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お忍び外出(1)


 学院は夏期休暇中である。


 今年はアリーもカールもトーマスも王都に帰ってきている。私のお披露目もあったしトーマスのお姉様、ハイディ様の事もあったので全員王都に戻ってくると手紙に書いてあった。


 私は夏期休暇中に三人に会いたかった。しかしレーベッカに難しい顔をされた。まずここ、東の離宮まで来てもらうのは手続きが難しいらしい。「じゃあ私が街に行くわ。お店で待ち合わせすればいいでしょう」と言ったら全力で却下された。本宮のサロンや庭園でお茶会を開くことはできるが成人前の今は難しいと言われ八方塞がりだ。しょんぼりしながらアルブレヒト先生の魔術の授業に出かけた。


 私には夏期休暇がない。パルミロの騒動で授業に出られなかったからだと聞いているがどうも怪しい。座学に関しては三年生で学ぶことを超えているような気がする。先生たちは優秀で教えがいがありますと褒めてくださるが既に四年生の半ばの内容を習っている気がする。王太子妃教育も兼ねているので進度は早いのかもしれない。


 魔術の授業に至っては既にウォンドを与えられウォンドを使った授業をしている。通常ならば三年生の秋に与えられるはずだ。


 最近アルブレヒト先生の熱の入れようが凄い。もともと物腰の柔らかな先生だった。私にも熱心に教えてくださった。でもどこか壁があった。私がただの生徒だったら良かったんだと思う。でも私はジークと仲が良くて婚約者になった。アルブレヒト先生にとってジークは可愛い甥で平民の誰の血を引いているのかわからない私が婚約者になったことが心の奥底では気に入らなかったんだと思う。お母様が実はマリアレーテ王女だとわかった時から明らかに態度が変わった。いえ、態度は変わらないアルブレヒト先生はいつも物腰柔らかだ。熱意が変わった。


 そんなわけでみんなが夏期休暇中も私は授業に明け暮れた。


 一年生の夏は領地でアリー、カール、トーマスと遊んだ。誘拐された事件もあったけどみんなと遊んだ楽しい思い出もある。

 二年生の夏はお母様、ジーク、エル兄様とトランタの町に行った。記憶を取り戻したりいろいろあったけど楽しい思い出だ。


 みんなに会うことは諦めた。夏期休暇明けには竜の森での演習がある。その時には学院に戻るからみんなに会えるだろう。それを楽しみに勉強を頑張った。


 夏期休暇半ば過ぎジークからお誘いがあった。


「明日お忍びで街に行こう」


「え!?いいの?」


「本来なら学院は夏期休暇だろう?たまにはいいよ。護衛はつくけどね」


 小躍りしたいくらい嬉しかった。


 ルンルンと部屋に戻りレーベッカに告げるとやっぱり難色を示された。


「やっぱりな」


 フィル兄様がレーベッカを睨みつけた。

 どうしてフィル兄様がいるかというとジークとのお茶会の帰り私を送ってきてくれたからだ。別に送ってもらう必要はなかったのだけど「たまにはヴィヴィと二人で話をしたいんだ」と言われフィル兄様と楽しくお話をしながら戻ってきた。


「フィリップ・アウフミュラー王太子筆頭補佐官、ヴィヴィアーネ殿下が危険にさらされる可能性があるのに私は容認できません」


「そのために護衛がいるんだろう。アロイス大丈夫だな」


 アロイスは「はい」と頭を下げた。


「それでも——」


「お前は反対してばかりだ。もちろん苦言を呈する存在も必要だ。けれど主人の心に寄り添ってこそ侍女なんじゃないか?」


 フィル兄様の言葉にレーベッカは黙り込んだ。


「どっちにしろ今回は王太子殿下のお誘いだ、()()()拒否権は無い」


 そう言ってフィル兄様は帰って行った。

 フィル兄様は私がレーベッカに文句を言われると思ってついて来てくれたらしい。うーん過保護だなと思うけど嬉しかった。

 私はレーベッカに何を言われても行く気だったし自分で説得するつもりだったけど。



 フィル兄様が帰った後心なしか元気がなくなったレーベッカに私は言った。


「レーベッカ、私のためを思って反対してくれたんだよね、ありがとう。でもね、私はレーベッカが思うような王女じゃないのよ。もとから王宮の奥深くで育てられた王女様じゃなくて逞しいのよ。私は私なりの王女を目指すことにしたの。レーベッカが私が間違っていると思ったら反論して。私も説得するから」


 レーベッカは無言で頭を下げた。


 不満なのかな?と思ったけど次の日は朝早くから来てメイドと一緒に私のお忍び用の支度を手伝ってくれた。


「髪の毛はスカーフで纏めてください。ヴィヴィアーネ殿下の髪色は目立ちますから。そのうえでこのつば広の帽子をかぶって……あ、お化粧は控えめに、でも日焼け対策はしっかりしてね」


 なんか張り切ってる?

 私はレーベッカとメイドたちの手で下位貴族のお嬢様風に仕立て上げられてアロイスたちと部屋を出た。


「お土産買ってくるわね~」





 西門に停められていた馬車に乗って王都の街に向かう。

 馬車の中ではジークと二人きりだ。


「フィル兄様も一緒なのかと思ったわ」


「もちろんついてくる気満々だったからルードルフに頼んで呼び出してもらったんだ。宰相から王太子筆頭補佐官への呼び出しだ。僕のことを半泣きの眼で睨みながら出かけていったよ」


 ジークは私の隣に座り私の手をもてあそびながら言った。


 王宮で暮らすようになってジークとの接点は増えた。二人でお茶会(高確率でフィル兄様もいるけど)もしているけど少し離れたところに使用人や護衛がいて真の二人きりになったことは無い。久しぶりの触れ合いで私は既にわたわたしている。


「赤くなったヴィヴィも可愛い」


 そんなことを囁きながら肩を抱き寄せ耳元にキスするのはやめて!


 真っ赤になり過ぎて意識を失うんじゃないかと思ったところで馬車が停まった。




「最近人気のカフェだよ。席の予約をしておいたんだ」


 ジークにエスコートされて店に入る。カラフルな装飾に彩られた開放感あふれる店は多くの若者でにぎわっていた。店内のあちこちに見たこともない植物の鉢が置いてありテーブルとテーブルの間の目隠しの役目をはたしている。


「暑い地域に生える植物なんだって。葉が大きいだろう。西方の国からの輸入品なんだ」


 ジークの説明を聞きながら店の最奥まで行くとそこにいた人たちに私は目を見張った。


「アリー!カール!トーマス!」


 私はジークを振り返る。ジークは笑って頷いた。

 三人に駆け寄る。涙が出るくらい嬉しかった。


 それからジークも交えて五人でとってもとっても楽しい時を過ごした。三人から学院の話を聞いたり夏期休暇に入ってから何をして過ごしていたかを聞いたり。私は王宮生活で話しても差し支えない話をしたり。


 トーマスからはハイディ様の件でお礼を言われた。私たちがハイディ様のところへ行った数日後、家族の面会許可が下りたらしい。監視付きで短い時間だったそうだがハイディ様の穏やかな顔つきを見て安心したらしい。私に告白したことで気持ちが楽になったと言っていたそうだ。罪に向き合って償う前向きな気持ちになれたと。私は何にもしていないのだけどただ話を聞いただけでハイディ様が気持ちが楽になったのならよかった。口下手なトーマスが珍しく嬉しそうに長く話すのを見ていると私も嬉しくなる。みんなもニコニコしていた。


 ひとしきり話をした後中央公園の奥に建てられている美術館に行こうという話になり立ち上がった。


 外で不用意な発言をするつもりは無いけれど私たちのテーブルの周りにはジークが防音の結界を張ってくれていた。


 それに私たちに一番近いテーブルは護衛の騎士たちが陣取っているそうだ。


 立ち上がって外に向かおうとした時にアロイスが食べかけの可愛らしいケーキを急いで口に押し込むのが見えて吹き出しそうになってしまった。


 筋骨隆々の男たちが陣取ったテーブルは店内の注目を浴びていたことを後で教えてもらった。










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