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第五十六話:ペトラの過去⑩

 司教様の元を離れて二カ月が経過した。それは司教様と会えなくなった期間でもある。

 

 目的地であるコンテスティ領は私がかつていたゲンズブール辺境伯領からは国の端から端に移動する様な距離。

 

 まもなく到着する、そんな事を考えていたら御者の方に話しかけられた。

 

「この二か月間、アンタの事をちょいちょい見てたが、どうにも上の空になってる事が多くないか? そんな事であの御方の命を遂行できるのか不安なんだが……」


 しまった……。 これから長期間に渡って私は聖女候補の少女に接触して、司教様の元に連れて帰るという任務がある。

 

 なんだけど、彼女の信頼を得るまでどのくらいの時間がかかるのか…… それはすなわち司教様とお会いできない時間でもある。

 

 そう考えてたら寂しくなってしまい、ため息を尽きながらあの人の事ばかり考えてしまう。

 

 それを…… ずっと見られていたなんて…… 恥ずかしいというのもあるけど、こんな情けない所をあの人に報告されても困る。

 

 気合! 気合を入れなさい、ペトラ。私はそう心の中で叫びながら両の頬を手で何度か叩く。

 

「だ、大丈夫です! 任された任務は必ず成功させて見せます」

 

「そ、そうか…… ならいいんだが……」

 

 自分の頬を叩き過ぎたせいか、真っ赤に腫れあがった姿を見てドン引きしてたけど、なんとか納得はしてくれたみたい。

 

「そういえば、何時迄にお連れすれば良いのか聞いていなかったのですが、何かご存じありませんか?」

 

「早いに越したことはないが、出来れば三年以内には連れ出してくれ。聖女としての礼儀作法、すべき事など教え込む事は多い。適性年齢になったら学園にも通ってもらう事になる。同年代の貴族や王族に気に入ってもらえるようにな」


 三年…… とても長く感じる。それでもあの人が私を信じてくれたからこそ与えてくれた任務。

 

 そうこうしている内にコンテスティ領の領都であるモーレットまで目と鼻の先まで来ていた。

 

「先に伝えておくが、アンタは教団の協力者である伯爵からの紹介で雇われる事になっている。俺はアンタのサポート役として同じ街に滞在はするが、別口で仕事をする予定だ。後で連絡先は伝えるから何かあったらすぐに情報共有してくれ」


「わ、わかりました」


 彼はそう伝えると、コンテスティ男爵邸の前で降ろしてくれた。

 

 門番の方に伯爵の紹介であることを告げると、屋敷の中に通してくれた。

 

 ご当主と奥様にまずはご挨拶をと書斎に通された。ここで奥様とも初対面だった。

 

 私は過去の経緯から貴族が嫌い、信用できる人間はいないと思っている。

 

 だから私は貴族と対面する時は細心の注意を払う事にしている。

 

 案内されたソファに座り、労働条件、給与などの話が始まった。

 

 ご当主の話を聞きながらも、彼らの言動含めて一挙手一投足を確認する。

 

 私の仕事は当主の娘であるクララ様の侍女を担当するとの事だった。

 

 前任の侍女が結婚して妊娠したため、お屋敷で働けなくなったから退職せざるを得なくなったというのが事情らしい。

 

 いいタイミングで退職されたものだけど…… あまりにもいいタイミング過ぎて本当に偶然なのか疑ってしまう程。

 

 もしかしたら教団がその侍女に男性を紹介して…… なんて、余計な事を考えるのはやめましょう。

 

 今私がやるべき事は聖女候補であるご令嬢を司教様の元に連れて行く事。

 

 一通りの説明が終了し、出された条件に従うと、すぐに着替えをする様に促されてお嬢様の元に連れていかれる事になった。

 

 通された先で出会ったのは…… まるでお人形の様な可憐な少女だった。

 

 今までロクな貴族としか出会いの無かった私にとっては衝撃の出来事だった。

 

 こんな貴族がいたのかと…… まるで何も知らない真っ白で無垢な少女。

 

 見た目もさることながら、全く邪気を感じない様な清楚な…… そう、まさに聖女に相応しい少女だった。

 

「お初お目にかかります。本日より、お嬢様の侍女を務めさせて頂くペトラと申します」


 私が頭を深々と下げて挨拶をすると、お嬢様はにっこりと微笑み、私の目の前まで来てくれた。

 

「ク、クララと申します。こ、これからよろしくお願いしますね、ペトラ」


 若干たどたどしい挨拶ではあったことから、恐らく人見知りがあるお嬢様なのかもしれない。

 

 しかし、それを含めても可愛らしく感じるお嬢様に心酔…… あるいは一目惚れをしてしまったのかもしれない。

 

 

 

 私は…… 貴方を必ず聖女にして見せます。

 

 

 

 私は翌日以降から、お嬢様の身の回りのお世話を積極的に始めた。

 

 少しでも……長く貴方の御傍にいることが出来ればそれで幸せなんです。

 

 お嬢様のお世話を始めて八カ月程経過した頃だった。

 

 

 

 偶々近くを通りがかった魔法を専門で教えている貴族がお嬢様に隠された魔力を見抜いたそうで、自ら家庭教師にしてほしいと売り込みに来ていた。

 

 旦那様は奥様と相談した結果、その家庭教師を雇う事にした。

 

 

 なんて好都合なんでしょう。お嬢様の潜在的な魔力が自由自在に扱えるようにさえなれば聖女への道が一気に開けると言うもの。

 

 お嬢様に相談された時に私は二つ返事で賛成した。

 

 私が喜ぶとお嬢様も喜んでくれた。

 

 私はその内容を仲間…… 私をここまで運んでくれた御者に定期報告を行った。

 

「――えっ…… 今何と……?」


 今のは私の聞き間違いかもしれない……。

 

 そんな内容だった。とてもじゃないけど、受け入れがたい内容……。


「お嬢さんの魔力制御は可能になって来たんだろ? だったら、時期を早めて帰還するために魔力暴走を意図的に発現させて孤立させろって事だが…… 理解できてるか?」


「わ、分かりません。どうして魔力暴走をさせる事が孤立させる事に…… それにお嬢様をお屋敷内で孤立させる事に何の意味が……」


「魔力暴走って奴は魔力量にもよるが、場合によってはかなり広範囲で被害をもたらすことが出来る。そうすると…… 邪魔者を近くに置いとけば一掃できるし、離れていたとしてもお嬢さんが怖くて今後近寄る事もできない。結果としてお嬢さんは屋敷内で孤立して…… 居場所をお前さんが作ってやれば簡単について来てくれるんじゃないかって話しさ」

 

 魔力暴走だの、孤立だのあまり理解したくないような内容だったけど……

 

 嫌な予感が当たってしまった。

 

 あのお嬢様に…… 可憐で麗しいお嬢様にそんなことを私が……

 

 私が頭を抱えていると仲間は私の表情を察してか、説得をしてきた。

 

「アンタがお嬢さんの事を第一に考えているのわかるが、俺達の任務はそのお嬢さんを主の元へ連れて行く事だぞ。それを間違えるな…… それに少し強引ではあるが、その方がアンタの為にもなる」

 

「私…… の?」


「あぁ、お嬢さんを早めにこちらに来るという意思を持たせれば…… それ以降はお嬢さんも司教様と一緒に過ごすことが出来る。それがアンタの今の望みじゃないのかい?」


 確かに…… それが理想の形。

 

 だけど…… その為にお嬢様の心を追い詰めなければならない。

 

 私に出来るんだろうか……。

 

「ついでにこれを渡しておく」


 そう言われて受け取ったのは、ブローチだった。

 

「これは……?」


「教団の伝手で入手した魔道具って奴さ。効果は魔力発動をトリガーに本人の潜在魔力を強制的に限界まで引き出すそうだ」


「暴走……」


 私の意思が固まっていないことが伝わったのか、彼は呆れた様に一言だけ残して去っていった。

 

「アンタがそうやって躊躇えば躊躇う程、お嬢さんの精神はどんどん蝕まれていく方向に追い込まなけりゃならん事になるかもしれない。そうなる前に終わらせておけ」

 

 やるしか…… ない…… か……

お読みいただきありがとうございます。

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