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ディートフリート第二王子(1)


 各国の招待客もすべて帰国し王宮は日常を取り戻していた。


 今回のトシュタイン王国からの訪問で一年後の大規模侵攻を知ることができた。

 戦に向けて様々な準備が行われているだろうけれど私は知らされていない。


 私は日々王太子妃教育と王族教育、魔術の授業などに追われていた。特に魔術の授業は厳しく進行も早い。アルブレヒト先生は一年後の戦いに自分も参加したいといっていたそうだから早く教育を終えたいのかもしれない。


 戦争が終わったらあの人が迎えに来る。お母様は誰が反対しようと行くだろう。私もついて行くことになる。ジークとの婚約は?





 ……やめやめ!そんなこと今考えても仕方がない。今は自分のできることをして皆の無事を祈る事だけだ。


 今、陛下を始めジークたちは戦に備えて頑張っている。今度の戦は攻めてきた敵を追い払うだけではない。トシュタイン王国という国をこの大陸から消し去るのだと聞いた。生半可な戦いではないだろう。そしてあの人……オリヴェルト様たちは最も過酷な場所にいる。今は只彼の無事と計画の成功を祈ろう。






 そうして日常を送っていたある日、ジークが体調を崩したと聞いた。


 奥宮のジークの私室を訪れるとジークはベッドの上に起き上がって書類に目を通していた。


「ジーク!寝ていなきゃダメでしょう。すぐ無理をするんだから」


 私が駆け寄るとジークが顔をほころばせた。


「やあ、ヴィヴィ。お見舞いに来てくれたの?嬉しいな」


「もう!早く布団に入って!」


「あ、待って!これで終わりなんだ」


 ジークは侍従からペンを受け取るとサインをして書類を侍従に渡した。


「もう終わったのね?早く横になって」


 私は横になったジークに布団を掛けた。


「もう大丈夫だよ。ちょっと無理をして熱が出たけど薬湯を飲んでぐっすり寝たら熱も下がったんだ」


 そんなことを言っているけどちょっとの熱ぐらいでジークが仕事を休まないのは知っている。今強制的にベッドに入れられているということは高熱が出たのだろう。侍従の方を見ると彼はしかめ面をして首を振っていた。


 ジークの額に手を乗せる。思ったよりは熱くなかったけれどまだ熱がこもっているような気がする。夕方から熱が上がるかもしれない。


「お医者様は何て?」


「疲れからくる風邪らしい。僕はそんなに軟弱じゃないと思っていたんだけどなあ」


「偶にはそんなこともあるわ。今はゆっくり休んで早く治してね」


 私は片手でジークの手を握り片手で頭を撫でた。

 サラサラと手触りのいいジークの金髪はずっと撫でていたい。ジークの頭を撫でるなんて希少体験だ。


「ああ……気持ちいいなあ……ヴィヴィにこんな事をしてもらえるなら……風邪も……悪く……な……い……」


 ジークはスーっと眠りに落ちていった。しばらく頭を撫で続けた後私はそうっと席を立った。

 夕方、授業が終わったらまた様子を見に来ることを伝えて部屋を出る。




 奥宮のジークの部屋を出て数歩も歩かないうちに私はそれに気づいた。



 少し離れた柱の陰に何かがいる。

 その何かは必死に隠れようとしているが可愛い足や服の一部がちらちらと見えている。それにこっちを見るためにそーっと柱の陰から頭を出す。あちらから見えているということはこちらからも見えているということだ。

 そーっと頭を出しては引っこめる……そんなことを可愛い何かは繰り返していた。


「あれは誰?」


 とレーベッカに聞こうとしてすんでのところで思い出した。

 ジークには腹違いの弟がいた筈だ。今まで会ったことは無いし話も聞いたことは無いが奥宮にいる子供などそれ以外に思いつかない。


 私は気づかないふりをして可愛い何かに近づいた。


「こんにちは」


 そ知らぬふりをして柱に近づきくるっと向きを変えて話しかけると彼は目に見えて動揺した。


「ぴぎゃっ!」


 と意味不明の声を上げて駆けだそうとし自分で自分の足に引っ掛かってスッテーンと転んだ。


 あまりの可愛さに吹き出しかけたが「グスッ」という声が聞こえて慌てて助け起こした。


「ごめんなさい。えーとディートフリート殿下ですか?」


 私が助け起こしながら訊ねると彼は小さく「はい」と頷いた。


「初めまして私はヴィヴィアーネ・シューヴェルヴァルムと申します」


「あっあっ聞いています。えっと前の国王陛下のお姫様!あっすみません、僕失礼なことを……」


 目に見えて動揺するディートフリート殿下に私は微笑みかけた。


「何も失礼なことはしていませんよ、ディートフリート殿下」


「でで殿下なんて……僕のことはディートフリートかディーとお呼びください、ヴィヴィアーネ殿下」


「まあ!ではディーとお呼びしてもいいですか?私のことはヴィヴィと呼んでください」


「ヴィヴィ様?」


「様はいりません。あ!それならヴィヴィ姉様と呼んでくださいますか?姉様と呼ばれるの憧れていたんです」


 私が少しおどけて言うとディーは恥ずかしそうに「ヴィヴィ姉様」と呼んでくれた。


 その言葉を聞いて胸がきゅうんとなる。とにかく彼は可愛いのだ。今まで兄様はいても年下の身内はいなかった。姉様と呼ばれることがこんなにも嬉しいものだとは!!


 厳密には弟ではないけれど同じ王族だしジークと結婚すれば義弟になるんだから姉様って呼んでもらってもいいよね!


「ディーはどうしてここにいたの?」


「あ、あの……ジーク兄様が病になられたと聞いて……僕心配で……あ、ごめんなさい。お部屋に入ったり邪魔するつもりは無かったんです……でも心配で……」


 だんだん声が尻つぼみになる。どうしてディーはこんなに委縮しているんだろう?さっきから何度も謝っている。


「ジークは今少し熱が下がって眠ったところです。私はこれから授業がありますが夕方もう一度様子を見に来るつもりでしたの。ディーも来ませんか?」


 私の提案にディーはパッと顔を上げた。


「いいんですか?」


「もちろんよ。では夕方ここで待ち合わせしましょう」


 私はディーのダークブロンドの髪を撫でる。ジークの輝くような金髪とは違うが手触りはどちらもサラサラと似通っていた。




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