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勇者が小銭を稼ぐには  作者: 三斤 樽彦
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第一話 帰還と邂逅

「……という訳で、椎名さんが男子トイレでみた怪しい光っていうのは、異世界から帰ってきたときの転移魔法の光なんだよね」


「……」


「あの椎名さん、聞いてる?」

 

 夕方の教室。

 時計の針は五時を回っていて、この教室どころか廊下にすら人の気配は感じられない。


 机を挟んで目の前に座る少女、椎名肖子(しいなしょうこ)は、目を瞑ったまま微動だにしなかった。


 まあこんな与太話、僕だって信じてもらえるとは思っていない。


 でも実際、全部本当の話なんだ。


 鋼より硬い鱗のドラゴンを倒したのも、ゴブリンの巣を踏破したのも、黒い霧に捉われた隣国のお姫様を助けに冥界に行ったことだって、はっきりと記憶に残っている。


 だけどそれは全て、冴えないクラスメイトの男子の妄想だと一蹴されてもなんの文句も言えない。なにせあまりにも突拍子もない話だから。


「あの……」


「信じるわ」


「え?」


 目を見開いた椎名さんが口にした第一声は、こちらの予想を裏切るものだった。


「だから、小泉(こいずみ)くんの話を信じるって言ったの。というか、疑っているなんて一言も言った覚えがないけど?」


「いやでも……」


「なに? じゃあ今の話が全部作り話だっていうの? だとしたら、初めて会話をする人間に披露するにしては余りにも出来が悪い。中学二年生でさえ、もっと豊かな想像力を羽ばたかせるわ。これじゃ耳からヘドロを入れられた気分よ」

 

「ヘ、ヘドロ!?」


 長い睫毛と涼し気な目元、それに似合う様な薄い唇から出て来たとは到底思えない罵りを椎名さんはひろげる。


「だから作り話なんかじゃ……」


「だから信じるってさっきから言ってるわよね? なんなの、さっきからうだうだと相手を信じてないのは貴方の方じゃない」


 うっ。

 

 確かに椎名さんの言う通りだ。

 

 さっきから一貫して椎名さんは僕の話を信じると言っている。


 こんなふうに初見の相手に対して疑り深い態度を続けているから、僕はあちらの世界でも一番()湿()な勇者と呼ばれていたのだ。


「それじゃあ話を続けて。悪いけど私には時間が無いの。今日は早く家に帰ってクロ〇クロスの5週目をやらなきゃならないんだから」


「それは十分暇って言うんだよ! というか話を続けるって言うけれど、椎名さんは僕の話を聞いて内をどうするつもりなの?」


「さてね、どうするつもりだと思う?」


 少し不敵な笑みを浮かべて、椎名さんは質問に質問で返す。


「う、うーんそうだな。例えば信憑性が持てたら、どこかの機関に僕を売り渡そうとしてるとか」


「こんなくだらない話、誰が信じるってのよ。世間は貴方が思ってより暇じゃないのよ」


「さっきと言ってることが真逆なんだけど!?」


「そんなことはどうでも良いの。実はね、私が気になるのは一つだけなの。遠島くんは勇者の力を使ってどうするつもり?」


「どうするつもりったって、別に何もないよ。普通に学校に通って大学受験だって……。あ、ていうかちゃんと授業の内容覚えてるかな。二年ぐらいあっちに言ってたから二次関数とか……」


 ダン!


 と大きな破裂音が聞こえる。


 その音の出所を探るに、どうやら椎名さんの拳と机とが衝突したのが原因のようだった。


「……ない」


「へ?」


「貴方の勇者の力を現代で活用しないなんて、そんなの勿体なさすぎるわ!」


「で、でもさ何に使おうってのさ?」


「そんなのお金稼ぎに決まってるじゃない。まずは手始めに、身体能力を活かした強盗なんてどうかしら?」


「犯罪上等!?」


一番効率の良い金策方法を見つけてみます。

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