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決戦に向けて


 側近会議から三週間後、ある人物が国王の元を訪れた。


 国王陛下に内密で拝謁したいとの手紙は信頼する者に託され秘密裏に国王陛下に届けられた。そして当日内密に王宮を訪れたその人物は国王の待つ奥宮の一室に通されると部屋に入るなり床に膝をついた。


 室内には国王のほかに宰相のルードルフ、侍従長のノルベルト。護衛として室内にいるのはフーベルトゥス騎士団長のみだ。


「顔を上げてくれハンクシュタイン侯爵」


 国王ヘンドリックはハンクシュタイン侯爵ギュンターに歩み寄った。


「陛下……私は……私は大それたことをしようと……この王国に仇成す行為を……侯爵という身にありながら……」


 面を伏せ懺悔する侯爵の身体は小刻みに震えていた。


「それでも君は思いとどまってくれた。ギュンター私は君と今まであまり語り合ってこなかった。しかし君を頼りにしていないわけではない。王国貴族の中でも侯爵家はそれぞれ重要な役割を担っている。その者たちを私は頼りにしているのだよ」


 ヘンドリックの言葉にギュンターからわずかな嗚咽の声が漏れた。

 それに気づかないふりをしてルードルフはギュンターに声を掛けた。


「さあギュンター立ってくれ。一緒にこれからのことを相談しよう。私もこれからは侯爵家同士の繋がりをもっと密にしなくてはと反省したんだ」


 ギュンターはそろそろと立ち上がり一同が腰を落ち着けるとノルベルトの入れてくれたお茶を一口すすりギュンターは話し始めた。





 ギュンターの話によりトシュタイン王国の企みがかなりわかってきた。


 トシュタイン王国は第一王子の侵攻に合わせて各地で騒ぎを起こそうと企んでいた。トシュタイン王国の軍勢にとって最も怖いのは竜騎士団である。竜の森や王都で同時にテロ騒ぎを起こし竜騎士団を分散させる。それがトシュタイン王国の狙いだった。メリコン川を渡河し王国内に深く侵入してしまえば竜騎士団の脅威は減る。ヴェルヴァルム王国の人間と入り乱れてしまえば竜から攻撃しにくくなるからである。竜騎士団が分散している隙に平民たちを人質にとる作戦らしかった。


 ギュンターは竜の森の数カ所で爆弾テロを起こし竜騎士団を引き付ける役目だった。時期は今年の秋、数か月後だ。竜が繭を作る時期であり学院生が契約のために竜の森に入っている時期である。事態を重く見た王宮は竜騎士団を派遣するだろう。その隙に今度は王都で騒ぎを起こす。

 竜の森で爆弾テロを起こした後はギュンターは率先して調査に乗り出すふりをする。まだ爆弾を起爆させていない場所を数カ所発見してみせ功績をアピールする。犯人の一部も捕縛する。その犯人はその後開戦のどさくさにまぎれ逃がす手はずになっていた。

 もちろんハンクシュタイン侯爵家には秘密裏に莫大な見返りが渡される。派閥を広げるためにも資金は必要でありハンクシュタイン侯爵家の権威が増せば今後もトシュタイン王国にとって有利な状況を作れるであろう。




 屋敷内にトシュタイン王国の手の者を引き入れ作戦を知らされた後はトシュタイン王国の監視が付いた。屋敷に引き入れたトシュタイン王国の手の者の中の一人は長女ゲルトルートの侍女としてゲルトルートに張り付いている。ゲルトルートを人質に取られたようなものだった。


「娘に……次女のジモーネに説得されまして……」


 ギュンターは細々とした声で言う。いつもの尊大な態度とはあまりに違っていた。


 ジモーネは上手くやったようである。学院から急遽帰宅したジモーネはまず屋敷に入らず昔からいる使用人を通じてギュンターを呼び出した。

 そこでギュンターが何を企んでいるのか問い詰め父親を必死に説得した。王国に仇なした上での権勢など自分たちは望んでいないのだと。そしてこのことをヴィヴィアーネにも相談したと言ったらしい。


 ジークハルトを巡って敵対関係にあったヴィヴィアーネに相談事をするほど仲が良くなったことをギュンターは驚き、またハンクシュタイン家が後ろ暗い事をしていると王宮に伝わったことも知った。しかしハンクシュタイン家にはトシュタイン王国の監視が付いている。何とか監視の目をかいくぐりギュンターは内密に王宮を訪れたのだった。


 その後相談してしばらくはギュンターはトシュタイン王国の言いなりになっている振りをし続けた。そしてトシュタイン王国の手の者を王国騎士団第四隊の諜報部隊が追跡、芋づる式に怪しい者たちを洗い出し一斉検挙したのは数か月後、季節は秋になり竜が繭を作る季節も間近に迫ったころだった。


 芋づる式に怪しい者たちを追跡した結果、王都や竜の森で使用する爆薬その他をソルドーの港で密輸入している現場も抑えることが出来た。



 ひとまずテロの危険は去ったとみていいだろう。


 後日談であるが、騒動がすべて終わった後冬期休暇で屋敷に帰ってきたジモーネにギュンターはいかに自分が活躍してトシュタイン王国の者たちを一網打尽にしたかを多少?誇張して大いに自慢し、私は陛下に頼りにされているんだと言って娘に尊敬の目で見られたそうである。


「のど元過ぎればなんとやらだな」とアルブレヒトがこっそりジークに言ったとか。










 季節は少し戻って夏の終わり、フーベルトゥス騎士団長率いる王国騎士団の大隊が秋の大演習のために王都を出発した。


 王都民は華やかな上にも一糸乱れぬ騎士たちの騎馬行進を手を振って見送った。

 平民たちには、いや一部を除いた貴族たちにもトシュタイン王国の侵攻は知られていない。騎士たちを見送る見物人たちの顔は皆晴れやかでこの国の平和を享受していた。


 トシュタイン王国の軍勢は隣国ヘーゲル王国の近くまで迫っておりヘーゲル王国の王弟が共同軍事演習だと王に言い訳をしてトシュタイン王国の軍勢を迎えに行ったことも報告が来ている。


 トシュタイン王国と我が国の戦争の結果いかんでは軍勢を率いて王位簒奪を狙っているらしい。

 そのことはヘーゲル王国の内情なのでヴェルヴァルム王国は関与しない。ヘーゲル王国の国王には王弟の企みを教えたので彼らが対処するだろう。



 戦いは目前まで迫っていた。






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