだったのだ。




「さあ!王都へ乗り込むぞ!一直線に王宮に向かい国王を倒すのだ!!」


 オリヴェルトの力強い宣言に兵士たちが雄たけびを上げる。


「「「おうっ!!!」」」


 急がなくてはならない。国王に逃げられる。ここから一気に片を付けなくてはいけないのだ。

 日は大分傾いて来ていた。暗くなる前に国王を討ち果たす。


 オリヴェルト達は馬に跨った。


「私たちも何か協力を」


 ジークの申し出にオリヴェルトはあることを頼んだ。





 オリヴェルト達は西大門から王都に入った。


 西大門は大きく開け放たれていた。抵抗する者は誰もいない。皆外壁を悠々と超えオリヴェルト達を守護するように飛ぶ白竜と黒竜に恐れをなしているのだ。


 リードヴァルム王国軍はオリヴェルトの乗る馬を先頭に大通りを王宮に向かって駆け抜ける。

 その隊列を守るように隊列の頭上を飛ぶ黒竜と白竜。その後ろを二頭の赤竜が追い殿(しんがり)は青竜だ。


 リードヴァルム王国軍に密かに期待していた貧しい人々は空を見上げ白竜と黒竜に向かって祈りをささげる。

 不当に肥え太っていた者たちは少しでも財産を守ろうと右往左往していた。



 王宮の門が見えた。数人が争っている。

 第七王子エリオの姿も見える。


「王子自ら戦うなんて……それもあまり強くないと見た」


 馬上でそうつぶやくとラーシュは馬の速度を上げ門に突入するとエリオと戦っていた敵を一刀の元に切り捨てた。


 そのまま前庭に整列すると一斉に馬から降りる。

 ここからは分散して王宮に突入する。


 王宮に突入する際は大して抵抗を受けなかった。数人がバラバラに歯向かってくるがオリヴェルト達は難なくそれを突破した。


 大して抵抗が無いのは王宮の前庭の空に浮かび王宮を睨み据えている黒竜と白竜の存在が大きい。


 オリヴェルトは王宮を空から威圧してくれとジークに頼んだのだ。


 ヴェルヴァルム王国でさえ見たこともない白竜と滅多に見られない黒竜の組み合わせはものすごい効果をもたらした。

 地面に這いつくばるように祈る者、恐れおののく者、慌てふためいて逃げ出す者、投降者も続々と出ている。もうお仕舞だと観念する者のほかに竜神信仰の厚いものは進んで恭順の意を示した。


 もう一つ、空から威圧してくれと頼んだのはヴィヴィを地上に降ろしたくなかったのだ。

 危険だということもあるが血生臭い様子を見せたくないという理由の方が大きい。王宮の中では多くの血が流れるだろう。それを見せたくはなかった。


 オリヴェルトは二十人ほどの手勢を連れて大階段を駆け上がる。目指すは玉座の間だ。

 途中抵抗してくる騎士や兵士を切り倒しながら進む。

 大勢の者が逃げ出し保身を図る中で門や王宮で職務を全うしようとする騎士や兵士はむしろ褒められる存在なのかもしれない。容赦はしないが。容赦したらこちらがやられるだけだ。


 リードヴァルム王国軍の兵士たちは二十人ほどの小隊に分かれて王宮をくまなく探索する。

 玉座の間、執務室、ホール、後宮、王の私室、王子たちの離宮、厨房、温室や庭園などすべての場所だ。抜かりはない。宰相補佐官のグラート・カルドッチとして王宮に勤めすべての部屋や廊下、抜け道をチェックした。捕らえるべき者たちのリストもできている。

 玉座の間や王の私室から続く隠し通路は出口からラーシュたちが侵入して進んでいる。


 玉座の間に着いた。


 やはりそこに王はいなかった。臆病でずるがしこい王だ、早々と逃げ出す算段をするだろう。逃がしはしないが。


 意外な人物がオリヴェルトを待っていた。

 国王直属軍の隊長ジェラルド・デジデリオだ。融通が利かない堅物で汚職がはびこるトシュタイン王国の王宮では生き辛そうな真面目一辺倒の男だ。何度も割の合わない戦場に送られ生き残って帰ってきた壮年の男だった。


 デジデリオ隊長はわずか五人の部下を連れ玉座の間でオリヴェルト達を迎えた。


「お初にお目にかかる。国王直属軍第一隊長ジェラルド・デジデリオだ。リードヴァルム王国軍総司令官オリヴェルト殿とお見受けする。王宮に無断で侵入し玉座の間に乱入、王を殺害せんとする貴殿らの所業、見過ごすことは出来ぬ。尋常に立ち合われよ」


 そう言ってデジデリオ隊長はすらりと腰の剣を抜いた。






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