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第六十九話:ペトラの行動の謎

 書斎にはコンテスティ男爵、夫人、クララ、メリッサと私の五人がいる。

 

「代官から貰った手紙の内容とこちらで調査した内容に食い違いがあるのだが、これについては――」


「はい、手紙には当たり障りのない内容にしていますが、実際起きた内容とは異なります。まずは私がこの街に来てからをお話しします――」


 ここからは私がこの街――モーレットについてから今に至るまでの出来事をざっくりと話をする事にした。

 

 クララと出会って相談を受けた事、家庭教師を引き受けた事、二度目の魔力暴走が起きた事、犯人であるペトラに襲われた事、実はヴェルキオラ教団の一味で聖女候補であるクララを連れ出そうとしていた事、教団の協力者もいたが私とメリッサ…… そしてクララの三人でそれを阻止したことを話をした。

 

 特に二度目の魔力暴走の話のタイミングでコンテスティ男爵も夫人も顔色が変わって特に夫人なんかは真っ青になっていたし、なんならクララまで参戦した時の話をしたら卒倒しそうにまでなっていた。

 

 今は椅子の背もたれに思いっきり体重を預けて頭を抱えている。相変わらず顔色は悪い上に何故か息切れまでしている。もしかして夫人はクララ以上に心が弱いタイプかも知れない。

 

 私が一通りの流れを離した後にクララが補足として実はご両親が王都に向かった後にペトラから屋敷を出て他の場所で暮らさないかと提案されていた事などの話を聞いた。

 

 私はこの辺りも含めてペトラから聞いていたから特にリアクションは無かったけど、当然ご両親は憤慨していた。 

 

 

 ペトラが犯人なのはいいとして…… どうしても気になる点があった。私は一つ、コンテスティ男爵に質問を投げかけた。

 

  

 

「何故、ペトラはわざわざ拉致紛いの行動に出たんでしょうか?」


 コンテスティ男爵は目をパチパチさせながら「どういう意味かな?」と首を捻っている。


「仮の話ですが、ヴェルキオラ教団が表から訪ねてきて『お宅のお嬢様が聖女に選ばれました』と言われたとして、貴方はクララさんを教団に差し出しますか?」


 私の言い方は少々棘があったのかもしれない。何しろ、「貴方は娘を宗教団体に売り飛ばしますか?」と言っているようなものだから。

 

 怒鳴られる事を覚悟はしたけど、思いの外コンテスティ男爵は冷静だった。

 

「娘が――クララが自分の意思で『聖女になりたい』と言うのであれば検討はするが、私個人の意見としては断固断るつもりだ」


 熱心な信者の家庭でもない限り、普通はその反応になるでしょう。

 

 だからこそ拉致紛いの行動に出た? いや、どう考えても安直すぎる。

 

 だって、仮に拉致された後に娘がいなくなったことに気付いたコンテスティ男爵は捜索願を出したり、自分達で探したりするでしょう。

 

 聖女として祀り上げられたらそのタイミングで拉致された娘がいる事が発覚するでしょう。

 

 その後でコンテスティ男爵が声を上げたらヴェルキオラ教団は只の誘拐集団という犯罪者のレッテルが張られること間違いなしのはず……。

 

 これが名前を変えて、他国の学園にとかならまだ理解出来るけど……、実際のクララは十六歳の時に同国で、名前も変えずに学園に入学している。

 

 しかし、前回の時間軸ではそんな誘拐騒ぎなど聞いた事もなかった。だからクララは当然の様に学園に通っていた。

 

 一体教団はどんな手を使って誘拐騒ぎを起こさせなかったんだろう……。

 

 前回の時間軸ではコンテスティ男爵と取引が成立していた?

 

 いや、彼の性格がそのままだとするのであればそれは考えにくい。それは先程のクララに対する問答からも分かる事……。

 

 それともクララがペトラ又は教団に洗脳されて、「聖女になりたい」とでも言わせてお父上を納得させたか……。

 

 如何せん情報が足りなさすぎて今は推測の域を出ないかな。

 

「そう…… ですよね。もし、明日以降このお屋敷で新たに使用人を紹介された場合、紹介元や本人の素性を調査する必要はありますね」


「あぁ、私もそれについては徹底的に行うつもりだ。少なくともクララの近くに置くものは素性が知れて長年屋敷に勤めている者を最優先に配置する」




「次にペトラに同行していた男についてですが…… こちらについてはメリッサから聞いた方がいいのかしら?」


 メリッサが言うには、ペトラに同行していた男はレガエリス帝国の諜報部に所属しており、現在は帝国とヴェルキオラ教団は手を組んでおり、人材交流の一環としてヴェルキオラ教団で任務を行っていたらしい。

 

 人材交流って聞こえはいいけど、結局の所は体のいい人質扱いで裏切ったら即始末されてもいい要員の意味もあるのでしょう。

 

 彼自身も恐らくそれを理解していたはず…… だから彼は死ぬ事に躊躇いもなく契約魔法に反した行動に出たんだと思う。

 

 メリッサと彼の会話を聞いていて分かったのが、メリッサ自身も帝国出身で元諜報部所属だという事。

 

 メリッサの過去を聞いてみたかったけど、あの話の流れをぶった切って聞くほど私は空気が読めない人間ではない。

 

 どこかのタイミングで時間がある時にでも聞いてみましょう。

 

 そして話を聞いてヤバイと思ったのは、ヴェルキオラ教団の裏には帝国が絡んでいるという事。

 

 なんなのよ…… 帝国と教団は仲良しこよしって……。

 

 教団の相手をしていたら実は帝国まで相手にしなければならないなんて事態も普通にあり得る訳で…… はぁー、先行き不安でしかない。

 

 

 

 頭を抱えたくなる事態に悩んでいたところ、コンテスティ男爵が私に聞きたい事があるようだった。

 

「私からも一つ聞いておきたいのだが…… 今後、また同様にクララを拉致しようとするものが現れるかどうかについて……」


「恐らくですが…… 当面の間は大丈夫なのではないかと思っています」


 私がペトラから聞き出した過去話の中でペトラが所属していた司教様と呼ばれた男の派閥の中で最も戦力が高かったのがペトラだという事。

 

 そのペトラを撃退したという事実だけで相手にとっては足踏みさせる要因にもなる。

 

 何しろ悪魔と教団の暗部(?)に恐らく所属しているであろう男も撃退した戦力がこんな国の端にある小さな男爵家(失礼)にあるなんて思ってもみなかったでしょうし……。

 

 所属元がバレない様に人を送り込んだとしてもペトラですら二年近くかけて漸くここまでこぎつけた上で失敗したという事から、また同じことをやる為に年単位で時間を費やせるかというと余りにもコスパが悪すぎる。

 

 さらに言えば、今回の件でコンテスティ男爵家も慎重になるから余計に難易度が高くなるはず。

 

 私の見立てでは、だったら他を当たった方がいいと切り替えるんじゃないかと思っている。

 

 と言う内容を男爵に伝えると「ふむ…… 確かにマルグリット嬢の言う事にも一理あると思う」と納得して頂いた。

 

 とはいえ、警備は厚くしてもいいんじゃないかということで一旦の決着はついた。

 

 

 

 話しするべき内容も話したと思うのでそろそろ私達も家に帰る事にした。

 

 

 

「クララ、私達はそろそろ帰る事にするわ。ご両親とも問題なさそうだし、長居するのもね……」


 クララは一向に引かない。私を帰らせない気満々だ。

 

「マルグリット様、何をおっしゃるんですか? マルグリット様は今日から私と家族になるんですよぉ…… 毎日一緒に暮らしましょうねえ」


 病みクララさんが準備運動を始めた。ここで帰らなかったら本当に帰るタイミングを見失ってしまう。

 

 というか、クララが帰してくれないと思う。

 

「メリッサ、準備の方は出来ているの?」


 私はやぶれかぶれで強引にメリッサに無茶ぶりをしてみた。

 

「お嬢様、既に必要な荷物は馬車に積んでおりますのでいつでも出発できます。ヘンリエッタ、ナナにもいつでも出れる準備をする様に伝えております」


 うーん、優秀過ぎて逆に怖い。彼女が味方で良かったー。

 

「そんな、マルグリット様…… 私を置いていくだなんて…… 私と誓った愛は嘘だったのですか?」


 決して愛を誓った覚えなどない。最近のクララは妄想癖が凄い事になっている。

 

 そしてそんな冗談にマルガレーテ様が思いっきり反応していた。

 

「クララとマルグリットちゃんがそんな関係になっていただなんて…… しかし、母は寛容ですから、二人の幸せを祈ります」

 

「あぁ…… うん…… 最近はそういう生き方を選択する貴族も少しながらいるみたいだが…… クララは一人っ子だから…… 本来は婿養子を入れて家を存続しないといけないのだが……」

 

 男爵の勢いが思ったより弱い…… 貴方はご当主なのだからもっとズバッと言ってください。

 

 マルガレーテ様は鼻息荒くして声を強めて男爵に嬉しそうに振り向いていた。

 

 ちなみにクララと違って獣の様な目つきでターゲットを男爵に向けていた。クララとは違う意味で怖いわ。

 

「アナタ…… クララに弟を作りましょう」


 あの…… 申し訳ないんですが、そういう話は私達がいなくなった後にして頂けませんか?

 

 子供がいる場所でする話ではありませんよ。男爵は表情にはほとんど出さないものの、頬を赤らめて嬉しそうな雰囲気を出しているのは伝わってくる。

 

 しかし、このままでは私はクララとの押し問答で前に進め無さそう。

 

 だから強引に押し通すまで。

 

「クララ、貴方はご両親に会う事を躊躇していたけど、実際に会えてどう思ったかしら?」


 私の質問の意図が分からなかった様で、表情から「何言ってるんですか、マルグリット様?」という思考が伝わってくる。

 

 それでも彼女なりの回答を示してくれた。


「それは…… とても嬉しかったです。てっきり私の事などどうでもいいと思ったからこそ自分可愛さに王都に逃げたのだと思っていました。ですが、実際はその裏では私の為に色々動いてくれていたんだなって…… それを知った時に本当は愛されているのだと分かりました」

 

 逃げたって…… お母上とお父上の目の前でぶっちゃけすぎてない? 

 

 お二人はとても申し訳なさそうにしているけど、クララが自分の世界に入ってしまったらもう止め様が無いからお二人には大変申し訳ないけど聞き流してほしい。

 

「そうよね、ご両親は自分の為じゃなくて愛する娘と早く再会したいが為に、お二人は自身のやるべき事をやっただけなのよ。私もやるべき事をやったわ、だからそろそろお父さまとお母さまに会いたいのよ」

 

 私が両親の事を出すとクララは「ハッ!」として表情で私を見ていた。正直、私はクララがご両親と再会した場面を見た時に私も両親に会いたいなって思ってしまった。

 

 ホームシックという訳じゃないけど…… 精神が肉体年齢に引っ張られているのかもしれない。だから無性に会いたくなってしまった。

 

 するとクララはようやく理解をしてくれた。申し訳ないような表情で私を遠慮気味に見つめていた。

 

「分かってくれて嬉しいわ。でもそんな寂しそうな顔をしないで頂戴、もしよかったら今度は貴方がうちの屋敷に来ていただけないかしら。大歓迎するわ」


 するとクララは嬉しそうに

 

「絶対行きます! 未来の義父様と義母様にご挨拶させて頂きますね。うふふ、今から楽しみです~」


 当然、友人枠として紹介はするけど…… 配偶者枠で紹介するつもりはないからね……。

 

「あら、だったら私もついて行っちゃおうかしら、アニエスに会いたいし……。もしかしたらアニエスと親戚になるかもしれないわね」


 ちょっ、お願いだから煽らないで下さい。マルガレーテ様の言葉にクララは鼻息荒くして目を輝かせている。

 

 

 

 そんなこんなでようやく私達はグラヴェロット領に帰る目処が着いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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読者様の応援が私のモチベーションとなりますので、何卒よろしくお願いいたします!

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