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密談(2)


「できれば戦いを長引かせてほしいのです」とエリオは言った。


「我々は第一王子が王都を離れメリコン川から攻め入ったタイミングで西方から挙兵し王都に攻め入るつもりでいます。王都には国王直属の兵がいますが数は少ない。国王直属軍自体は王都周辺にいますが数名の領主は我が陣営に引き入れています。第一王子の軍も四分の一ほどは」


「それだけいればクーデターは成功する確率が高いのではないか?」


 ジークはルードルフに聞いた。


「そうですね……戦いの状況によって寝返るものとかも出てくるでしょうし後は大義名分や指導者のカリスマ性によっても民衆の支持が違ってくるでしょう。民衆が味方に付けば領主も動かざるを得なくなります」


「わが軍は地方領主の兵が多いのです。特に旧ゲレオン王国や旧ルセック王国、そしてリードヴァルム王国の兵です。そのほかにも元々トシュタイン王国の領土でも虐げられていた地方領主たちです。第一王子の軍勢でもそうした地方領主の軍が密かに我々に通じてくれています」


 ラーシュから引き継ぎエリオも話す。


「我々はなるべく民の犠牲を少なく王宮に攻め入り現王家を亡ぼしたいと考えています。その為に貴国は第一王子サロモネ、我々は国王と側近、タイミングを合わせて打ち取りたいと考えています。貴国に負担を強いることは心苦しいのですが……」


「いや、どのみち第一王子は大群をもって我が国に攻め入ってくるのでしょう。その情報を事前に得られただけでもありがたい。一年猶予があれば十分な対策をとることができるでしょう。私は協力してもいいと思いますが。殿下?」


 フーベルトゥス騎士団長に水を向けられジークも頷いた。


「私もいいと思う。戦いの前に協力者を教えてもらえれば戦いが膠着状況に陥っていると装うことも可能だろう」


「そうか。戦いが早々に決着がついてしまえば第一王子の軍が引き返してクーデターを起こしたエリオ殿下の軍とぶつかるかもしれない。膠着状態ならば押しも引きもできないというわけだな。トシュタインの兵など完膚なきまでに叩き潰してしまえばいいと思うがそういう事情なら我慢も致し方ないだろう」


 アルブレヒトも賛成なようだ。


「第一王子の軍には私たちの兵のように無理矢理従軍させられて過酷な条件で戦いを強いられている者もいます。どうかお手柔らかに願いたい」


 ラーシュが申し訳なさそうに頭を下げる。


「もちろん敵意のない者に対し虐殺などは行わないと約束しよう。ただしそれは我が国の民に危険が及ばない範囲でだ。我が国の民や資源が脅かされることになれば全力で反撃する。なあに過度な心配はいらない、戦場には私が赴くように陛下に進言する。そちらが裏切らない限りは上手くやって見せよう」


 フーベルトゥス騎士団長は頼もしい笑みを見せた。


「私も行くぞ!」


 アルブレヒトが名乗りを上げるがジークは苦笑いだ。


「伯父上はやるべきことがおありでしょう。まあ……父上に進言してみたらいかがですか?」


 コホンと咳払いをしてルードルフが話しかけた。


「クーデターが成功した暁にはエリオ殿下が王になられるのでしょうか?我が国とはこれを機会に親睦を深められたらと思いますが……いえ、早すぎる提案ではありますが」


 ルードルフは宰相として今後の展望も視野に入れ始めていた。トシュタイン王国と国交を回復するとしたら今度は信頼に値するだろうか?ここで恩を売れるとしてどの程度有利な条件を引き出せるのだろうか?


「いいえ、私は王にはなりません。王の器ではないと自分でもわかっています。本来の私は臆病で小心者です。その私がこうして勇気を振り絞っているのは敬愛するあの方の為。王座に最もふさわしいお方の為なのです」


 エリオは少し興奮した口調で語った。そのことを補足すべくラーシュが口を開いた時だった。


「私たちが御旗として掲げるべきお方をこの場を借りてあなた方にも紹介したいのです。よろしければ私が彼を迎えに行って———」


 部屋の外が騒がしくなった。時折物がぶつかるような音や壊れるような音がする。


 エリオとラーシュは腰を浮かせかけたがルードルフが落ち着いた声で言った。


「この部屋には防音の結界だけでなく障壁も張ってあります。誰も入ってくることはできません」


 ルードルフが言い終わると同時にドアの付近でピキッピキキキ……という音がした。

 次いで  パリン!  と何かが割れるような音。


「馬鹿な!!」


 ルードルフが身を乗り出した。


 ドアのノブがゆっくりと回る。


 


 ドアを開けて入ってきた人物を見てジーク以下ヴェルヴァルム王国の者たちは一斉に身構えた。


 いや、フーベルトゥス騎士団長はドアのノブが回った時点で既に抜刀しジークを守る位置に身体を移した。



 ゆっくりと入ってきた人物、黒髪長髪で黒縁眼鏡を掛けただならぬオーラを纏ったその人物、トシュタイン王国の宰相補佐官のグラート・カルドッチはすまなそうに言った。


「申し訳ない、いろいろと壊してしまった……」


「「「なっ!!」」」


 ルードルフは信じられなかった。目の前の男はどうやって自分の張った障壁を壊したのであろう?


 フーベルトゥス騎士団長は信じられなかった。ドアの外には第四隊の精鋭の騎士たちがいた筈だ。この男はどうやってここまで入ってきたのだろう?


 そしてどうやって密会のことを知ったのだろう?この男は第七王子エリオの監視役だろう。密会を知られてしまえばクーデターの計画も頓挫するのではないか……


 ここで捕えるか殺してしまうしかない。


 フーベルトゥス騎士団長は素早い動きで切りかかろうとする。ジークたちも一斉にウォンドを取り出した。



「わーーーーー!!!待ってくれ!!!」


 必死の勢いで飛び出したのはエリオだった。

 ラーシュも必死にフーベルトゥス騎士団長とグラート・カルドッチの間に立ちふさがる。


 フーベルトゥス騎士団長はすんでのところで剣を止めた。


「彼だ!彼なんだ!私たちが御旗として仰ぐお方は!」


 エリオの言葉にジークたちは呆気にとられた。



 ヴェルヴァルム王国の皆がポカンとしているのを見てクスリと微笑みながらグラート・カルドッチは自己紹介をしようとした。


「髪の毛!」


 ラーシュに言われ「ああ……」と気が付いたようにグラート・カルドッチは黒髪を引っ張った。

 ずるりとかつらが外れ現れたのはサラサラした眩いばかりの銀髪。


 黒縁眼鏡を外し、彼は微笑んだ。


「改めてご挨拶を。我が名はオリヴェルト・ヴァイス・リードヴァルム。今は亡きリードヴァルム王国の王太子だった男です」









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