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側近会議


「ふうむ……ジークを助けてくれた人物と為人を確かめたいと思った第七王子か……」


 ヘンドリックは考え込んだ。


「うん、興味がわいてきた。私は第七王子とジークを助けた男に会ってみたいな」


 アルブレヒトが言う。


「トシュタインの王族を招き入れるなど……陛下やジークが危険にさらされることは無いのか?」


 ゴルトベルグ公爵アウグストは不安そうだ。


「危険が無いとは言えませんが私が王国騎士団第一隊近衛騎士の名誉にかけてお守りします。トシュタイン王国も各国が招かれている中で何か仕掛けるほど馬鹿だとは思いませんが」


 フーベルトゥス騎士団長は胸を張って言った。


「ヘンドリック、いや陛下、大使一行を招きましょう。第七王子たちがクーデターでトシュタイン王国の王族を滅ぼしてくれるならこんな嬉しいことは無い。いくらでも力を貸すよ」


 今やアルブレヒトはかなり乗り気だ。


「しかしその第七王子もトシュタイン王国の王族の一人ですよ」


 ルードルフは冷静に言う。


「待ってくれルードルフ。私はラーシュには会ったが第七王子には会っていない。しかしトシュタイン王国のいびつな現状を聞いた。ラーシュは昔トシュタイン王国に滅ぼされた旧ゲレオン王国の地方領主だと言っていた」


 ジークが話し出すとヘンドリックも「ああ、あの辺りは旧ゲレオン王国の土地だな」と納得の表情を浮かべた。


「彼らは過度の重税と徴兵に苦しめられていると言っていました。ラーシュは以前トシュタイン王国がメリコン川を渡って我が国に襲撃してきた折にも徴兵され無理な行軍を強いられていたらしい。あの国にはそういう虐げられている民や地方領主が沢山いる。王都で華やかな生活をし、無慈悲な侵略戦争や陰謀を企てているのは王族と一部の大貴族です。ラーシュは第七王子の管轄になって随分と楽になったと言っていた。それだけでも私は第七王子を信用できると思う」


「ということは今回の訪問はクーデターの助力を頼みに来るのか?」


「いいよ。私は大賛成だ。トシュタインの王族などさっさと滅んでしまえばいい」


 アウグストの問いかけにアルブレヒトは上機嫌で応じた。アルブレヒトにとってトシュタイン王国は愛する妹を二人も殺されたにっくき敵だ。それを言うならこの場に集まった半数以上が最愛の妻を、母をトシュタインに奪われた者たちだ。

 トシュタイン王国には皆深い恨みを持っている。それでも一方的にトシュタイン王国を攻めなかったのは侵略者になってはいけないためだ。ヴェルヴァルム王国が本気で攻めれば少なくない犠牲を伴うだろうがトシュタイン王国を亡ぼすことができるだろう。

 しかしその後はこの大陸は混沌とした戦いの渦に巻き込まれるかもしれない。トシュタイン王国まで併合したヴェルヴァルム王国の領土は大きくなりすぎるのだ。そしてヴェルヴァルム王国はトシュタイン王国の領土を併合する気が無い。領土を拡大したいという意思が無いのだ。


 故にヴェルヴァルム王国は度重なるトシュタイン王国の仕掛けてくる戦やテロに対し粘り強く証拠を集め撃破し、理をもって当事者に責任を取らせたり賠償金を支払わせることによって事態の収拾を図ってきた。


 トシュタイン王国の内部でクーデターが起こり政権が交代する。そして新政権が信頼に値するものだったとしたらヴェルヴァルム王国にとっては大歓迎なのだ。その為には喜んで協力するだろう。新政権には恩を売れるので有利な条件で国家間の取り決めを進められるというメリットもある。


 新政権を担う人物が信頼に値する人間であることが前提条件だが。


「トシュタイン王国の大使一行は受け入れた方がよさそうだな」


 ヘンドリックが結論付けたがアウグストから疑問の声が上がった。


「第七王子側の意図はわかったがトシュタイン王国の国王や第一王子はそれに全く気が付いていない間抜けなのか?それとも何か意図はあるのか?」


「国王や第一王子が第七王子の企みに気づいているかどうかはわからない。気づいていてあえて泳がせているにしろ気づいていないにしろ大使一行には必ず手の者を入れてくるだろう」


 ヘンドリックが考えながら言う。


「ということは……ルードルフ、もう一度大使一行のメンバーを読み上げてくれ」


 アルブレヒトの要請を受けてルードルフはもう一度読み上げた。


「大使は第七王子エリオ。補佐官でラーシュ・シュトレーム子爵以下二名。それと宰相補佐官のグラート・カルドッチ以下二名」


「宰相補佐官のグラート・カルドッチというやつが怪しいな」


 アルブレヒトの言葉にヘンドリックも同意した。


「その男は確実に第七王子のお目付け役だと思いますがその他の者も一応注意を払っていた方がいいでしょう。第七王子とラーシュ以外は疑ってかかるべきです」


 ジークの言葉に一同頷いた。


「ジークも大人になったなぁ……ついこの間までこんなに小さかったのに……」


 手で腰の辺りを指し示しながらしみじみとアウグストが言うとジークは不満げに眉を顰めた。


「叔父上!いつの話ですか!私はもう十八です!」


「そうだぞアウグスト、もう嫁を貰う年だ」


 アルブレヒトの言葉にフィリップは「まだ婚約者だ!まだ嫁にはやらない」と小声で反論した。ジークだけに聞こえるような小声だ。

 さすがに父と同じような歳の重鎮たちが居並ぶ場所では発言することもできず空気に徹していたフィリップだった。


 フィリップの反論を聞いて(嫁に出すも出さないもヴィヴィはアウフミュラー侯爵家の令嬢じゃなく王家の姫なんだけどなぁ)と思ったが言えなかった。フィリップが未だヴィヴィのことを妹としてジークが嫉妬するほどに愛しているのを知っていたから。そしてヴィヴィもフィリップのことを兄として慕っているのを知っていたから。


「異例のことではあるがトシュタイン王国の大使一行は受け入れることとする。早速書状を送ろう。大使一行についてはくれぐれも目を光らせておいてくれ。フーベルトゥス、頼むぞ」


「御意」


 ヘンドリックの言葉にフーベルトゥス騎士団長が騎士の礼で答える。ヘンドリックは続けて言った。


「第七王子に関しては我々の読み通りなら内密に接触を図ってくるだろう。そのほかの者についても誰に接触を図ったか注意して見ていてくれ。トシュタインの一行には王国騎士団の第四隊をつけるが皆もよろしく頼む」


 国王ヘンドリックの言葉で側近会議はお開きになった。


 この決定については次の日大臣を招集した定例会議上でも報告され、賛否両論、いやほとんどが否定的な意見だった。第七王子のクーデター情報は伏せられたままだったのでマリアレーテ王女を誘拐したトシュタイン王国の王族がどの面下げてやってくるのだと皆、憤懣やるかたない思いで反対意見を述べたが「だからこそあえて使者を受け入れその目的を探るべきである」という国王の意見に一同不承不承従った。


 共に会議に出席していたゴルトベルグ公爵アウグストと筆頭侯爵家当主でもある宰相ルードルフ、序列第二位のビュシュケンス侯爵アルブレヒトがいち早く賛成の意を示したからでもあるが。



 各国の賓客に加えトシュタイン王国の大使もやってくるということで本宮と北の離宮近辺はピリピリした雰囲気に包まれていた。



 そしてついにトシュタイン王国の大使一行が到着した。














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