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襲撃(1)


 朝、王太子の執務室に向かっているところだった。


 小走りに近づいてくる従者にジークは足を止めた。


「王太子殿下、急ぎ国王陛下の執務室にお越しください」


「わかった」


 手短に答えて国王の執務室に足を向ける。室内に入ると国王ヘンドリックの他にルードルフ、ゴルトベルグ公爵アウグストの顔が見えた。


「ソヴァッツェ山脈の山道付近に魔獣の大群が現れました。ペーレント伯領になだれ込もうとしましたが現在は広域障壁によって阻まれています。ペーレント伯から応援要請が入っております」


 ルードルフの報告にヘンドリックが答える。


「急ぎアルブレヒトに使者を送って竜騎士団を一隊回してもらおう」


 シュッセル侯爵は病がちなので今回竜騎士団の総団長としてビュシュケンス侯爵アルブレヒトが竜騎士団を率いて戦地に赴いているのだ。


「父上、フェルザー伯領からペーレント伯領は遠い。急ぎ数名でも援軍を差し向けた方がいいでしょう」


 ジークが進言するもヘンドリックは迷っているようだ。


「しかし……今朝もう一つ報告が上がってきたのだ」


「爆弾テロの残党が残っていたようです。確かではありませんが……王都と王宮双方で警備を強化する必要があります」


 ジークは考え込んだ。もちろん王都民の安全も王宮の安全も大切だがペーレント伯領も放ってはおけない。領民は避難させているとは思うが障壁が破られて魔獣を大量に侵入させてしまっては厄介だ。


「王都の警備については私に協力させてくれ」


 アウグストが名乗り出た。


「領騎士団の半数を呼んである。今日昼過ぎに到着予定だ。街の警備や不審者不審物の捜索に当たらせる」


「それは有り難いですな。それなら私は王宮の警備に集中できます」


 ルードルフに続いてジークが言った。


「私がペーレント伯領に向かいます」


 そう言いながら後ろを振り返る。

 今日ジークに付き添っているのは筆頭補佐官のフィリップと護衛は筆頭護衛騎士のラウレンツとエルヴィンだ。


「「「お供します」」」


 重々しく頷いたラウレンツと二ッと笑って親指を立てたエルヴィンはともかくフィリップも頷いている。


「え?フィリップも?文官だろ?」


 ジークの言葉にフィリップは憤慨する。


「僕の実力を知らないんですか!?僕は学院の卒業間際の竜に乗った模擬戦で騎士コースの者たちを負かして優勝しました」


「え?そんな授業あったのか?」


 ジークが聞くとエルヴィンは苦笑いした。


「あーー、ジークは足を骨折して休んでいたからな。ちなみに俺が優勝した」


 陛下の前でも普段通りのエルヴィンやフィリップを見てルードルフが後ろで頭を抱えている。


「もう少し厳しく育てるべきだったか……」


「従兄妹同士の会話だ、大目に見てやれ。この場にはほぼ身内しかいない」


 ヘンドリックはルードルフを慰めた。



 ジークはヘンドリックに向き直ってもう一度言った。


「私と側近たちでペーレント伯領に向かいます。以前トシュタイン王国に行った際、竜騎士団が魔獣を誘導して意図したところに向かわせるのを見ました。数頭の竜で誘導すれば魔獣を追い返せるかもしれません。トシュタイン王国に行った後竜騎士団の訓練に参加して少しは心得もあります」


「わかった。頼むぞジーク」






 急ぎ支度を整えジークたちはペーレント伯領に飛び立った。


 ジークとフィリップ、近衛騎士総勢八名でペーレント伯領に到着する。


 領主の館の前庭に数名の姿が見えた。

 ジークとラウレンツの竜が着陸する。


「王太子殿下、ありがとうございます」


 声を掛けてきたのはペーレント伯だ。


「状況は?竜騎士団は到着にもう一日か二日かかるだろう。我々で対処できそうならすぐに取り掛かる」


「障壁は今のところ大丈夫ですがいつまでもつかは……あと一日ぐらいかと思います。しかし一カ所に集中されたらもっと早く壊れるかもしれません。魔力は魔石がありますので今のところ足りています」


「領民は?」


「避難は終えております」


「殿下、我々で障壁の裏に回り込んで魔獣を誘導してみましょう」


 ラウレンツの提案にジークが頷きかけたところだった。

 門の中に一頭の馬が走り込み下りた領騎士が駆けてくる。


「領主様!竜が……竜が攻撃を仕掛けてきました!」


「「竜が!?」」


 にわかには信じがたいことだ。


「野生の竜か?」


 ジークの問いかけに領騎士は直立不動で答える。


「いえ、契約竜です。青竜が一頭と緑竜、黄竜が数頭確認できました。正確には竜に乗った何者かがウォンドで攻撃を仕掛けてきたのです」


「場所は?」


「ソヴァッツェ山の山裾のタリスの砦です」


「魔石狙いか?」


 ペーレント伯が呟く。


 顔を向けたジークにペーレント伯は急いで地図を持ってこさせ説明する。


「タリスの砦とあと二カ所、こことここに魔石を設置してあります。メインの魔石はこの屋敷に。魔方陣と魔石の力で広域障壁を張っているのです」


「一カ所でも魔石を破壊されると均衡が崩れて障壁が危ういな……」


 ジークは考え込んだ。


「殿下、三カ所に分かれましょう。こことここの二カ所には二名ずつ。タリスの砦には四名。現在攻撃されたと報告が来ているのはタリスです。何者かはわかりませんがまずはそちらに対処しましょう」


「わかった」


 ジークの決断は早かった。空に合図して順番に下りてくるように指示を出す。いっぺんに下りられればいいがそれだけの広さが前庭に無いのだった。


 ラウレンツが振り分けペーレント伯に指示の内容を伝えるとジークはラウレンツ、エルヴィン、護衛騎士の一人リヒトールを伴い一足先にタリスの砦に向かった。


 程なく砦が見えてくる。砦を攻撃している竜の姿もすぐに捉えることが出来た。


 青竜一頭と緑竜二頭、黄竜三頭の六頭だ。

 少しこちらが分が悪いか?いやこちらは黒竜一頭、赤竜二頭緑竜一頭だ。五分だろうとジークは思い直した。


 砦は塔の部分が破壊され周囲にも土を抉ったような跡や破壊された柵などが見受けられる。怪我人も出ているようだが魔石はかろうじて守られているようだった。


 あちらもこちらの竜に気が付いたようだ。


 旋回して向かってくる。ジークは手綱を腰に回し片手で持つとウォンドを取り出した。


 相手から光線が放たれる。

 まだ遠くから放たれた光線は余裕で躱すことが出来る。


 ジークの黒竜イグナーツが咆哮を上げた。



 一瞬相手の竜たちが停止したように見えた。


 明らかにためらっている竜に対し騎乗している者たちが鞭のようなものを振るっているのが見えた。


 あれは……あんなことをするのは絶対に我が国の者ではない!ジークは確信した。同時にわかったのだ。二年前令嬢たちを騙しトーマスの姉を騙し竜の森に潜入した男。昨年学院で取り逃がした男。


「パルミロ――――!!」


 ジークは叫んで先頭の青竜に向かっていく。向かいながらウォンドから光線を放つ。

 パルミロはすんでのところで回避した。


 イグナーツは青竜とすれ違うとそのまま空中回転して青竜の背後を取る。


 後ろからもう一度光線を放つ。パルミロは青竜の尾を盾にした。尾に光線が命中し青竜が悲鳴を上げる。


 契約竜は野生の竜に比べ魔力が格段に高い。かといって火を吹いたり光線を発することが出来るわけではない。その魔力は身体強化と背に乗ったものを魔力で守る一種の結界のようなものに使われる。


 野生の竜は弓矢などでも傷つく皮膚をしているが契約竜の皮膚は普通の弓矢では傷つかない。ウォンドでの攻撃も威力の程度による。通常の光線なら青竜にとってはかすり傷だがさすがにジークの放った光線は青竜の尾を深く傷つけたのだ。


 青竜の悲鳴を聞いてジークは痛ましい気持ちになる。ヴェルヴァルム王国の者にとって竜はよき友であり同胞なのだ。


 ジークの動揺を見て取ったのかパルミロが攻撃を仕掛けてくる。すんでのところで躱しながら仲間を見やる。


 こちらが三頭、相手が五頭。彼らも苦戦しているようだった。

 早く決着をつけて仲間の援護をしなければ……ジークは焦る。


 ハッと思い浮かんだのが竜巻だ。


 ———やってみるか


 ウォンドで竜巻を発生させ青竜に向ける。それほど大きな竜巻ではない。人一人がすっぽり入るくらいの小型竜巻だ。その分コントロールしやすい。


 パルミロの攻撃を躱しながら背後を取る。その瞬間竜巻をぶつける。パルミロはまた青竜の尾を盾にしようとしたが一直線に飛ぶ光線とは違い竜巻はコースを変えることが出来る。ジークは尾を避けて回り込むように竜巻をパルミロにぶつけた。


 パルミロを青竜の背から落とすことが出来れば一番良かったが竜の魔力で竜巻の勢いは幾分弱まった。それでもパルミロの手からウォンドを巻き上げた。


 竜巻に巻き上げられたウォンドははるか地上に向かい落下していく。


 パルミロは茫然と己の手を見た。


 次の瞬間、青竜は背を向けた。仲間を捨て一目散に逃げだしたのだ。もちろん青竜の意志ではない。パルミロの意思だ。


 相変わらず仲間を犠牲にして逃げるのが得意な奴だ。しかし今度こそ逃がさない!と追跡しようとした時だ。


 ギャオ―――


 竜の咆哮に振り返ると護衛騎士のリヒトールが竜の背から投げ出されるのが見えた。


 光線が当たったのかもしれない。ヒヤッとするもリヒトールの竜が素早く急降下してリヒトールを受け止めるのが見えた。


 ホッと胸をなでおろす。


 しかしその間にパルミロとの距離はかなり離されていた。


 逃げられる!


 急いで追おうとしたその時、またしても竜の咆哮が聞こえた。



 ピギャ――――――!!


 全ての竜が動きを止めた。








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