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第六十八話:クララのご両親とご対面

 私、ナナ、ヘンリエッタ、メリッサの四人はコンテスティ男爵家に翌日からお世話になっている。

 

 私はクララと同行する事が多く、時間つぶしの為に魔法制御訓練を継続したり、クララの部屋でお互いが読んだ小説の感想や考察など行って日々を過ごしている。

 

「マルグリット様ぁ~、この『婚約破棄された令嬢は引きこもりクソニートに溺愛される~気がついたら私も引きこもりクソニートになっちゃった~』がおススメなんですけど、まだなら一緒に読みませんか?」


 なんなの、その救いようのないタイトル……。ロクな結末にならなそうだからあまり読みたくない。

 

 現実はともかく、フィクションの世界だけでもハッピーエンドもので心安からにしたいわ。

 

 そういえばこの子って初めて会った時からちょいちょい口にする単語に『NTR(寝取られ)』とか『不倫』といったその年代の少年少女が口にすること自体が不自然な言葉が出て来るんだけど…… この子ってドMなのか破滅願望でもあるのかしら。チョイスする小説からも恐らくそう思われる。いつか半笑いしながら「脳が壊れる~」とか言いそうで怖い。


 クララはそんなことを言いながら、私に身体を寄せてきて甘えてくる。

 

 なんだろう…… 両親が離れて暮らしている上にペトラまでいなくなって私に心のよりどころを求めるのは分からなくもないけど…… 後方にそれぞれのメイドがいるので控えめにしてほしい。

 

 ナナは後方からその光景を見て身体を震わせながら苦笑いしている。若干握りしめた拳に怒気を感じるのは私だけだろうか。

 

 ナナ…… あくまでこれは貴族同士の友情の深め方なのよ……。勘違いしてはダメよ。

 

 そんなナナはメイド専用の休憩室ではお人形が如く可愛がられているらしい。

 

 そりゃあ、現役九歳のメイドなんて珍しいから仕方ない。

 

 それに、可愛い! そんなナナが入れる紅茶は誰よりも美味しいと評判!

 

 私は飲みなれてるから、「いつもの味ね」という表現しかないけど…… やっぱり外出先ではナナが入れる紅茶より美味しい紅茶に出会った事は無い。

 

 その隣にいるクララの新しい侍女であるエヴェリーナ…… クララから聞いた話、彼女はペトラからお嬢様に近づかない方がいいと言われ、その言葉を信じてペトラに全てを任せてしまった。その結果、気が付いた時にはクララが孤立する様な事態になり、酷く後悔したのだという。あの日…… クララから直接自分を避けた理由について説明したのも彼女だという。あれがきっかけでペトラ殉職後に贖罪の為に自らクララの侍女に立候補したのだとか……。現在は彼女の屋敷内の使用人達へ根気強い説明を行い、以前の様にクララを避ける使用人はいなくなった。

 

 そんな彼女は私とクララが仲良く(?)している光景を微笑ましく見つめている。

 

 メリッサは屋敷内で足りない人手の業務を肩代わりしながら屋敷内の警備も担当している。

 

 ちなみにメリッサのメイドとしての力量は五人分らしい。警備も担当してそれなの?

 

 あれ…… うちではお母さまの侍女だったわよね。もしかしてお母さまの相手をするのに五人分働けるに加えて警備できるメイドじゃないと務まらない可能性があるかもって事……?

 

 お母さま…… 貴方は一体侍女に何をさせてるんでしょうか。

 

 ヘンリエッタは衛兵たちと訓練を行っているとのこと。

 

 彼女は胸を借りるつもりだったらしいけど、蓋を開けてみたら彼女が胸を貸している立場らしい……。

 

 そんなヘンリエッタはまだ十九歳。こんな小童にしてやられるコンテスティ男爵家の衛兵諸君はこれを機にもう少し己を見直してほしい。

 

 客観的にみると…… 実はうちの屋敷の使用人達って実は優秀なのでは?とか思ったりもする。

 

 

 

 そんな生活を続けておよそ十日が経過した。

 

 

 

 私はクララの部屋で相変わらず小説の感想など言い合っていた所、エヴェリーナがクララの部屋へ早足でやってきた。

 

「クララお嬢様、マルグリット様、旦那様と奥様がお戻りになられました」


 クララの表情はやはり硬い…… まだ不安があるのでしょう。

 

 私はそんなクララの頭を軽く撫でるとクララはこちらを見返してくる。

 

 私は無言で首を縦に振って立ち上がると、クララも私に呼応するかのように立ち上がり、私の後ろについてくる。

 

 本当はクララの屋敷だから私よりもクララが前を歩くべきなんでしょうけど、仕方ない。

 

 入口までいくと既にご当主と夫人らしき二人に対して使用人たちが頭を下げている所に出くわした。

 

 コンテスティ男爵と思われる方は私のお父さまの様な強面で筋肉質な体型とは違って、細身でメガネを掛けたまさしく文官って感じで落ち着いた人。

 

 夫人の方はというと、ちょっと前までのクララを大人にしたら丁度いい感じの女性。

 

 ここでモタモタしていたらクララは何時まで経っても躊躇ってしまうでしょう。

 

 よって私はもう足を止める事無くズカズカとお二人の前に姿を現す事にした。

 

 そして私の後ろで存在を消そうとしているクララの肩を掴み、「えっ!?」という反応と共にクララを前に突き出した。

 

 クララはどうしていいのか分からずアタフタしている。いいわね、この反応。

 

 久しぶりの小鹿っぷり。なんか新鮮でいいわ、ククク…… さぁ、感動の御対面よ。

 

「お…… お、お、おととととうさままままま、おかかかあさまっまま――」


 クララは身体をガタガタ震わせながら喋っていた為か声も震えて言いたい事が言えぬまま…… その直後、一つの影がクララを包み込んだ。

 

 それはコンテスティ男爵夫人――クララのお母さまであるマルガレーテ様がクララに飛びついたのだった。

 

「クララ! ごめんなさい、ずっと一人にしてしまって…… 許してもらえるとは思ってない…… けど! もう逃げないから…… 一生を掛けてでも貴方と向き合い、自分が仕出かしてしまった事の罪を償いたいの」


「お…… おかあさま……?」

 

 クララ的には想定していなかった事態が発生した様で、私の方に視線をやって助力を求めて来た。

 

 場の雰囲気を壊さない様に声を上げずに身振り手振りで「いいから自分の思いの丈を伝えなさい」とクララに伝えた。

 

「わ……わたし…… あの時よりもずっと…… 魔法…… 使いこなせる様に…… なっだんでずゔ……っ…… いづが…… ふだりがあ、帰ってきてもいいようにっでぇ…… ふぐっ…… ずっど、ずっどざみじぐでぇ…… ひっく……」


 母娘が抱き合って大泣きしている。私はこういうシーンが苦手だったりする。

 

 だって…… 貰い泣きしてしまいそうだから……。周りのメイド達は既に何人か貰い泣きしている。

 

 一頻り泣き終わった後にコンテスティ男爵が二人に近づいて抱き締めていた。

 

「クララ…… 長期間屋敷を離れていてすまなかった。マルガレーテの体調と精神的な面で一度ここを離れたのは事実だが、それ以上にやらなければならない事があったからだ。それに時間が掛かってしまったのが原因なんだ」


「ぐすっ…… やらなければならないこと?」


「あぁ、その話をするのに……」


 コンテスティ男爵が私の方をチラッと目を向けると「こちらのご令嬢を紹介して貰えるかな」とクララに促していた。

 

 クララは目を擦って呼吸を整えると私の隣に来て腕を組んできた。

 

 いや、腕は組まんでいいから……。

 

「私の魔法の家庭教師を担当して頂いたマルグリット様ですっ! すっごいんです、マルグリット様は! 凄腕の魔法使いかと思ったら実は超絶カッコイイ騎士様だったんですよぉ、えへへっ」


 おおうぃ、その説明までしなくていいいから! 雑な説明のせいで若干混乱気味のコンテスティ男爵と夫人。

 

 クララに任せていたらいつまでたっても終わらなそうなので自分から挨拶する事にした。 


「お初お目にかかります。只今ご紹介に預かりました、アニエス・グラヴェロットの娘、マルグリットと申します。母からはマルガレーテ様と懇意にして頂いていると伺っております」


「貴方がアニエスの…… というか一瞬、学生時代のアニエスが目の前に現れたかと思っちゃたわ。それに、母娘揃って仲良しになるなんて嬉しくなっちゃうわ」

 

 

 

「えっ!? お母さまとマルグリット様のお母さまはお知り合いだったのですね。これは最早…… フフッ、ウフフッ…… やっぱり運命なんですね、私達の出会いは」

 

 さっきまで泣いていたシリアスシーンはなんだったのか……。またいつものクララに戻ってしまった。

 

「さて、自己紹介も終わった所でマルグリット嬢…… すまないが、今回の件で聞きたい事があるので書斎まで来てもらえるかな」


「分かりました。当事者と言う意味では当家のメイドであるメリッサにも参加させたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わない」


 私は後方で待機しているメリッサに視線をやると、私の真後ろまで来たので共に書斎に行く事にした。

お読みいただきありがとうございます。

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