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ディートフリート第二王子(5)


 国王陛下は要望の一つはすぐに叶えてくれた。


 ディーは自由に東の離宮に遊びに来れるようになった。

 もちろんあの忌々しい従者アルフォンスは入り口で差し止めだ。


 ディーはものすごく喜んで毎日遊びに来ている。私のいないときにも図書室の本を静かに読んだりしているようだ。


 意外だったのは私の護衛騎士の一人のローラントだ。彼は弟が二人いるそうで子供の扱いに慣れていた。昨日は離宮の庭で散々追いかけっこをしたり取っ組み合いをしたりディーと遊んでくれた。私も最初だけ追いかけっこに付き合ったが途中からはお茶をしながらその様子を眺めていた。お茶をしているとお母様が訪ねて来てお母様の護衛のユストゥスが「俺も混ぜてくれ――」と庭に駆けだしたので笑いながらお母様とそれを眺めた。ディーは初めて伸び伸びと遊んだようでその後は両目がくっつきそうになっていたのでローラントが抱いて送っていった。



 しかしもう一つの要望はなかなか実現しなかった。

 側妃様が渋っているようだった。


 やっと側妃様が了解してくれて王族みんなでのお茶会が実現したのは初冬、プレデビューの夜会の直前だった。

 肌寒い季節になってきたのでお茶会は温室で行われることになった。奥宮と東の離宮の中間にある温室だ。お婆様も参加したかったようだが前日が快晴だったせいか夜の冷え込みが厳しく少し風邪気味だということで欠席されることになった。


 お茶会当日も天気が良く空はどこまでも澄み渡っていた。


 天気がいいので昼間はそこまで寒くはないのだが庭を歩いて温室から中に入るとその温かさにホッとした。


 温室の中ほどに大きな丸テーブルが設置され真っ白なテーブルクロスの上にお茶の用意が整えられていた。


 お母様と私がテーブルに近づくと温室の奥の方からディーの声が聞こえた。側妃様に一生懸命花の説明をしているようでその弾んだ声からディーもお母様と一緒に出掛けられて嬉しいんだということが察せられた。

 出かけると言ってもここは王宮の奥宮の一角なのだけど。



 パタパタと足音がしてディーが駆けてきた。私たちに気が付いて喜びの声を上げる。


「ヴィヴィ姉様!マリアおば様!」


 私たちに駆け寄ろうとした時叱責の声が飛んだ。


「ディー!失礼なことをしてはいけません!」


 その声にディーはビクッと足を止めた。


「いきなり駆け寄ったりしてはご迷惑です。それにヴィヴィアーネ殿下、マリアレーテ殿下とお呼びしなさい」


「待ってください———」


 抗議の声を上げようとする私を制してお母様がエミーリア側妃様ににこやかに近づいた。


「お初にお目にかかります。エミーリア様でいらっしゃいますね。マリアレーテと申します」


「あっ、側妃のエミーリアと申します。この子が失礼な態度をとってしまって申し訳ありません。重々言って聞かせますので」


 謝るエミーリア様の傍でディーは泣きそうな顔をしている。


「ディートフリート様は何も失礼なことなどなさっていませんよ。私たち可愛らしいディートフリート様が大好きですの」


 お母様の言葉に続いて私も言った。


「初めましてヴィヴィアーネと申します。ディーは私とお友達になって下さったんです。ディーが遊びに来てくれてとっても嬉しいですわ」


 私たちの言葉に対してエミーリア様は厳しい顔をした。


「いえ、ご無理なさらないでください。私たちのようなものがお二人の離宮に遊びに行くなどとんでもない事です。それにこの子は先ほどのような不敬な呼び名で呼んだりして……重ね重ね申し訳ありません」


「いえ、違います。ヴィヴィ姉様と呼んで欲しいと言ったのは私の方で——」


「やあ!遅れてすまない。みんな集まっているな」


 陛下とジークが温室に入ってきて微妙な空気のままお茶会が始まった。


 暫くは当たり障りのない話題が続く。私はディーとお喋りしたかったのだがディーはすっかり委縮してしまってエミーリア様の隣で大人しくお菓子を食べていた。


「ディー、今はどんな勉強をしているの?私に教えて欲しいな」


 ジークが水を向けるが


「ジークハルト殿下、ディートフリートは覚えが悪くお恥ずかしいところまでしか進んでいませんの」


 エミーリア様の言葉にディーは益々委縮して「……はい」と言うのが精一杯だった。


 エミーリア様は何故そこまでディーを貶めるのだろう?私たちが温室に入った時聞こえたディーの声はとても弾んだものだった。一生懸命エミーリア様に花の名前などを教えていた。それに応えるエミーリア様の声も優しげだった。


 私はローラントに目配せした。

 ローラントが前に進み出る。


「陛下、ディーはずっとここに座っていても退屈だと思います。私の護衛と遊ばせてもいいですか?」


 私が切り出すと陛下はエミーリア様が何か言う前に「ああ、それがいい。ディー遊んでおいで」と言ってくださった。


 ローラントは椅子に座っているディーの前に跪くと目線を合わせて言った。


「ディートフリート殿下、よろしければ私と一緒に庭園の探検をしませんか?こちらの庭園はまだ見たことが無かったでしょう?」


 ディーは興味をそそられたようにそわそわとエミーリア様を見た。


 陛下に言われては反対もできない。エミーリア様は諦めたように「行ってらっしゃい。護衛の方のご迷惑にならないようにするんですよ」と言った。


 すかさずディーの従者のアルフォンスが前に出て「お供します」と言いそうになったがその声を遮るように声が聞こえた。


「はいはい!!俺も行きたいっす!陛下、マリア様俺も一緒に行っていいっすか?」


 大声を出したのはお母様の護衛のユストゥス様だ。


 陛下は苦笑してお母様に「マリアレーテ、いいか?」と聞いた。お母様はもちろんOKを出す。この場にはまだ護衛騎士が沢山いるので二人が抜けても問題ない。


「じゃあディー様、ローラント行こうか。あ、俺たちが付いていくから君は来なくていいよ」


 ユストゥス様はアルフォンスに言って歩き出した。


「アルフォンス、上着を着せてあげて」


 エミーリア様がアルフォンスに言ってアルフォンスがディーに上着を着せた。


 温室の中は暖かいが外で遊んでいたら上着無しでは体が冷えてしまうだろう。

 そういうところに気づく辺りエミーリア様はディーにちゃんと愛情を持っているのだ。それなのにさっきの態度は妙にちぐはぐなのだった。





 ディーたちが温室から出ていくと陛下は私たちだけで話がしたいからと従者や護衛などを全て温室の外に出した。

 ノルベルト侍従長が皆のお茶を入れなおし率先して温室を出ていくと皆もそれに従った。


 皆が出ていくと陛下が明るく言った。


「さあこれからは家族の話をしよう。大分普通の家族とは形態が違うが私たちは王室という一つの家族だろう?今は無礼講だ。思ったことを話し合おう」






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