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ヴィヴィ九歳(6)

 

 領地でのヴィヴィとフィリップの生活が始まった。


 午前中は大抵フィリップは領主代理のマインラート・ホルベルガーから領地経営を学ぶ。

 ホルベルガー家はアウフミュラー侯爵家の分家筋で代々アウフミュラー侯爵家に仕えている。


 マインラートは忙しいルードルフに代わり領地経営を任されておりルードルフが厚い信頼を寄せる人物だ。


 午後は大抵ヴィヴィと過ごす。街へ出かけたり、野山にピクニックに出かけたり。夕刻はヴィヴィの勉強を見る。ヴィヴィは一通りの勉強を終えているので様々な分野を掘り下げていくことになる。


 そうしてフィリップに出された課題を考えたり調べたりしてヴィヴィは午前中を過ごす。


 と言っても予定は流動的で午前中から遠方に視察に出かけることもあるしフィリップが一日書類仕事で缶詰になる事もある。


 ヴィヴィが嬉しかったのは視察など外に出かけるときは大抵一緒に連れて行ってもらえることだ。


 農作物の収穫を手伝ったり、工芸品の工房を見学したり、染色工場を見に行って簡単な染色をやらせてもらったり興味は尽きなかった。


 王都にいたときは屋敷の中がヴィヴィの世界の全てだった。

 領地に来てヴィヴィの世界は広がった。最初はフィリップと顔を合わせるのを避けるために領地に行くことを希望したのだが領地の生活が楽しすぎて王都に戻りたくなくなるかもしれない。

 それはフィリップとの関係が良くなったことも大きく影響している。


 そうしてフィリップと過ごす時間が長くなるにつれヴィヴィの口調も変化していった。

 王都にいたころはフィリップに対し緊張して大人びた口調で話していたが、徐々に九歳の溌溂とした女の子に戻りつつあった。






 


 夕食後、サロンで寛ぎながらヴィヴィと話をしていたフィリップが王都からの手紙を読んでポツリと言った。


「トシュタイン王国がまた攻め込んできたようだな」


 それを聞いてヴィヴィは怯えたような表情を浮かべた。

 怯えたヴィヴィに気が付きフィリップは安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だよ。既に竜騎士の部隊が出動したようだ」


「フィル兄様、どうしてトシュタイン王国は何度も攻め込んでくるのですか?」


「んー、我が国の肥沃な大地も魅力的だろうけど一番は竜の森だろうな」


 隣国トシュタイン王国は何代も前からこの国に戦争を仕掛けその度に返り討ちに遭っている。

 ただ闇雲に戦争を仕掛けてくる分にはそれほどの脅威は無い。と言っても油断は禁物だが。

 しかしわが国には竜騎士団がいる。その力の差は歴然なのだ。


 地理的なこともある。数百年前にヴェルヴァルム王国は鎖国をした。それは当時の情勢がそうさせた訳だがヴェルヴァルム王国と隣国トシュタイン王国との境には天に聳えるソヴァッツェ山脈が横たわっている。難攻不落のこの山脈は人馬で越えることは難しい。比較的標高の低いルートで二カ所ほど交易路があったが現在は閉じられている。

 閉じられているがトシュタイン王国が攻めてくるのはこの二つのルートしかないのでそのルートに隣接するバスラ―伯領とペーレント伯領は常に警戒をしている。


 それにもかかわらずトシュタイン王国はあの手この手で戦争を仕掛けてくるのだった。


 ほんの五年前にもトシュタイン王国はトシュタイン王国の南に位置する国、ヘーゲル王国の領土を突っ切り攻めてきたことがある。


 ヘーゲルと我が国ヴェルヴァルム王国は大河メリコン川を国境としており、ヘーゲル王国との仲は良好だったためにあわやという事態になったが、運よく巨大竜巻が発生しトシュタイン王国の部隊を大量に巻き込んだ。それで竜騎士団が間に合い事なきを得た。


 トシュタイン王国は戦争を仕掛けるばかりではなく様々なテロも仕掛けてくる。

 実はこちらの方が厄介だった。ヴェルヴァルム王国の王族やその近辺の人達は幾度となくその犠牲になってきた。


 フィリップ達の母、ルードルフの妻もその犠牲者の一人だった。



「戦争を無くすにはどうしたらいいのかしら?」


「トシュタイン王国と和平を結べばいいが、まあ無理だろうな」


「どうして?」


「過去幾度となく結ばれたからだよ。そしてその度に裏切られた。余程のことがなければ信用できないな」


「こちらから攻めたりはしないのですか?」


「しないだろうな」


「でもトシュタイン王国の王様にそっちが攻めたらこっちも攻めるぞって脅かせば?」


「そうすれば大陸全部が敵に回るな」


「え!?」


「わが国には竜がいる。その武力は圧倒的なんだ。どこの国も我が国を恐れている。トシュタイン王国に攻め入ればほかの国は次は我が身だと思う。だからトシュタイン王国の味方をするだろう。大陸全部の国と戦争をしても勝てるかもしれないが犠牲は大きい。領土を広げる気のない我が国にメリットは無いだろう?」


「そうなんですね……」


「ヴィヴィはこの国が大陸全ての国の王になるとか言って戦争に明け暮れるようになったらどう思う?」


 ヴィヴィは激しくかぶりを振った。


「嫌です!絶対に嫌!」


「僕もそう思うよ。そしてそうならないように、それから隣国が簡単に攻めて来れないような国を作る手助けをしたいんだ」


 フィリップの言葉にヴィヴィも激しく同意した。


「私も手助けをします!いっぱい勉強してフィル兄様のお手伝いをします!」


 フィリップはヴィヴィの頭を撫でて「ああ、期待しているよ」と微笑んだ。


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