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第八十七話:望む未来

 夜明けと同時に私の部屋のドアからカチャリと音がする。

 

 視線をやるとナナが音を立てないようにゆっくりと入って来た。

 

「あれ…… お嬢様、おはようございます。もう起きられていたんですね」

 

「ナナ、おはよう。ちょっと目が覚めちゃってね……」


「あの日から…… もう三日間この調子ですよね」

 

「えっ!?」


「んもぉ~、気付かないとでも思ってました? お嬢様の様子に違和感を感じてましたからね」


「私ってそんなに分かりやすいかな」


 ナナは頬っぺたをぷく~っと膨らませて若干オコになっているみたい。


「お嬢様は必死に隠そうとしてたみたいですけど、私に隠そうとしても無駄ですよぉ。いつから一緒にいると思ってるんですか?」


「ナナには勝てないわね」


 ナナは私以上に私の事に詳しい。私の事をいつも見てくれてるんだなあって…… それがとても嬉しい。


「旦那様はショックで気落ちして、それどころではないみたいですし…… 奥様は伯爵家との婚約が結べたことにより舞い上がって気付かれていないご様子。クリストフ様はお嬢様に先を越されて放心状態……。それで…… 張本人であるお嬢様がその様に元気を無くされているのであれば何故、御受けしたんですか?」

 

 何故……か。

 

 私自身、それが分からないから困ってるのよ。

 

 彼はいずれ敵として私達の前に立つ人物なのは間違いない。だから利用するだけしてやろうと息巻いていたのに……。

 

 だけど、今の彼は敵としてではなく、私に好意を寄せてくれているだけの無垢な少年。

 

 そんな彼を利用する事に罪悪感を感じているのは確かだと思う。

 

 最初から憎たらしい小童だったらどんなに気が楽だったか……。

 

 実際に会った彼は…… あの時、彼が見せてくれた笑顔を思い出すと胸が苦しくなる。

 

 胸を抑えるとばっくばっくと動悸が大きい。

 

「なんでこんなに苦しいんだろう……」

 

「お嬢様、もしかしてそれが恋じゃないですか?」

 

 はあああああああ? 何言ってるの、この子…… 世の中には言っていい事と悪いことがあるのよ!

 

「…………恋? ……私が? ……あの陰キャに? ないないないないない、それだけはぜーーったいに無いから」

 

「陰キャって…… イグニスフィール様って爽やかな笑顔な方じゃないですか。私の様なものにもお優しく接してくださいますし、お嬢様が仰るような方には見えませんけど……」

 

 ナナはあいつの学院時代を知らないからそんな事が言えるのよ。

 

 学院時代――そういえば、何度か話しかけられたことがあったっけ…… あの時は既に王子とフィルミーヌ様の間は確執があったから噂になるのも困るし、私は極力あの集団を避けていたけど、彼だけは私に何か話したそうにしていた。

 

 

 断罪の日も王子含めて皆が私達に向かって勝ち誇っていた表情をしていた。

 

 イグニスフィールだけは相変わらず俯いていた。前髪で顔が隠れていたから表情は分からなかったけど……。

 

 ねぇ、貴方はあの日、何を考えていたの? 

 

 どうしてみんなとは違って一人だけ俯いていたの?

 

 どうしてあの時、私に話しかけようとしていたの? 

 

 何を話したかったの?

 

 

 私が彼の話にちゃんと耳を傾ければあの事態は避けられたのかな……。

 

 

 もっと知るべきなのかしら、彼の事……。

 

 

 …………。

 

 …………。

 

 

 ん?

 

 

 私は今何を考えていたの……。

 

 

 お、お、おち、おちちちちち、落ち着きなさい、マルグリット。

 

 違う、違う、違う、これは…… 将来の為にであって、別にアイツ個人の事を知りたい訳じゃ……。

 

「お嬢様? 顔が随分赤くなってますけど……。もしかして……」

 

 ナナがニヤニヤしながら煽ってくる。

 

「はっ!? はああああああ? 私があんなド陰キャ男代表のイグニスフィールの事なんて考える訳ないでしょうがああああ」


「私は風邪ですかってお聞きしようとしたのであって、イグニスフィール様とは言っていませんけど?」

 

 ぐぎぎぎぎぎぎ、ナナぁ…… 貴方、一体どうしてそんなに意地が悪くなったのかしら。

 

「フフッ、お嬢様、ようやく表情がいつもの様になってきましたね」

 

「えっ!?」


 もしかして、私を元気づける為に……。

 

 

「私はお嬢様が懸念されている未来の為に婚約を仮とした真意の程は分かりませんけど、私はお嬢様ご自身が望む未来の為にそのご決断されたのであればそのご意思を尊重するだけです」

 

 

 私はただ逃げていただけなんだよ。

 

 元々の婚約者が現れたら、きっとその位置を脅かされるんじゃないかって、奪われるんじゃないかって。

 

 だったら最初からそうなってもいい様に、なったとしても私の心のダメージを少なくする為に”仮”とすることでイグニスフィールが向こうを選んだとしても「ほらやっぱりね」で済ませられるように保険を掛けていた。

 

 だって辛いでしょ、苦しいでしょ、あの時…… 私に向けてくれた私の為だけの笑顔が他の誰かに向けられるとか…… それがかつての婚約者だとしても。

 

 

 

 イグニスフィールにはかつて婚約者がいた。

 

 でも、その時私はいなかった。

 

 今回は私が既に婚約者としてその位置に立っている。

 

 

 

 だから…………

 

 

 

 そうよ…………

 

 

 

 イグニスフィールだけじゃない。クララも…………

 

 

 

 全部私が守ればいい、奪われなければいい。

 

 

 

 かつての婚約者から、王子から私が守ればいい。

 

 

 

 そして今度こそフィルミーヌ様、イザベラと一緒に断罪を回避してみんなで無事に卒業する。

 

 

 

 それが私の…………

お読みいただきありがとうございます。

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