第二話-➁ 陰気な勇者が地球を回す
「じゃあまずは強盗――銀行強盗の基本的な手順を確認して、そこから勇者の力での抜け道を考えましょう」
「本当にその話するの?」
いくら只の妄想を議論するとはいえ、僕はどうしてもそのことを口に出す嫌悪感を拭えないでいる。
多分この嫌悪感の発生原因は、架空の妄想としてきた犯罪をもしかしたら今の自分になら実行可能かもしれないという距離感の近さから生まれているのだろう。
「遠島君、あなたまさか創作と現実を混同するタイプ? GTA5を野蛮なゲームだから、とかいって危険物扱いしてそうだわ」
「そういうわけじゃないよ! わかったよ、もう横やりを入れないからさ。その基本的な手順ってやつを説明してよ」
椎名さんの与太話に付き合う義理がある訳じゃない。
でも、何だろう。
なぜか彼女の話術には聞き入ってしまうような魅力があるのだ。
椎名さんは軽く咳ばらいをすると、机の引き出しから一冊のノートを取り出す。
裏側からページを捲り、器用にその一ページを切り出して机の上に広げた。
「まずね、ひとくちに銀行強盗っていってもそれは大きく二つに分かれていると言って良い」
「ふむふむ」
「まず一つ目が一般客の誰にも気づかれないように極秘裏に金を奪う方法。これは現実世界でも比較的散見されるパターンね。日本では珍しいかもしれないけれど、海を隔てたアメリカでは一年に約4~5000件の銀行強盗が起こっていると言われているわ。そしてそのほとんどが、この事を荒立てない方法で行われているとされてるの」
「え、そんなに多いんだ」
「そうよ。非合法に金を得る方法として、銀行強盗は決して珍しい手法ではないの。そして実はこの手法で行われた銀行強盗の検挙率は、約70パーセントと言われている。これは他の犯罪に比べてとても高い数値だわ。それはなぜだかわかる?」
「そうだな……。一般の人にバレないようにってことは、それなりに穏便な手法で済ませなきゃいけないよね。勿論拳銃なんかは使えないだろうし、身元を隠すような怪しい恰好なんて、それこそ銀行強盗をしに来たと周りに行っている様なものだから、カメラに残るリスクも高い。
それに、多分得られる金額だって少ないんじゃないかな。犯罪をしてまでお金を手に入れなければいけない人は小さなバッグに入り切る程度の金額じゃ満足できないだろうから、再犯の可能性も高くてそれが原因とか?」
僕はそう言い終わって、椎名さんの方を向く。
視界に映った彼女は、
「……驚いたわ。少し、勘違いしていたかも」
と言って見開くように目を丸くしていた。