第七十三話:実家に帰ってからのお話
は~い、ごきげんよう。教団とのバトルで全然いい所がなかった脇役令嬢マルグリットです。
何しろ、ペトラの最大魔法を一瞬でかき消したのがクララだったり、ペトラの協力者を無傷で捕らえたのもメリッサだったし……。
私はクララの登場で気が動転していたペトラを横殴りしただけだし……。
あるぇ…… 私の存在意義って……?
なんて半分自暴自棄になりそうなヤケッパチ令嬢マルグリットもようやく実家に帰る目処が立ったため、グラヴェロット領に戻って来たわけです。
正確には強引にでもぶった切らないと永遠にクララが放してくれなさそうだったからなんだけどね。
数カ月も家を離れていた為、家族と会うのは久々だったんだけど……。
帰るなりお兄さまが玄関で飛びついて来て、もみくちゃにされて大変だったわ。
直後に待機していたお父さまが飛びついて来たんだけど、まさに熊の様な風体の巨体がダイブして来たから「あっ、潰されたわ」と思ったら直前で着地してそのまま抱き着いてきた。
お父さまは涙や鼻水を飛び散らかして抱き着いてくるもんだから私の衣服もひどい事になって「うわっ……私の衣服、汚れすぎ……?」な状態になってしまい、お兄さまもドン引きしてましたわ。
お母さまも私に飛びつこうと下半身にタメの姿勢を取った際にお父さまの鼻から伸びた液体を見た途端にタメの足を踏ん張って飛びつくのを堪えたせいか、足をつってしまった様で太ももを抑えながら倒れてしまった。
悶絶していたところを帰って来たばかりのメリッサが早急に部屋に連れて行ったわ。
お母さまももう若く…… いや、まだこの時はギリギリ二十代だったはず。なら大丈夫ね、放っておきましょう。
私はナナと自室に戻って着替えをした後、夕飯が出来るまでベッドに寝転んで考え事をしていた。
それは、ペトラ戦で分かった事を思い返していた。
一つ目に私は手札が少ない事。
基本的に身体強化による近接戦闘しか出来ない私には『纒』がどうしても切り札になってしまうため、温存せざるを得なくなってしまう。
故に射程距離の問題と終盤もしくはトドメ用として使う事を考慮していたせいでどうしても後手に回ってしまう。
二つ目は遠距離攻撃が無い事。
早々にペトラに見切られてしまったせいで、空中から安全な距離で攻撃され続けてしまった。
途中で石を見つけて投げつけたのは思った以上に有効だった。ま、避けられちゃったけどね。
投げる為の武器でもあれば戦いの幅が広がりそうとは思った。
武器か…… そうだわ、今思いついた三つ目は武器・防具の問題。
ペトラの攻撃魔法を躱すのではなく、武器や防具で弾き返す事ができれば精神的優位にも立てるから欲しいわね。
それにグランドホーンの異常個体の時に攻撃を弾き返された時に骨をやらかした様な事を防ぐ意味もある。
冒険者の資格を取ったら早急に武器と防具を作ってもらいましょう。
何しろグラヴェロット領は国内有数の冒険者数を誇るから、それだけ鍛冶屋もあったはず。
そしてどうしても不安になってしまった点……。
これはグラヴェロット領に戻る際の馬車の中の会話のワンシーン。
「ぽわんぽわんぽわん……」
◆
『お嬢様、お見事でした。あの魔法…… 身体強化の類でしょうか。最後のコンビネーション攻撃などは私も参考にさせて頂こうかと思いました』
あの時、ペトラは私の動きを完全に見失っていた。それは戦いのド素人だったからあの結果だったけど、達人相手にはそうはいかない。
『メリッサ、貴方は私の動きが全部見えていた?』
『はい、離れた位置で俯瞰した全体を見通せる場所でしたからお嬢様の動きは全て見ていました』
『そう…… 貴方だったら先程の私の攻撃は全部防げたかしら?』
『そうですね…… 至近距離であれを使われたら全弾防げるかは少々怪しいですね』
『そ、そう……』
メリッサがただ者ではない事は分かっていただけど、私の最速の纒を全てではないにせよ、多数は防げると言っているようなもの。
強くなったつもりだったけど、やっぱりまだまだ足りない。
時間はまだあるはずなのに、どうしても漠然とした不安が拭いきれない。
私の不安を察知したのか、メリッサが私のネガティブな考えに割り込んできた。
『焦りは思考も判断力も鈍らせるだけでなく、安易な道に逃げようとする選択肢を選びがちになりますが、強くなるにはその様な道など存在しません。最後に自分を支えてくれるのは自身が地道に積み重ねて来た実績、想い…… そして信念です。お嬢様はまだ積み上げの段階ですから、今はまだ積み上がっていない土台をとにかく積み上げてください。その後で壁にぶつかるようでしたら周りを頼ってください。ヘンリエッタでも、私でも、旦那様でも構いません…… 貴方は一人ではないのですから』
そうよね…… まだまだ修行途中のヒヨッコの分際で壁にぶつかった気になっていたのか。
誰かに頼る……か、過去に戻ってから、そんな事考えた事も無かった。
確かに学生時代には魔法の基礎を徹底的に叩きこんでくれたイザベラもいたし、剣術でいえばジェラール様を始めとするメデリック公爵家騎士団の人達にも叩き込まれた事を思い出していた。
今はその人たちがいないから現時点でお願いできそうな唯一の人物はメリッサなんだけど、彼女にお願いしようものなら間違いなくお母さまの耳に入ってしまう……。
そうすると、どうなるかというと……
『マルグリットちゃん、そんなワンパク小僧みたいな事をしている暇があるなら、さっさと淑女教育を始めましょうね。目指すは伯爵家以上に嫁入りよ』
などと言われてしまう未来が簡単に予測できてしまう……。大体淑女教育なんてした所で学園卒業時にも子供体型だった私にそんな話が掛かる訳もなく……。
やはり家の外に求めるしかない。誰か私の師匠になってくれる人いないかな……。
◆
「ししょーか……」
「何が師匠なんです?」
「ギェェェッ!?」
びっくりしたぁぁぁっ! いつの間にかナナが目の前に来ているじゃないの。
考え事に集中しすぎたせいでナナの接近に気付いていなかった。
「何が「ギェェェッ!?」ですかっ! もっと貴族令嬢らしい反応をしてください。やはり奥様に報告が必要なようですね……」
ナナが珍しくキツめの表情で私を見てくる。ナナのきゃわわなツインテールが怒りのあまりに逆立って角の様に見えてきてしまう。
そういえば前にもこんなやり取りをしてたから『まるで成長していない…………』なんて思われても仕方ない。
貴族令嬢としての基礎を疎かにしすぎたかしら……。
事故を起こす前に貴族令嬢としての最低限の基礎はやっぱり身に着けておかないと、後からえらい目にあいそうな気がする。
まあ、それは後で考えるとして…… ナナはどうしたのかしら?
「今後気を付けるからお母さまへの報告はちょっと待ってもらえるかしら」
私の胡散臭いうるうるの瞳攻撃でナナを篭絡するしかない。
ナナもため息をついて諦めてくれた模様。
「もう…… 今回だけですからね」
「フフッ、ありがとう。怒った顔も可愛いわよ、ナナ」
「ちょっ!? お嬢様はどうして時折ナンパ好きの男性みたいな事を仰るんですか……。 クララ様に怒られますよ」
うぐっ! 私とクララは当然、一線を越えた仲という訳ではないから、その言い方をされると誤解を生んでしまう恐れがある。
もちろんクララが嫌いなわけではないし、慕ってくれるのは素直にうれしい。
けど…… 親愛の枠を軽々と越えようとする辺りはもう少し何とかならないかなと思う。
あ、そうだわ…… もうすぐ八歳の誕生日が来るからクララに手紙でも出してみようかしら。
「そういえばナナが来た用事って何かしら」
「あっ、すっかり忘れてましたぁ。お夕飯の準備がまもなく出来上がるので、皆様そろそろお揃いになられるかと思います」
「すぐ行くわ」
今日は家族団らんに努めておかないとね。
明日以降は早い所時間を見つけて、確認したいことがあるから常闇の森に行かなきゃ……。
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