第七十四話:常闇の森の最奥
ごきげんよう、家族に数日間もみくちゃに可愛がられていた玩具令嬢マルグリットです。
なんだかんだで数か月間、家を空けていたから家の中のどこに行くにも誰かしらべったりしてくる始末。
家を空ける原因となった言い出しっぺであるお母さまはつった脚の回復後に私を視界に入れるなり飛びついてくるし、『何のデジャブなの』と思ってついつい回避してしまったら嫌われたと思ったらしくて大泣きするし……。
いや、前回それで私の首を絞めて意識を落としかけた事を思い出して頂きたい。
お母さま、もう三十が目の前のいい大人が子供の様に泣くのはやめましょうね。
とはいえ、申し訳なさから地べたにへたり込んでギャン泣きしているお母さまの頭を撫でたら一転、笑顔全開になって嬉しさのあまりに私に抱き着いてきた。
ちょっ、ぐっ…… ぐるじい…… てか肋骨! 肋骨が逝くからパワー全開で抱き着かないで……。
お母さまの腕を二回タップして『やばいからはよ離して』と理解して頂き、ようやく離れてくれたかと思いきや『失敗しちゃった♪ テヘッ』みたいな表情を浮かべるお母さまを見て私は『それが許される年齢ではないのですよ、お母さま』と冷たい視線を送ると…… 「あら、ごめんなさい。マルグリットちゃんへの愛が大きすぎて、自分を制御できなかったのね~」などと宣ってくる。いや、だから何のデジャブなのよ、これ……。
お兄さまは私を膝の上にのせてご飯を食べさせてくるし、自室でも膝にのせて小説を読み聞かせようとしてくる。
小説くらいは自分で読みたいのですけど…… 会うのは久しぶりだったし、構いたくなるのかもしれないけど…… 一緒にお風呂に入ってこようとするのはやめて欲しい。
お父さまにお願いして足止めをしている間にお風呂入りましたけどね。その後に気付いたとしても入口はナナが見張ってるので安心。
私にそんなしょっちゅう構う暇があるなら、次期当主としていい加減に婚約者の一人くらい作って欲しいものだわ。未だに女性が苦手みたいだし…… まさかとは思うけど、お兄さまはそっちのけがある訳じゃないですよね?
と思ったけど、本当にそうなら私にここまで構わないでしょうし、端に人見知りが激しいだけなのかもしれない。
うん、心当たりが大いにあります。
お父さまは大体仕事で書斎に籠っているので、邪魔をしない様にと思って書斎の前を通る時は静かに通過していたのだけれど……
「マルグリットォォォォォ、パパは寂しいぞぉぉぉぉ」
唐突なお父さまの叫びにびっくりして心臓が口から飛び出しそうになってしまった。
こっわ…… 静かに通ったはずだから気付かれないと思ったのに何で分かるの…… 違う意味でも怖いわ。
私の野生の勘っぽい所はお父さまから来てるのかしら、見た目は完全にお母さまと変わらないからお父さまの遺伝子は何処?って思ったけど、意外な所にあったのかもしれない。
家族に見張られているのではないかというくらい構ってくるから外には出れないし、とりあえず諦めてお家にいる事にしましょう。
それから数日後……。
やっと家族の目を盗んで外に出る事が出来たわ。
久しぶりね…… 常闇の森に来るのは……。
まるで実家に帰って来た安心感からか、森に入るなり大きく腕を広げて深呼吸をする。
真昼間なのに薄暗い森の中をハイキング感覚で奥へと進む。
準備運動がてら、グランドホーンを始めとするその他魔獣を叩きのめしながら先に進む。
現れた魔獣は全部Cランク以下とされている魔獣だった。
それらと戦いながら私はペトラとの話をしていた時のことを思い出していた。
『永遠の寝所』
もしも本当ならこの森の最奥にある洞窟に初代聖女様が眠っているって事だよね。でもやっぱりここは違うのかなぁ……。名前が一緒なだけだよねえ……
永遠の寝所が仮に本物だとして私はどうしたいんだろう。
もしも初代聖女様に会えたら…… あのおとぎ話は本物だという事になる。
そうだとしたら、どうしてあの時聖女様は現れなかったのだろう。
まだ確信を得た訳じゃないから、とりあえず前へ進みましょう。
周辺をどう見渡してもCランク程度をしか見当たらない…… この程度の場所に千人規模の護衛がで半壊したって本当なのかな……。
戦い方も魔法も当時と比べて現在は発展しているから楽に感じているだけなのかしら?
私は頭を捻りながらも奥に進んでいくと、周りと少し違った地形の場所が目に入った。
そこには大きく地面が抉れて何か引きずった様な跡があった箇所を見つけた。
もしかしてここってグランドホーンの異常個体にトドメを指した場所かしら。
私はあの時グランドホーンの異常個体の角しか持ち帰らなかったから亡骸自体は放置していたんだけど、誰かが持ち帰ったのかしら。
もしくはギルドか……。チェスカさんとルーシィさんが報告していたら回収くらいはするだろうしおかしなことはないかと思い、私は大して気にせずに先に進む事にした。
よく考えたら、ここから先は未開拓だからドキドキしてきた。
先に進むと、薄暗かった森が更に薄暗くなる。
まるで夜の森にいるみたい…… 時間で言えばまだお昼前なのに。
上空を見上げる。
一見、木の幹同士にはそれなりの間隔がある様に見えるけど、高い所でそれぞれの木々の葉や枝が複雑に絡み合っているせいか屋根の様になっている。
そのせいで日が入ってこないのでしょう。
うーん、暗い…… ようやく常闇の森という名前を実感すると同時に私は一つ、気になった事があった。
おかしい、この周辺から魔獣の気配を全く感じない。
私はキョロキョロ暗い辺りを見渡しながらも森の奥へ進む。
ここまで周辺が暗くなっていると、どちらに向かえばいいのかと思うでしょうけど、なんとなく行くべき方向に足を運んでいる。
しばらく歩くと巨大な岩のど真ん中に穴が開いている――洞窟が見えて来た。
「森の中に洞窟? とても違和感があるけど、何かあるかしら」
洞窟の入口は広くて大人が横に十人くらい並んでも平気で通れるほどの幅がある。
高さも五メートル程でかなり大きめの入口である事が分かる。
ちょっとした興味があって入口の大きさを確認後、洞窟の中に入ろうとしたその時、頭を何かにぶつけてしまった。
「いったぁぁぁ…… あれ、これ…… 進めない…… 見えない壁…… 結界かしら」
傍から見ると洞窟はぽっかりと穴が開いており誰もが入れそうな感じなのだけど、実際は入口は透明で見えない壁に覆われており入る事はできなさそう。
見えない壁をぺたぺた触って「どうやって入るんだろ」と思っていたら、入り口の脇辺り…… 岩に埋め込まれた何やら人工物の様な設置物を見つけた。
「これは、魔導具…… かしら」
操作基盤の様なものは見当たらないけど、長方形の窪みがあり、何かをはめ込む為のパネルの様なものがある。
これに何かをはめ込まないと結界が解除されない。張られている結界と置かれている設置物から推測するとそんな感じなのでしょう。
変哲もない洞窟にこれだけ入口に厳重な封印を仕掛けているって事はここが間違いなく『永遠の寝所』なのでしょう。
名前と初代聖女様が眠っているという話からしてもっと神殿の様な厳かな建物を指しているのかと期待していたんだけど、現実なんてこんなもんよね。
とりあえず、先に進めない事が分かったので一旦帰ろうとしたその時だった。
お腹に響くような重低音の唸り声がすぐ近くで聞こえてくる。
先程までまったく感じなかったはずの魔獣の気配が突然すぐ近くに感じた。
振り返るとそこには、見上げる程の影が立っていた。
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