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竜の森の演習と側近会議


 演習は何事もなく無事に終わった。

 これで私はジークが言うようなトラブルメーカーじゃないことは証明されたと思う。


 もちろん大変じゃなかったわけではない。十分過酷な演習だった。


 門に集合するとグループごとに分かれる。そこで携帯食料や飲み水、テント、信号筒等と入れるエリアと小屋の位置を記した地図が渡される。この地図と方位を見ながら小屋にたどり着くわけだが、この地図には地形が書いていない。直線で進もうとしても山あり谷ありで迂回を余儀なくされるのである。各小屋に通じる道はあるのだが街道を通ると遠回りな場合も多い。遠回りでも安全な街道を行くか道なき道を突っ切っていくのかが思案のしどころである。


 私たちは結局五個の球しか取れなかった。優勝は騎士コースの男子四人のグループで九個も球を取っていた。


 優勝には程遠かったけれど四人で過ごしていろいろな話をし絆を深めあった。もしかしたら四人で過ごせる最後のチャンスだったかもしれない。

 それに竜の森の奥深くに初めて入った。竜の森には小動物はいるけれども大型の肉食獣やましてや魔獣はいない。そういう動物は竜を恐れるからである。小さな竜が親竜らしき大きな竜とのんびり草を食んでいたり飛ぶ練習をしているところなんかも見ることが出来て感激した。


 大人の倍から三倍ぐらいの竜は丸々と太っているものが多くそういう竜はもうすぐ繭を作るらしい。竜の生態の一端に触れることが出来て満足だった。


 あ、事件……ではないけれど……



 野営をした時だった。

 ふと目を覚ますと隣に寝ていたアリーがいない。

 私はテントを出てアリーを探した。


 大きな岩の上に座っているアリーを見かけた。


「あ、アリ……もが」


 声を掛けようとして口を塞がれた。私の口をふさいだのはトーマス。よく見るとアリーの向こう側にカールが座っていてちょうどアリーを抱きしめたところだった。


 あぶないあぶない、お邪魔虫になるところだった。トーマスに目で感謝を伝える。


 引き返そうとしたらカールがアリーに勢い良くキスをするのを見てしまった。

 ガチンと歯がぶつかる音が聞こえてきそうな勢いだった。


 そのまま二人で口を押えて蹲っている。


 吹き出さないように注意をしながらその場を離れテントに戻った。


 次の朝、心なしか腫れているカールとアリーの唇を見たらまた笑いがこみ上げてきそうになってしまった。

 カールがアリーに叱られたかどうかは知らない。でも二人の婚約は近そうだ。









 学院から王宮に戻って私はまた勉強漬けの日々を送っている。


 私は勉強漬けの代わり映えのない毎日だが周囲はなかなか慌ただしい。お母様のお披露目の夜会がもうすぐなのでちらほらと外国から賓客が到着しているらしい。西の離宮近辺は騒がしいようだが東の離宮には聞こえてこない。


 現在、ヴェルヴァルム王国はヘーゲル王国を始め西方の数か国と国交があるのでそこの王族や高位貴族などが我が国にやってくるそうだ。

 なんといっても我がヴェルヴァルム王国の貴族は諸外国に比べ魔力が多い。もしこの訪問で魔力の多い貴族令嬢を射止めることが出来れば祖国のためになる。というわけで我が国が諸外国を招くような催しを開催するときはどの国も喜んでやって来る。それも妙齢の見目の良い王族や高位貴族を大使にして。


 しかし招かねざる客までやってこようとしていることは後になってジークに聞いた。

 そのことで国王陛下と側近たちの会議は揺れたそうである。









「なんだって!ルードルフ、もう一回言ってくれ!」


 国王、ヘンドリックが言葉を荒げた。


「トシュタイン王国からもうすぐ開かれるマリアレーテ王女様お披露目の夜会に出席したい。その許可を頂きたいと書状が届いております」


「馬鹿馬鹿しい!」


 ヘンドリックは吐き捨てた。


「トシュタインの奴らはどういう頭の構造をしているんだ?あの国には恥という概念が無いのか!」


 とフーベルトゥス騎士団長も辛らつだ。


 今、国王の執務室にいるのは国王ヘンドリック、宰相ルードルフ、フーベルトゥス騎士団長、ノルベルト筆頭侍従に加えゴルトベルグ公爵アウグスト、ビュシュケンス侯爵アルブレヒトに加え王太子ジークハルトと筆頭補佐官のフィリップ。


「もちろんトシュタイン王国には招待状なんて送っていないんだろう?どうして知ったのかな?」


 ちょっとのんびりした口調でアルブレヒトが言う。


「それは……知ることぐらいは容易いでしょう。機密事項でも何でもないのですから」


 ルードルフの言葉にヘンドリックが被せる勢いで吐き捨てた。


「マリアレーテが生きていた。そして見つかって王族に名を連ねることになったお披露目だぞ!?誘拐した張本人の国の奴らがお祝いにやってくるというのか!?」


「トシュタイン王国は誘拐を認めておりませんから」


 ルードルフは冷静に答える。


 そうなのだ。ヴェルヴァルム王国にとってはマリアレーテ王女の誘拐はトシュタイン王国の陰謀であることが広く知れ渡っている。

 でもトシュタイン王国はそれを認めなかった。マリアレーテ王女を乗せた馬車はソヴァッツェ山脈のトシュタイン王国に通ずる山道の谷底で見つかった。馬車にはもちろんトシュタイン王国の紋章なんか入っていなかった。しかし誘拐に協力した乳母はトシュタイン王国の手の者に脅されていたと証言した。ヴェルヴァルム王国側はその証言を重要視したし、トシュタイン王国との境で馬車が見つかったのだから明白だと思った。

 しかしトシュタイン王国側は全て知らぬ存ぜぬで突っぱねた。馬車はトシュタイン王国を抜けてもっと西方の国に行くつもりだったのかもしれない。乳母など下賤な者の証言を信用するなどどうかしていると言って罪を認めなかったのだ。誘拐の実行犯は馬車と一緒に谷底に落ちて死んでしまっている。谷底の川付近で数十人の遺体が発見されている。馬車に乗っていたと思われる平民の格好をした男の遺体と共にトシュタイン王国の騎士の遺体も多く発見されたのだが、その騎士たちは別件で凶悪犯を追っていてその場に居合わせたのだろうというバカげた主張だった。


「トシュタイン王国では誰が大使として来たいと言っているんだ?あの第一王子か?」


 嫌なことを思い出してしかめっ面をしながらフーベルトゥス騎士団長が聞いた。


「大使は……第七王子エリオですね。補佐官でラーシュ・シュトレーム子爵以下二名。それと宰相補佐官のグラート・カルドッチ以下二名」


 ルードルフは書面を読み上げる。


「誰が来ようと———」


「ラーシュだって!?」


 ヘンドリックとジークの声が被った。


「何だ?ジーク」


 ヘンドリックの問いにジークが答える。


「父上、ラーシュというのは私がトシュタイン王国で怪我をしたときに救ってくれた人物です。彼ははっきりとは言いませんでしたが第七王子とクーデターを画策していて私に協力を求めていました」


 ジークの言葉で会議の様相がガラッと変わった。







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