ディートフリート第二王子(2)
夕方、ジークの部屋の前で待ち合わせてディーと部屋に入った。
ディーはやけにそわそわして部屋に入るのを躊躇っていた。
「あの、本当に僕のようなものがジーク兄様の部屋に入っていいのでしょうか……」
「何言ってるの、弟が兄の病気見舞いをするのは当たり前の事でしょう」
私はディーの背をぐいぐい押して部屋に入る。
ジークは起き上がってパンがゆを食べ終わるところだった。
「ジーク、具合はどう?」
食べ終わるのを待って声を掛ける。
「ヴィヴィ!また来てくれたんだね、嬉しいよ。ひと眠りしたせいかすっきりしている。明日には全快だな」
私が侍従を見ると彼は大きく頷いた。
本当に良くなったようでホッとする。
「あれ?ディーもお見舞いに来てくれたの?」
ジークは私の後ろに半分隠れているディーに気が付いたようだ。
私はディーの背中を押してジークの前に立たせた。
「あ、あの……ジーク兄様、ご病気が良くなったみたいで良かったです」
後ろ手に隠していた花束を差し出す。ちょっと(だいぶ?)不揃いな花束だ。
「ありがとうディー。心配かけちゃったかな。もう治ったよ」
受け取るジークに嫌悪感は無い。最初からジークがディーを疎んでいるとは考えにくかったけどディーはどうしてこんなに遠慮がちなんだろう……そのことが不思議だった。
「ディー、従者はどうしたの?」
ジークの問いかけに目に見えてディーは狼狽えた。
「あ、あ、あの……その……」
そういえばさっきもディーは一人だった。私は屈みこんでディーと目線を合わせると意識して優しく言った。
「誰も、ジークも私もディーを怒ったりしないから教えて」
「ごめんなさい……僕こっそり抜け出してきちゃったんです。ジーク兄様が心配だったけどお母様が迷惑になるから行っちゃいけないって。従者もメイドもダメって言うけど僕心配で……こっそり見るだけだったらいいかなって……」
眼の中にぷっくり涙が盛り上がって今にも落ちてきそうだ。
ジークがベッドから手を伸ばしてそっとディーの手に触れた。
「私がディーを迷惑に思うことなんてないよ。遠慮なくこの部屋に来るといい。でもうつる恐れがある病気の時はダメだよ」
「はい……はいジーク兄様」
ディーは袖で眼を擦った。
「ヴィヴィは今度は果物を持ってきてくれたのか。じゃあいくつか切ってもらって三人で食べようか」
ジークの言葉にディーは瞳を輝かせた。
私は午前中のお見舞いには花を持ってきたが今度はバスケットに入れて果物を持ってきた。実際に持っていたのはレーベッカだけど。
レーベッカに頼んでいくつか切り分けてもらう。
楽しくお喋りしながら三人でそれをつまむ。
「いつの間にヴィヴィはディーと仲良くなったんだ?機会を見て私が紹介しようと思っていたのに」
ジークの言葉にディーと顔を見合わせて笑った時だった。
部屋の外で訪いの声が聞こえた。
侍従がドアを開けると二十代後半くらいの男の人が入ってきた。
「ディートフリート様、やっぱりこちらにいらしたのですか。ご迷惑だと言ったでしょう」
「ごめんなさいアルフォンス、僕———」
「ディートフリート様は私がお誘いしました。勝手なことをしてごめんなさいね」
私が素早く言うとジークも続けて言った。
「ディーが私の部屋に来ることを迷惑だなんて考えたことは一度もないよ」
アルフォンスと呼ばれた男の人は私とジークに向かって頭を下げた。
「お初にお目にかかります。ディートフリート様の従者をしておりますアルフォンス・ティラーと申します。この度は我が主ディートフリート様がお二人にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。即刻退散させていただきます」
慇懃に頭を下げた後ディーに向き直る。
「ディートフリート様帰りますよ」
ムッカ―!何それ!迷惑じゃないって言っているのに!
「今、三人で楽しく歓談中ですの。ディートフリート様は私がお部屋までお送りしますからあなたは先に戻っていてくださいな」
「いえ、お手を煩わせるわけにはまいりません。さあ、ディートフリート様」
「ですから!」
「あのっ!僕お部屋に戻ります。ジーク兄様ご病気が良くなって良かったです。ヴィヴィ姉様楽しかったです」
ペコっと頭を下げてディーは部屋から出ようとした。
「あ、ディー待って!」
私はディーを引き留めるとレーベッカを呼んだ。三人でひそひそと話をしてディーは帰って行った。
夜にもう一話投稿します。