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密談(1)


 密会の日———


 ジークは密談を行うレストランに居た。


 個室のソファーにアルブレヒトと共に座っている。

 背後にルードルフが立ち、入り口付近にはフーベルトゥス騎士団長が立っている。


「ルードルフも座ったら?」


「いえ、この方が落ち着きますから」


 アルブレヒトの言葉を断ってルードルフはジークの後ろに立っている。

 それはジークの義伯父という立場ではなく筆頭侯爵家の当主という立場でもなく宰相としてこの場にいるという考えの表れだった。


 やがてドアが開き二人の人物がこの部屋に入ってきた。


 もちろんジークは、いやこの部屋にいる皆は二人がまもなく部屋に入ってくるだろうことはわかっていた。

 王国騎士団第四隊の二人に付けた騎士から報告を受けていたからだ。





 トシュタイン王国の一行は今日は散り散りに王都に散策に出かけた。もちろん第七王子には護衛と称して第四隊の騎士が同行し、そのほかの者には陰ながら第四隊の者が張り付いている。


 第七王子エリオにはトシュタイン王国側の護衛もついていたがエリオは街中で買った荷物を護衛に預け王宮に届けるよう指示した。「私にはヴェルヴァルム王国でつけてくれた護衛がいるので心配いらない。その荷物を王宮の滞在している部屋に届けてくれれば後は自由にして構わない」といくばくかの銀貨を渡しながら言うとトシュタイン王国の護衛は喜んで去って行った。護衛の質も悪いが、第七王子がいかに国元で軽く扱われているかわかるようだった。


 そのほかのトシュタイン王国の一行には陰で第四隊の者が張り付いている。彼らは王都で買い物をしたり食事を楽しんだりする者と高位貴族に必死につながりを持とうとする者に分かれていた。







 二人の人物、第七王子エリオとラーシュ・シュトレーム子爵は部屋に入ってきてすぐに挨拶をしようとした。


 それを押しとどめジークは無言でソファーへ(いざな)う。


 二人が着席するとルードルフは部屋の外に指示して全員の紅茶を入れさせその者が退出すると防音の結界を張った。


 そうして初めてジークは口を開いた。


「改めてご挨拶を。ヴェルヴァルム王国の王太子、ジークハルト・シューヴェルヴァルムと申します。エリオ王子、お会いできてうれしく思います。そしてラーシュ殿、あなたにも再びお会いできてうれしく思う。かの折には大変世話になった」


「こちらこそ無理なお願いを聞き入れていただき早速このような場を設けていただきましたこと感謝の念に堪えません。トシュタイン王国第七王子エリオ・トシュタインと申します。こちらは私の腹心でラーシュ・シュトレーム子爵。以後お見知りおきを」


 エリオとラーシュは深々と頭を下げた。ラーシュはともかくエリオは王子という態度ではなかった。


「早速ですがあなた方はトシュタイン王国でクーデターを画策しておられる。今回は我々にその助力を頼みに来た……ということでよろしいですか?」


 そのものズバリと切り出したアルブレヒトにエリオとラーシュは目を泳がせた。


「その……この会話が万が一にも聞かれては……」


「防音の結界を張っているので大丈夫ですよ。会話は外には漏れないし私が解除するまでは誰もこの部屋に入っては来られません」


 穏やかに断言するルードルフの言葉を聞いてエリオとラーシュは表情を緩めた。


「これが魔術というものですか……お恥ずかしながらトシュタイン王国では魔術が廃れて久しいのです。私はある程度の魔力を持っているようですが魔術を習う術がありません。王家の血を引く者以外は魔力さえも乏しいのが現状です」


 エリオの言葉に続きラーシュも発言する。


「私のような地方領主には魔力はもうほとんど残っていないでしょう。しかし最近第一王子の近辺では魔術を習うものがいると噂が広がっています。昨年第一王子サロモネとその第一子ピエルパルミーロが数人の側妃を迎えたとの噂があり、なれどその側妃たちに誰も会ったことが無い。公の場にも一切姿を見せていないことからそのことも合わせ更なる調査が必要だとは思っているのですが第一王子の宮はガードが固く調査もはかどらないのが現状です」


 ジークは入り口付近に控えるフーベルトゥス騎士団長と視線を交わした。第一王子サロモネの第一子ピエルパルミーロ……ジークがずっと追っていたパルミロと同一人物と言ってよいのではないか?しかし他国の王族が数人程度の供を連れ敵国に潜入などするのだろうか?トシュタイン王国ならあり得るのか?


 しかしその疑問は一旦置いておくべきであろう。今は別のことを話し合うべきだ。


「エリオ殿、あなたたちはどのようにクーデターを起こすつもりなのですか?我が国に望む助力とは?」


 ジークが話を元に戻すとエリオは身を乗り出した。


「第一王子サロモネは貴国に大規模な戦を仕掛けようと準備をしております」


 エリオの言葉にジークを始め一同は息を呑んだ。


「第三王子ガスパレが死に功績を認められたサロモネはその領土も併合し今やかなりの権勢を誇っております。王家で今生きている王子はサロモネとサロモネの軍門に下った第五王子リヴィオ、そして私だけです。私は母の身分が低く何の後ろ盾も無いことから競争相手と見做されておりません。しかしサロモネは立太子するために更なる功績を国王から求められたようです。その為ここ、ヴェルヴァルム王国に対し大規模な戦を仕掛けようとしております。サロモネとて貴国を攻め滅ぼせるとは思っていないでしょうが戦によっていくばくかの領土割譲や貴族令嬢の輿入れ、竜に関しての有利な取り決めを結ぶことが出来れば次期国王の座は揺るがないものとなるでしょう」


「ふうん……我が国も嘗められたものだね。すべて返り討ちにしてくれようよ、ジーク」


 アルブレヒトが目を光らせながら言う。眼の底に憎悪の炎が燃えていた。


「して、その時期はいつ?またどこから攻めてくるつもりなのですか?」


 ジークは冷静に聞く。


「まだ準備には一年ほどかかると思います。多分……来年のこの時期……再びメリコン川を渡りヘーゲル王国側から攻め入るものとみられます」


「前回は竜巻に救われたがその後メリコン川周辺の警備も怠っていない。ましてやその情報があれば後れを取ることもないだろう」


 フーベルトゥス騎士団長が自信満々に言う。


「ヘーゲル王国はトシュタイン王国に寝返ったのですか?今回使者も訪れていますが」


 ルードルフの問いにラーシュが答えた。


「第一王子はヘーゲル王国の王弟とつながっているのです。前回第六王子がメリコン川を渡ることができたのはヘーゲル王国の王弟と癒着していたからです。私の兵も従軍させられていたのでよく覚えています。ヘーゲル王国の王弟はずっと王位を狙っているのですよ。メリコン川での戦が失敗して第六王子は暗殺された。第六王子亡き後サロモネはヘーゲル王国の王弟とのパイプを上手く引き継いだようです」


「その情報がもらえれば十分だ。トシュタイン王国の軍勢などすぐに蹴散らしてくれよう」


 アルブレヒトは意気揚々と言った。アルブレヒトは騎士ではないので余程のことが無ければ戦いの場に身を置くことが無い。しかし今にも騎士団に入隊しそうな勢いだった。


「そのことですが……」


 アルブレヒトの勢いを見て多少言いにくそうにエリオが言った。


「できれば戦いを長引かせてほしいのです」







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