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学院へ


 学院では貴賓室に滞在するので貴賓室に荷物を置いて学院長に挨拶をした後一休み。その後私は旧校舎の三階に出かけた。


 学院を去った時の心残りの一つ。古書の整理を中途半端にしてしまったことだ。

 今は授業中の時間なので廊下や通路は閑散としている。


 アロイスと無言で歩いて旧校舎三階に着いた。


 そうっとドアを開ける。


 室内は居心地のいい空間に変化していた。

 私が整理途中だった古書は全て本棚にきれいに分類されて収まっている。そしてソファーセットが持ち込まれそこに座りながら本を読む女性が一人。


「ナターリエ様!」


「あらヴィヴィちゃん!しばらく見なかったわね。古書の整理は終わったわよ」


 ……さすがナターリエ様。私を取り巻く環境はかなり変わったのだけど知らないのだろうか?


「すみません中途半端にしてしまって。ナターリエ様が後を引き受けてくださったのですか?」


「まさか!私が出来ると思う?」


 ……思いません。


「ヴィヴィちゃんが顔を見せなくなったなぁと思っていたら三人の生徒が来てくれたの。小さめの男の子と大きめの男の子とちょっとふっくらした女の子」


 カールとアリーとトーマスだ……


「その子たちがちゃきちゃき仕事をしてくれたと思ったら次の日はもう六人増えてみんなで整理してくれたからあっという間に終わったわ。ソファーセットまで運んできてくれたのよ」


 ……きっと一組のみんなだ。私は鼻の奥がツンとなった。


「ヴィヴィちゃんいい友達に恵まれたわねぇ」


「はい!自慢の友達です!」


 ナターリエ様に挨拶をして私は旧校舎を後にした。


 そろそろ授業が終わる時間。次に向かうのはサロンだ。

 旧一組のメンバーで集まろうと約束していたのだ。一年の終わりの親睦会の時にはアウレールとグレーテが不参加だったけど今日は全員参加だと聞いている。


 物凄く物凄く楽しみだ。


 サロンへの廊下を歩いていると前方に三人の男子生徒がたむろしているのが見えた。アロイスがさっと私の前に立ちはだかり慎重に歩を進める。


 前方の男子生徒たちが一斉に膝をついた。


 は?私もアロイスも面食らって立ち止まった。


 彼らは一斉に私に向かって頭を下げた。


「「「すみませんでした!!」」」


 な、何??何なの??


 同じくサロンに向かうべく歩いてきたヨアヒムが声を上げた。


「あ!騎士コースの五年生のアーベル・シュティルケ!騎士コースの落ちこぼ……むにゃむにゃ」


 跪いた三人の向こうに取り巻きの令嬢を一人連れたジモーネ様が現れた。


「彼女がこの三人に頼んだそうよ。私は知らなかったのですけれど私の取り巻きがしたことですから一緒に謝って差し上げるわ」


 そう言いながらジモーネ様はそっぽを向き令嬢は頭を下げた。


 それでも私は何のことかわからない。頭の中は??でいっぱいだ。


「あ!あれじゃないか?卒業記念パーティーの時の……」


 ヨアヒムの言葉でやっと思い出した。この三人の男子生徒に昨年の卒業記念パーティーの時に絡まれたんだった。でもクラスのみんなが助けてくれて実害無かったしすっかり忘れていた。


 正直どうでもいいんだけど……


「ねえ、許しちゃっていいと思う?」


 こそっと事情を説明してアロイスとヨアヒムに聞くとアロイスはそれはそれは険しい顔をした。まあいつも険しい顔をしているんだけど迫力が増した。

 男子生徒三人は「ひっ!」と顔を青ざめさせている。


「ヴィヴィは忘れていたようだけど簡単に許されて同じことを繰り返されたら被害にあう女性が出ないとも限らないしなぁ」


 ヨアヒムがそう言った後なんだかあたふたし始めた。


「やべっ!ヴィヴィと普通に喋っちゃった。あ、ヴィヴィじゃなくてヴィヴィアーネ殿下だ……」


「待って待ってヨアヒム、今まで通りヴィヴィって呼んで!」


 揉めだした私とヨアヒムを後にしてアロイスが三人の男子生徒に近づいた。


「名前」


 眼光鋭く睨まれて三人は震えながら名前を名乗った。ジモーネ様の取り巻き令嬢も震えながら名乗る。


「次は無い」


 アロイスが言うと三人は「「「はっはい!!」」」と返事をして逃げ去って行った。取り巻き令嬢は腰が抜けたようでへたり込んでいる。


 んー解決したか?とサロンに歩き出そうとするとジモーネ様の声がした。


「お待ちになって!」


 まだ何かあるんだろうか?私はジモーネ様を振り返ったがジモーネ様は真っ赤な顔をしてこちらを睨みつけるばかりだ。


「ジモーネ様、用が無いなら——」


「わ、私、あなたのお友達になって差し上げてもよろしくてよ!!」


 真っ赤な顔をして私を睨みつけながらそんなことを言う。


「いらないよなぁ……」


 ヨアヒムの呟きが聞こえた。


 私は一歩ジモーネ様に近づいた。


「お知り合い程度のお友達からお願いします」


 ジモーネ様には一年生の時からずっと嫌な思いをさせられてきたのだ。簡単にお友達になんてなれない。でも謝っているような態度ではないけど一応謝ってきたのは今回が初めてだ。私の身分が変わったことで態度を変えたのかもしれないけれど……

 旧一組のみんなのような仲間にはなれないけれどお友達にはなれるかもしれない。それはこれからのことだ。


「よろしくてよ」


 なんだか偉そうにジモーネ様は言い、「将来の親友の座は私のものね」と高笑いして去って行った。





 サロンでのお茶会は楽しかった。


 私への態度でヨアヒムと揉めていた私は最初にみんなに言った。


 公の場では無理でも学院では今まで通りに接して欲しい事。立場は変わったけど私自身は変わったわけではない。みんなのことは仲間だと思っていること。


 大体今までも一応身分的には筆頭侯爵家令嬢で王女になったからと言って身分が一個上がっただけだ。あんまり変わりはないと思う。(生活にはかなり制限が増えたけれども)


 それから旧校舎三階の古書整理のお礼を述べた。


「バレちゃったかぁ」


 とカール達は照れていた。

 本当に一二年生の時のクラスがこのメンバーで良かったと改めて感じた。



 今回初参加のグレーテが私のところにやってきてお礼を言った。彼女は晴れ晴れと明るい顔をしていた。

 グレーテのお父様はハンクシュタイン侯爵家の家令を辞めてバルテル伯爵家の家令として雇い入れられたらしい。私は何も知らなかった。手配をしたのは全てお父様だ。


「私は何もしていないわ。全てお父様、あ、アウフミュラー侯爵が手配してくださったの。バルテル伯爵家は家令が高齢で引退したがっていたのだけどとても有能で素晴らしい方が来てくれたとものすごく感謝していらっしゃるそうよ。私もグレーテのお父様に感謝を申し上げたいわ」


 グレーテと笑いあった。アリーやカール達だけでなくみんなと色々な話をして笑いあってお茶会はお開きになった。


 次の日は演習に備えて必要なものの準備などをして一日をゆっくり過ごし二日目の早朝、私たちは竜の森の門の前に集結した。



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