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側近会議(2)


「先日訪れたトシュタイン王国の大使一行が接触していた貴族についてですが……」


 ルードルフは話を続ける。


「夜会の際に声を掛けた貴族の数は多数に上りますがほとんどの貴族はトシュタイン王国の者に対し冷ややかな対応をしております」


「当たり前の反応だな」


 ビュシュケンス侯爵アルブレヒトが愉快そうに言う。


「そのあたりはトシュタイン王国の者たちも予想していたでしょう。冷ややかに対応されながらも利をちらつかせその後再度接触を持った家が七家あります。その内四家はこちらに当主の方から報告が上がっております」


「我が家もその一つです」


 隣からのボソッとした声に驚いてエリーアスはヴィンフリートをまじまじと見た。


「ランメルツ侯爵、説明してくれるか」


 国王ヘンドリックの要請に応えてヴィンフリートは話した。


「妻と娘が興味を示しまして……しかし断りました」


 それだけでは説明になっていない。詳しく聞き出した話を今度はルードルフが説明した。


「トシュタイン王国の者はまずは夜会で声を掛けてきたそうです。その時にはランメルツ侯爵は取り入る隙を与えなかった。しかしその後夫人が一人でいたところに再度声を掛けてきた。トシュタイン王国の者は王室に不満があるのではないかと言葉巧みに話しかけ再度会う約束を取り付けたそうです。その際お近づきの印と言って高価な贈り物を夫人に渡した。夫人は再び会う時に娘と次男を同席させましたがヴィンフリート殿には言えなかったみたいですな。敵国であるトシュタイン王国の者と会うとは。再度トシュタイン王国の者と会った時に彼らはこの国の王室への不満を上手く煽り我が国ではあなたたちのような有能な方を粗略には扱わないと言ったそうです。夫人や娘、息子にも贈り物を渡し今後も親しく付き合いたいと申し出た。その為に使用人を一人雇って欲しいと」


 使用人を雇うのは夫人の権限でどうにでもなる。娘が王太子の婚約者になれなかったこと、次男が王宮で閑職に追いやられていたことなどに不満を抱えていた彼らは甘言を弄する彼らにすっかり絆されてしまったらしい。


 ルードルフの言葉にヴィンフリートは深く頷いたが彼の表情は苦悩に満ちていた。


「しかし夫人はヴィンフリート殿に隠し通すことはできなかった。隠し事に向いていないのでしょう。不審な態度にヴィンフリート殿がすぐに気づき事が発覚した。再度会う場所にヴィンフリート殿が乗り込みトシュタイン王国の者とすっぱり縁を切るとともに王宮に報告に上がったというわけです」


「申し訳ない……妻は屋敷で謹慎させている」


 ヴィンフリートは頭を下げた。


「いや、よく報告に上がってくれた。おかげでトシュタイン王国の者がどのように我が国の貴族に取り入っているのかが少しわかった。私は君の忠誠心を疑っていない。今後も我が国のために力を貸して欲しい」


 ヘンドリックは手を差し出した。ヴィンフリートはそれを両手でおしいだいた。




 このように接触はあったもののその旨を王宮に報告に上がった家が四家。未だ報告が無い家が三家ということだった。

 いずれも家族の誰かが不祥事を起こしその対応について王宮側に不満を抱えていたり、王太子妃の座を狙っていた年頃の娘を持つ家であったり息子または自身が国王や王太子の側近になれなかったと不満を抱えているような家ばかりである。


「報告が無い三家ってどこ?」


 アルブレヒトがルードルフに聞く。


「タルナート男爵家、レッダー子爵家、そしてハンクシュタイン侯爵家です」


 ハンクシュタイン侯爵家の名前にそれを知らなかった数人が息を呑んだ。

 トシュタイン王国の者たちには元から監視が付けられていた。それゆえ接触した者たちは全て報告されている。正直にヴィンフリートのように名乗り出ればともかく隠している三家は王室に叛意ありと捉えられても仕方がないだろう。


 と言っても今は特に何か罪を犯したわけではない。正式に我が国を訪問した者たちと接触を持ったからと言って法に触れるわけではない。


「ハンクシュタイン侯爵領には竜の森の門がありましたね」


 ゴルトベルグ公爵アウグストが言った。


「それに侯爵であれば王宮にも出入りは容易い。派閥も合わせれば無視できない力を持っている」


「レッダー子爵領には港町ソルドーがある。レッダー子爵はハンクシュタイン侯爵家の派閥だな。タルナート男爵家は?」


 アウグストの言葉に続いてアルブレヒトも発言する。


「領地は北の方で特に重要な地だというわけではありません。元は伯爵家で数年前に降爵されました。タルナート男爵の嫡男は王宮で働いておりましたが降爵の後やはり閑職に回されております」


 ルードルフの言葉にジークは居心地の悪い思いをした。タルナート男爵の降爵はジークのせいだともいえるからだ。元はと言えばタルナート男爵の次男が学院でウォンドを生き物に向けたのがいけない。そして彼はその後ウォンドをカールにも向けたのだ。しかし降爵になるほど大きな出来事になってしまったのはカールをジークが庇ったからだった。ウォンドを王太子に向け光線を発したのだから処分は重くなるのはあたりまえだった。彼の兄にまで処分が及んでいたのかとジークは申し訳ない気分だったが真実は少し違っていた。降爵に気分を害した嫡男は仕事を真面目にやらなくなった。元から身分の低い者たちに仕事を押し付けがちだったが男爵令息となり押し付けることもできなくなって余計自棄になったことからの配置換えだったのだ。解雇とならなかったのは恩情だった。


「三家には密偵を増員して監視を続けております」


 ルードルフが締めくくったが国王ヘンドリックが続いて口を開いた。


「ハンクシュタイン侯爵家に関してなのだが、ヴィヴィアーネから報告が届いている」


 ヘンドリックはヴィヴィアーネがジモーネから聞いた話を皆に語った。


「娘の行動によりハンクシュタイン侯爵がどのような判断を下すのかは注意深く観察していくがプライセル侯爵家のような悲劇はもう繰り返したくないのだよ」

 

 ヘンドリックの言葉はとても重いものだった。プライセル侯爵家……十四年前トシュタイン王国の策略に乗って王妃ユリアーネと生まれて間もない第二王子を殺害しトシュタイン王国に逃れ一家全員トシュタインで殺された侯爵家の名前である。


 最愛の王妃ユリアーネを殺害されたヘンドリックの言葉は皆の心に深くしみ込んだ。もう一度あの悲劇を繰り返したくない。王族を殺されたというだけでなくその犯人が高位貴族である侯爵家だったという事にも人々は衝撃を受けたのだった。





 今後の予定を確認して会議は終了した。


 ジークはフィリップと部屋に戻りながらヴィヴィの言葉を思い出していた。


「ハンクシュタイン侯爵はジモーネ様の説得に耳を貸すと思うわ」


「どうして?」


「うーん、ただの勘?ハンクシュタイン侯爵とは話をしたこともないから性格なんて本当はわからないのよ。でもジモーネ様の……なんていうかなあ、目が違ったのよ。ジモーネ様はお父様やお母様に可愛がってもらったと言っていたわ。見栄っ張りだけど悪い人たちじゃないって。だから娘の説得に耳を貸すと思うの」


 随分楽観的だなあとは思ったがジークは反対意見は言わなかった。


 ジモーネがヴィヴィに話をしたことを親に打ち明けるかはわからない。ハンクシュタイン侯爵がどのような行動に出ようとも監視体制は万全だ。


 それでもハンクシュタイン侯爵が改心して自ら王宮に報告に来てくれればいいとジークは思った。



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