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お忍び外出(3)


 ジモーネと護衛の騎士は数カ所蜂に刺されていたので街の診療所に運び込んだ。


 ジークの護衛の騎士に「ハンクシュタイン侯爵家に知らせるように使いを出しましたので両殿下はお戻りください。後は私が対応しておきます」と言われ王宮に戻ることにした。


 診療所を後にするときにジモーネ様を振り返ったがこっちを向いていたジモーネ様と目が合うとパッとそらされた。


「何だよ、態度悪いな。ヴィヴィが助けたのにお礼も無しかよ」


 カールは不満たらたらだったが別にお礼が欲しかったわけではないので「気にしてないよ」と宥めた。

 

「言葉使いが悪いわ」とカールはアリーに小突かれていた。


 竜の森の演習の時にまた会おうねと再会を約束して三人と別れた。



 帰りの馬車の中、不意にジークが笑い出した。


「どうしたの?」


「ふふふ……いや、ヴィヴィと出かけると何かしら事件が起こるから退屈しないなあって思って」


 人をトラブルメーカーみたいに言わないで欲しい。大体今回も事件を起こしたのは私じゃなくてジモーネ様だ。

 私がぷんすか怒っているとジークは私の背から腕を回し私の頭を引き寄せた。


 またまた行きのような甘い雰囲気になりそうだったので私は急いで言った。


「あーー!竜の森の演習楽しみだわ!!ジーク、演習ってどんなことをするのか教えて!!」


 急いで言ったのでちょっと声が大きくなってしまった。


「ぷっ。ククク……。いいよ、教えてあげる」



 ジークが竜の森の演習について教えてくれた。肩に回された手はそのままだったけど。





 竜の森の演習は三回。五年生の秋、竜と契約するための練習だ。


 竜と契約するために私たちは単独で竜の森に入る。三日間の間に野宿をしながら自分だけの竜を見つける。この時期、成竜になる前の竜は繭を作る。その繭に魔力を注ぐんだそうだ。


「繭が見つからなかったらどうするの?」


「見つかるよ。繭は数個から十数個見つけることができると思う。でもね、その中に心惹かれるものがあるんだ。僕はこいつを待っていたんだって思えるような繭があるんだ。不思議だけどね。僕はそう感じたしエルヴィンもそう言っていた」


 『私だけの竜』その響きにドキドキした。あと二年でその子に会える……



「二年生の時にクラス対抗戦で竜の森に入っただろ。あれが一回目の演習。そして今度行われるのが二回目の演習。今回は四人一組だ」


 それは聞いている。だからアリー、カール、トーマスに一緒に組んで欲しいとお願いしていたのだ。もちろん二つ返事でOKだった。


「今回は宝探しだよ」


「宝探し?」


「今回入れるエリアは前回の五倍くらい広い。竜の森の中には巡回見回り業務や有事の際のために馬が走れる広さの街道が通り小屋が点在しているんだ。今回入れるエリアには二十カ所くらい小屋がある。その小屋に球を入れた宝箱がある。なるべくたくさんの小屋を回りその球をたくさん持ち帰ったグループの勝利だ」



 球は一つの宝箱から一グループ一つ取る。宝箱には全グループが取ってもあまりが出るほど球がたくさん入っているので、例えば最初に小屋を見つけたグループが他の人を妨害しようとして残りの球を捨ててしまったりしたらすぐわかる。それに球は小屋によってナンバリングされているので一つの宝箱から沢山持って行っても意味はない。


「時間は出発の日から次の日の夕刻まで。それまでに学院の門に戻ってくるんだ。二年生の時も今回も競技の形はとっているけどね、全ては最終学年で無事竜と契約するために安全に竜の森に入ることを目的としているんだ。あまり競技に熱くならず竜の森を楽しんでくるといい」






 そして学院の夏期休暇が終わり竜の森の演習が目前に迫ってきた。

 私は演習の二日前に学院に移動することになった。



「やはり婚約者の私が送っていくべきだろう」


「王太子殿下は公務がおありでしょう。代理で筆頭補佐官の私がお送りいたします」


「嫌味な言い方するなよ。私が公務で忙しかったら筆頭補佐官のお前も忙しいだろう?フィリップ。だいたいヴィヴィは私のイグナーツに乗り慣れているんだ。トシュタイン王国から一緒に乗って帰ってきたんだから」


「それを言うなら僕のウルバンの方が乗り慣れてますよ。ヴィヴィが初めて乗ったのは僕のウルバンですしトシュタイン王国に行った時も僕のウルバンに乗りました」


 睨みあって一歩も引かないジークとフィル兄様。


 決着はあっさりついた。


 お父様から宰相として指示があったのだ。


 ジークは東部に視察の予定があったそうでフィル兄様もそれに同行。


 私は護衛の近衛騎士三名と共に学院に向かうこと。


 私はアロイスに訊ねた。


「アロイスの竜に乗せてもらっていい?」


 アロイスは短く「はい」と答えた後珍しく何か言いたそうだ。

 いつも唇を真一文字に引き結んで厳しい目つきのアロイスは余計なことを一切喋らない。最初は私のことが気に入らなくて不機嫌なんだろうと思っていたがどうやら違うらしい。それが彼の通常なんだと最近はわかってきた。

 だから何か言いたそうな彼が珍しかった。アロイスは必要な事なら話すけど雑談は一切しないから。


「?どうしたの?アロイス」


「ヴィヴィ様は……父の竜に乗ったと聞きました」


「父の竜?……あ!ああっ!」


 フーベルトゥス・()()()()()()、アロイス・()()()()()()


「アロイスってフーベルトゥス騎士団長のご子息なの?」


「はい」


 アロイスは今頃気が付いたのかという目で私を見ていた。

 だって印象が違い過ぎたんだもの、豪快で闊達なフーベルトゥス騎士団長と謹厳実直、寡黙なアロイスが……


「そういえばフーベルトゥス騎士団長の竜、ディーターにも乗ったわ」


 それを聞いてアロイスは満足そうに頷いた。相変わらずにこりともしていないがなぜか彼が満足そうなのがわかってしまう。そのくらいにはアロイスに慣れてきたのだろう。


「親子ともどもヴィヴィ様をお乗せすることが出来て光栄です」




 そうして私はアロイスの竜に乗せてもらって学院に向かった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] とても読みやすく、 お話の続きが気になって、 登場人物を想像し易い作品だと思いました。 [気になる点] 私には、特に気になる点は見当たりませんでした。 [一言] 次のお話しも、楽しみにして…
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