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トシュタイン王国へ


 竜四頭をトシュタイン王国の王都に残して来たとパルミロは言った。


 竜四頭ぐらいでは大したことはできない。———ヴェルヴァルム王国では。


 トシュタイン王国では話は別だ。


 今回トシュタイン王国の第一王子サロモネは三万ぐらいの軍を率いてフェルザー伯領に攻め込んだと聞いている。迎え撃つヴェルヴァルム王国の軍は竜騎士団が三百。王国騎士団が千五百。圧倒的に数が少ない。それでも戦力はヴェルヴァルム王国の方が上だ。竜騎士団が圧倒的に強いのだ。竜騎士団はその数の二百倍の敵を打ち負かすと言われている。実際にやったことは無いそうだが。


 契約竜の皮膚は普通の弓矢や剣では傷つかない。光線を発したり火を吹いたりは出来ないがその爪や牙は簡単に人を傷つけることが出来る。鎧など着ていても鎧ごと嚙み砕くことが出来る。その竜に乗って戦う騎士たちは魔力が高くウォンドの扱いに長けている。そして空高く飛び上がってしまえばだれも手出しは出来ない。その上空からウォンドで攻撃するのだ。もっとも雑兵を相手どらなくても敵の本部に襲い掛かって壊滅させてしまえばそれで戦は終わる。


 竜と竜との戦いになればまた別だろうが竜と人だったら圧倒的に竜が強い。竜に対抗できるほど魔力が強い人がいればわからないが長い間竜と契約をしていない外国の貴族たちは魔力が衰退の一途をたどっている。


 つまりトシュタイン王国では竜四頭でも十分な脅威となりうるのだ。


 クーデターの軍は虐げられている地方の領民や滅ぼされた王国の領土だった場所の領民だ。魔力はほぼないだろう。


「ヴィヴィ、何を考えている?」


 ジークが私の顔を覗き込んだ。






 今私たちはペーレント伯爵の館に滞在している。


 パルミロたちは牢の中だ。

 事の次第を報告するために護衛の一人が王宮に向かったが私たちはペーレント伯の館に一泊する。パルミロたちを護送して王都に戻らなくてはならない。

 パルミロたちが領主の館に引っ立てられ魔力封印の手枷をつけられるとパルミロたちの竜はどこかへ飛び去って行った。


 怪我をした護衛騎士リヒトールは命に別状はないもののかなりの重傷なのでペーレント伯の館でしばらく療養をすることとなった。


 夕焼けが空を赤く染める時間はとうに過ぎ、あたりは闇に包まれている。

 長い一日が終わろうとしていた。





「別に……長い一日だったなって」


 ジークの問いかけに応えるがジークは納得していないような顔をした。


「そうだな、長い一日だった。明日も長い一日になるかもしれない」


「あの……ジーク……」


「ねえヴィヴィ、僕たちは一生一緒に居るんだよね?」


「え?うん。私は一緒に居たいって思ってるわ」


「じゃあ君が今行きたいと思っているところにも一緒に行くよ」


「!!」


 なんでわかったんだろう?私自身だってまだ迷っているのに……


「夜明けとともに発とう。大丈夫、僕らが一緒なら恐れるものはないよ」


「ジーク……ありがとう」


 そう、私は迷っていた。トシュタイン王国の王宮を四頭の竜が守っていれば王宮を落とすのは難しいかもしれない。でも勝手にトシュタイン王国に向かっていいのだろうか?この地に来る時も私は国王陛下やお父様の言葉を無視してきてしまった。それにトシュタイン王国に行ったからって私に何ができるだろう?ううん、ルーナの存在はものすごく強みになる。四頭の竜もルーナがいれば抑えられるのではないか?そう思う一方で戦争の真っただ中に向かうのは怖い。人が争って傷つけたり傷つけられたり死んだりする場所に行くのが怖い。


 でも結局私は行くと思う。このまま『おとうさん』の危機を見ないふりしてヴェルヴァルム王国の王宮に戻ることなど出来ない。ジークはそんな私の葛藤をわかってくれた。そして共に行こうと言ってくれたのだった。



 




 夜明け前、私はジークと共にペーレント伯の館のエントランスを出る。太陽が地平から顔をのぞかせる少し前、薄ぼんやりと辺りが明るくなる時刻。


 昨晩ジークは筆頭護衛騎士のラウレンツに私と共にトシュタイン王国に行くことを告げてパルミロたちの護送を頼んだそうだ。ラウレンツは初め強硬に反対したそうだがジークが粘り強く説得し渋々ながら承知してくれた。




 前庭まで来た時にはそこで既に待っている二人に私たちは気づいていた。


「ジーク、水臭いぞ。俺はジークの護衛騎士だ。どこまでも護衛する。それに———」


「それにヴィヴィの兄だ。最愛の妹が望んだことはどんなことでも叶えるのが兄だろう?ヴィヴィ、僕はいつでもヴィヴィの望みを叶えるからね。一緒にトシュタイン王国に向かおう」


「エル兄様……フィル兄様……」


「それにラウレンツのおっさんにジークの事を頼まれたしな」


 エル兄様は小さい声で言った。


 兄様二人が一緒に行ってくれるならこんなに心強いことは無い。私たちは自分たちの竜を呼んだ。


「あ」


 ジークが私の後ろを見て声を上げる。

 振り向くと


「アロイス……」


 私の護衛騎士はただ一言「お供します」



 結局私たちは五頭の竜でトシュタイン王国の王都に向かった。


 私一人で行こうと思っていた。でもジークが、兄様たちが……そしてアロイスが私の我儘に付き合ってくれる。


 私はみんなに力を貰ってルーナに乗りトシュタイン王国の王都を目指した。





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