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ヴィヴィ五歳(1)

 新連載です。

 ゆっくりめに連載していきます。

 よろしくお願いします。


 王都グラニールの中央広場前はいつも通りの喧騒に包まれていた。


 王都民にとってはいつも通りでも田舎から初めて出てきたマリアにとってはびっくりするほどの賑わいだ。

 遠距離乗合馬車を降り両手に荷物を抱える。


「ヴィヴィ、はぐれないようにお母さんの服を掴んで」


 傍らの少女に声をかけ目的地に向かって歩き出す。


「ねえねえおかあさん、きょうはおまつり?」


 ヴィヴィは興味津々にあたりを見回す。

 二人が歩いている通りには種々雑多な商店が立ち並び軒先には様々な商品が並べられ食べ物を売る店からは甘いにおいや肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。

 ともすればその匂いにつられ足を止めがちな娘を励ましながらマリアは通りを歩いて行った。


「ヴィヴィ、フードは外しちゃだめよ」


 目深にかぶったフードが鬱陶しくてヴィヴィはすぐに外そうとする。

 マリアは王都での仕事を紹介してくれたアルバおばさんの姪のカティの言葉を思い出した。


「いい?王都は華やかだけど怖いところよ。田舎から出てきた人間は一目でわかるしヴィヴィちゃんみたいにかわいい子はすぐ人攫いに目を付けられるわ。王都に慣れるまでフードを目深に被って目立たないようにするのよ」


 アルバおばさんというのはマリアが住んでいたトランタの町のご近所さんで、夫が帰ってこなくなり一人でヴィヴィを育てていたマリアに同情して何かと力になってくれていた人だ。

 トランタの町の有力者にマリアが言い寄られて困っていた時に姪のカティを紹介してくれた。

 カティは王都で子爵様の家のメイドをしていたが結婚が決まったので職を辞してトランタの町に帰ってきたのだった。

 カティが子爵家に問い合わせてくれてマリアは王都で子爵家のメイドとして勤められることになった。住み込みで子供も連れてきていいと言ってもらった。カティが真面目に働いて信用があったからだ。アルバおばさんとカティにはいくら感謝しても足りないと思う。


 ホントはトランタの町を離れたくなかったけど町の有力者の男はしつこくて仕事帰りに待ち伏せされたり家の周りをうろつくようになっていたのでヴィヴィに何かあったら……と思い街を離れる決心をした。

 町を離れたくなかったのは夫が帰ってくるのを待っていたからだ。もう一年帰ってきていないが。

(もしオリバーが帰ってきたら私の居場所はアルバおばさんが伝えてくれるって言ってたから大丈夫よね)


「えっと……ここから先の道はどっちだったかしら?」


 曲がり角で書いてもらった地図を出そうと荷物を置いたとき、マリアはヴィヴィがいないことに気が付いた。


「あら?ヴィヴィ?……ヴィヴィ!?ヴィヴィ!!!」


 辺りを見回してもヴィヴィの小さな体は見つからなかった。





 ヴィヴィは初めて来たこのお祭りのような場所に興味津々だった。

 きょろきょろ辺りを見回しながらお母さんの服を掴んでついていく。

 

「あ、うさぎさん」


 その店の店頭には様々な動物を模した飴細工が棒に刺して並べられていた。ヴィヴィはふらふらとお店に近づいていく。


「くまさん!ねこさん!こっちはなあに?」


 夢中になって眺めているとふいに声をかけられた。


「お嬢ちゃん、一つ買ってあげようか?」


 振り向くと知らないおじさんがニコニコ?ニヤニヤ?笑っていた。

 頭にかぶっていたフードはとっくに外れている。

 ヴィヴィは急に怖くなった。


「ううん、いらない。おかあさんのところにもどらなくちゃ」


「じゃあおじさんたちが一緒にお母さんを探してあげよう」


「ううん、いい。いらないの」


 おじさんたちのニヤニヤ笑いにますます怖くなりダッと駆けだそうとしたときに腕を掴まれる。

 そのまま腕を引っ張られて担ぎ上げられた。


 男たちはヴィヴィを担ぎ上げると素早く大通りから逸れて路地に入り薄暗い路地を小走りに進む。


 ヴィヴィは声を上げようとしたが抱えていた男に口をふさがれた。

 無我夢中で男の指に噛みつく。


「いてっ!」男は手を振り払いヴィヴィを殴った。


 ヴィヴィの頭から髪飾りが外れて地面に転がる。それを踏みつけて男たちは走ろうとした。

 おとうさんに貰った髪飾り。

「ずっとつけているんだよ。これはヴィヴィのお守りだから」そういっておとうさんがヴィヴィの髪につけてくれた髪飾り。

 踏まれて砕け散った髪飾り。






 ヒュル—-風が起こった。

 ヒュルルル——風が小さなつむじ風になりヴィヴィを抱えていた男の腕を切った。


「いてっ!なんだ?」男は足を止める。連れの男も足を止め振り返った。


「おい、どうした?早くし———-」


 ヒュルルルヒュルルル……男たちをいくつものつむじ風が取り巻き体に無数の切り傷をつけていく。


「うわっ!なんだ!?」


「わあっ!いてっ!いてっ!やめろ!」


 男たちは腕を振り回しヴィヴィはどさっと地面に投げ出された。

 それに構わず男たちは一目散に逃げていく。


 ヒュルルルヒュルルル……つむじ風はどんどん大きくなりだんだん一つに纏まっていきごうごうとうなりをあげ始めた。

 看板がパタパタ音を立てた。窓がキシキシ言い始めた。軒が風にあおられギーギー軋む。もはや小型の竜巻となった風の渦はどんどん膨らみ表通りの人達も異変に気付き始めた。

 

 竜巻は治まるどころかさらに大きくなっていく。

 パリーン!窓が割れた。窓枠も路地に置いてあった看板も様々なものを巻き込み風はどんどん膨らんでいく。


 


 その渦の中心にヴィヴィは立っていた。





 




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