第六十三話:愛と憎悪
「マルグリット様、貴方は遠距離攻撃の手段を持ち合わせていませんね」
「な、な、な、なんのことかしら~~? 貴方なんてチョチョイのチョイなんだからねっ!」
「…………あの、隠すにも全く隠せてない程に演技が下手くそ過ぎますよ。もう少し言動に出ない様に工夫すべきかと……」
キィィィィ、何でバレちゃうのよ。私的にはうまく隠したつもりだったのだけれど……。多少目は泳いでしまったかもだけど……。
それに私は攻撃魔法が全く使えないわけではないの…… 魔力回路の問題なのか不明だけど、想定した出力の十分の一以下の威力にしか満たないのだ。
だから実用レベルまで魔力を引き上げようとするとすぐにすっからかんになってしまい、魔力展開すらまともに使用できなくなってしまう。
それではやられるのは目に見えている。とはいえ、空中にいる相手に対して距離が届かない問題をどうにか解決しないと先に進めないのも分かってる。
ペトラは現在、地上から十メートル程の高さで静止している。
空中から魔法をバンバン打ってきて、私の動向を確認している様だった。
そして、私が反撃してこない事で確信を得たと思われる。
グランドホーン戦で分かったけど、魔力展開時の私のジャンプ力は精々五、六メートルがいい所。
今検証中の新しい『纒』を使えば多分その倍くらいならいけると思う。
とはいえ、一度でもそんなものを見せたら更に上空に飛ばれてしまうと思うから迂闊に使えない。
ここぞという時に取っておかないと……。 と思って他の方法が無いかと思ったら目の前の足元に私の握りこぶしと同じくらいの石があった。
これ……いけるのでは? と思い拾い上げて…… 私は足を大きく上げて地面に叩きつけた勢いで石ころを思い切りぶん投げた。
「マルグリットォ、今必殺のぉぉぉぉ…… ストーンボォォォォル(物理)」
「なっ!?」
進路はクリア。このままなら当たると思ったのも束の間、ぎりぎりの所で顔を掠める程度で避けられてしまった。
掠めた箇所からは血が流れていた……。もしもまともに当たっていたらどれだけの威力だったんだろう。
避けにくいボディを狙うべきだったか。いつか読んだ小説に『顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを』なんてフレーズがあった事を思い出した。
使い道が違う言葉だったかもしれないけど、何で今頃思い出してしまうのか……。自分の子供サイズの脳みそが恨めしい。
ペトラはまさか石ころをぶつけられると思っていなかったようで、しかもかなりの猛スピードだった為か、かなり焦っているようだった。
「あ、危なかった……。 あのスピードでまともに顔で受けていたらさすがに大ダメージでしたが、天は私に味方をしたようですね」
他に落ちてる石は…… 無い…… 見つからない。
「お屋敷のお庭は基本整備してますから、しょっちゅうそんな石が見つかるとは思わない事です」
さぁて、どうしよう……。
◆
先程はマルグリット様の前だったから、つい見栄を張ってしまったけど…… 正直使用人たちに会うと思うと気が重い。
魔力暴走を起こしてから、使用人たちの私を見る目が変わっていた事はすぐに気が付いた。
自分の家なのに、自分だけが疎外されてのけ者にされて居心地が悪くて、まるで突然現れた愛人一家に家を乗っ取られてぞんざいな扱いを受ける小説の主人公の様な感覚。
私の味方はペトラだけ…… そう思っていた中、突然目の前に颯爽と現れた英雄の様なマルグリット様…… 怖い人たちに絡まれて人生終わったと思った時に救ってくれた、私にとっては白馬に乗った王子様そのものと言ってもいい人。
私と友達になりたいと言ってくれた人。
私の過去…… 魔力暴走を聞いてなお、家庭教師を買って出てくれた人。
同い年とは思えない程に落ち着いて、魔法に関する知識もあり、私の趣味である小説にも興味を示してくれた……。
ん? 待って……
こんな自分の趣味や興味ある知識にここまでマッチする人っている? いえ、いないわ(断言)
しかも私より小さいのにあんなにお人形の様に可愛らしくて愛らしいが故に毎日ベッドで頬ずりしながら首筋クンクンぺろぺろチュッチュしながら眠りに着くことが出来ればどれだけ毎日が幸せなのかしら(性癖爆誕)
これは最早、運命の人と言っても過言ではないのでは?(過言です)
相性診断なんてしたら絶対に相性抜群とか言われる(何故か疑いの余地なし)。
いえ、実は既に言われちゃってるのよ(捏造)。
そうだわ、運命の人は別に異性である必要はないもの…… きっと…… いえ、”間違いなく”あなたは私にとって運命の人なんです……。
マルグリット様…… 私は……
貴方をお慕いしております。
フフッ…… フフフッ…… アハハッ!
そうよ、私は今まで一体何でどうしようもなくつまらない事で悩んでいたんだろう。
あの人と添い遂げる為と考えたら今までの悩みなんて……
全てが些事。
フフッ、待っててくださいね。
マルグリット様。
それと…… ペトラの姿が無い。
マルグリット様と会話して以降…… だから私は何となく察していた。
マルグリット様が言っていた『不審者』とは誰の事なのか。
本来、マルグリット様より先に会わなければいけない、駆けつけなければいけないはずの私の専属メイドである貴方がここに居ない事がそもそも不自然なのよ。
魔力暴走以降にペトラが頻りに屋敷の外へ連れ出そうとしていた事も…… もしも、あれを仕組んだのがペトラだったとしたら?
そう仮定すれば全てのつじつまは合う。
でも言うに言えなかった。
だって、私の味方はペトラだけだったんだから……。
でもそれすらもペトラの仕込みだったら?
私は最悪のケースを考えながら、メイドたちが寝泊まりしている部屋に入っていった。
彼女等は外の騒ぎに気付き始めて目が覚めたものも何人かいたが、私が突然部屋に入った事にさらに驚いていた。
「ヒッ! お、お嬢様…… ど、どうしてここに……」
「私が私の屋敷で動き回る事がそんなに不自然かしら? それよりも貴方に聞きたい事があるのよ」
無表情の私が近づいたせいかメイドは怯えている。
違った、私の力に怯えているんだっけ……?
最早そんな事はどうでもいい事。
私はマルグリット様から言われた事を実施する事、そして聞かなければならないことが有った。
「私が魔力暴走を起こして以来、貴方達は私を避けるようになった。それは本当に私の力に怯えただけなの?」
私の質問の意図がわからなかったのか、メイドはキョトンとした表情をしている。
「どうしたの? 早く答えて」
「あ、あの…… クララお嬢様…… ですよね……?」
「私が私以外の誰に見えるというの、時間が無いから早くして」
「あっ、はい。ペトラから言われたんです。『原因がはっきりするまではお嬢様に近づかない方がいいかもしれないわね』って…… だから周りにもそう伝えて……」
やはり…… この発言を聞くまで、ほんの一欠けらだけ残っていたの…… 貴方に対する感情がね。
「そう、ありがとう。貴方は屋敷に寝泊まりしている使用人たち全員に声を掛けて全員食堂に集まる様に声を掛けてきて。庭に不審者がいるらしくて、マルグリット様が今対応してくれているの。被害を抑える為にも一番遠い場所にみんなで集まって頂戴」
「あ、あの…… お嬢様。大変申し訳ありませんでした。私達、お嬢様が苦しいと分かっていて、声を掛ける事を避けていました。ペトラから言われた事もありますけど、やっぱりどうしても怖くて……」
彼女等の気持ちも分かる。何しろ、二回目の時はハッキリと実感していたから……。
あの時の恐怖は形容できる言葉が無い程に……。
本人がここまで恐怖していたのだから、周りの…… 特に魔力に知識が無い人間からしたら、私なんてただの爆発物にしか見えないでしょうね。
「私が貴方の立場だったら、同じことをしたかもしれない。だからこれ以上、とやかく言うつもりはないわ。でも今後は出来れば普通に接してくれると嬉しいわ。マルグリット様から色々叩き込まれたからもう大丈夫よ」
「はっ、はいっ! 本当に申し訳ございませんでした。あの…… 他の皆には私から伝えておきます。では、行きます」
そう、私は運命の人に再び救われた……。
あぁ、マルグリット様…… 私と貴方はやはり出会うべくして出会う運命なんですね。
そしてその喜びを打ち消そうとするもう一人……。
ねえ、ペトラ…… 知ってる?
私の貴方に対する感情が…… 愛から変わる事は無いと思っている?
だとしたらそれは……
とても、とても大きな勘違い。
私から貴方に教えてあげないといけない事があるの。
愛と憎悪は表裏一体なのだと。
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