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第四十九話:ペトラの過去③

 ヴェルキオラ教……

 

 もちろん知ってはいます。村に教会はありませんでしたが、私の村にも信者はいましたから。

 

 大陸最大の宗教であり、国として体を成す程に巨大な組織。ですが、私自身は信者でも何でもありません。

 

 神に祈った程度で作物が育つなら苦労はしませんし、土地のやせ細った寒村だと特に作物を選ばなければなりませんから他を気にしている余裕もありませんでした。

 

 それに、教会ってどうしても領主を始めとする貴族から寄付と称して多額のお金を貰って、楽な生活をしてるんじゃないの? なんて勘ぐったりして良い印象はなかったんです。

 

 だからこの時も「この人は金銭と引き換えに領民の情報を売る為に領主とつながってるんじゃないか…… だとすると私の敵かもしれない。迂闊な事は言えない」なんて警戒していました。

 

 アンドレイ司教様も私が警戒している事に気付いたのか、苦笑いしながらこう言ってくれたんです。

 

「ご安心ください。教会に来られたという事は神に助けを求めているという事。私達は助けを求めている方達に対して無下にしたりはしません。悩みや困りごとがあるのでしたら何時でもお聞きしますよ。一人で抱えるより誰かに話す事で心が軽くなったりしますから遠慮しないでください」


「ありがとうございます。私の方も身の回りで色々あり過ぎたせいか、まだ心の整理が出来ていないと言いますか…… 少々お時間を頂きたいのです」


「わかりました。落ち着いてからで構いませんので、それまではここで養生されると良いでしょう。私は一旦外しますね」


 そう言うとアンドレイ司教様は部屋から出ていきました。

 

 良かった…… これで数日は時間が稼げそう。その間にここから逃げるか、逆に情報を引き出すか考えないと。

 

 それから数日間を教会で過ごし、体調も回復して少し落ち着いてきたのですが、結局どのように切り出すか考えは纏まりませんでした。

 

 するとアンドレイ司教様から切り出してきたんです。

 

「目を覚まされてからの数日間、貴方を見ていましたが、まだ悩まれているようですね。整理が出来ていないというよりは口にし難いから躊躇しているのではありませんか?」

 

「そ、それは……」


 どうしよう、反論できない。「領主と幼馴染一家に復讐したいです」なんてとてもじゃないけど、私の口からは言えない。

 

「では私からお聞きしましょうか? それは『復讐』ですね?」


 口から心臓が飛び出てしまうんじゃないかと思うくらいに驚いてしまいました。まるで心を読まれてるんじゃないかって思うほどでした。

 

「どうしてそう思われるんですか?」


「目を見ればわかります。貴方の目は覚悟を決めた人間の目をしている。自分の手を汚す事も死ぬ事も辞さないの覚悟をね」


 目か…… そんな事気にも留めてませんでした。他者に簡単にバレる程、私の心は荒んでいたのかもしれません。

 

 だからもうここでほぼ諦めました。きっと私は通報されて領主に引き渡されて処刑されるのだと。

 

「だったらどうしますか? 私を衛兵に引き渡して領主への点数稼ぎでもしますか?」

 

 開き直って悪態をつく私にそれでも尚、アンドレイ司教様は慈愛の表情を私に向けてくれたんです。

 

「いいえ、私はこう言いましたよ『私達は助けを求めている方達に対して無下にしたりはしません』とね。貴方の復讐…… 私も微力ながらお手伝いさせてください」


 私は頭の中が真っ白になりました。聖職者が復讐に手を貸す? そこは止めるべきでしょう? 正気で言ってるのか理解に苦しみました。

 

「貴方は一体何を考えているのですか?」


「そうですね、こんな事を言っても貴方も私の言っていることを信じるのは難しいでしょうから…… 深夜、ちょうど日を跨ぐ辺りの時間帯に礼拝堂に来てもらえますか? そこで改めて説明しましょう」

 

「わ、わかりました……」

 

 正直言ってこの人が何を考えてるのか皆目見当がつかない。もし騙すのだとしたら、わざわざ説明などせずに私の知らない所で動いて罠に嵌めればいいのにそれをしない…… 本当に? 私の復讐を手伝ってくれるの?

 

 今の私には一人で復讐を行うだけの力は無い。もし本当に復讐の手伝いをして貰えるなら対価はなんでも払うつもりでした。と言っても私には穢れた身体しか残っていませんでしたから対価に見合うとも思っていません。

 

 または犯罪の片棒でも担がされるのかもしれない…… それでも私には悩む程、余裕がある訳でもありませんでしたから司教様の提案に乗る選択肢しかありませんでした。

 

 それから夜になり、指定の時間帯に礼拝堂に行くと司教様は祈りを捧げていました。

 

「司教様、お待たせして申し訳ありません」


「いえ、女神様に祈りを捧げていましたからお気になさらず。では、行きましょうか」


「どこにですか?」


「すぐ目の前にありますよ」

 

 そう言うと司教様は講壇にある窪みに身に着けていたペンダントを嵌めると講壇は勝手に動き出し、元の場所には地下への階段が現れました。

 

 司教様について行くように階段を降りると、そこには部屋がありました。

 

 部屋の中は荒れているというか、散らかっているだけでした。

 

「すみません、書類とか片付けてもすぐ溜まってしまうので、結局そのままにしてしまう事が多くて……」


 意外でした。見た感じ綺麗好きな印象だったから。それに言い訳してる表情が可愛らしくて…… って私は何を考えてるんでしょうか。

 

 それにしても、こんな場所で私の復讐を手伝う事を信じさせると仰ってましたが、いったい何を……。

 

「えっと、ここで何をするのでしょうか?」


「これを見てください」


 と言って彼が棚から取り出したモノは黒い玉の様な物が沢山入っている手のひらサイズの瓶でした。

 

「これは何でしょうか? 飴玉の様な? もしかして、薬でしょうか?」


「そうです。これは教団で秘密裏に開発されていた薬です。服用すると一時的にですが、人間の能力を大きく上回る力を手に入れる事ができます」


 なるほど、理解出来ました。私に薬の人体実験をさせつつ、効果が出ればその力を使って復讐すればいいという事でしょう。でも、もし効果が出なかったら……?

 

実験動物(モルモット)になれということですよね? 効果が出なかったらそのまま死ぬという事でしょうか?」

 

「まあまあ、落ち着いてください。効き目を見る為の人体実験の段階はほぼ終わっていて、今はその次の段階――戦闘試験になります」

 

「戦闘試験? でも私はただの村娘で戦いの経験なんてないのですけど……」


「そちらの方が好都合なんですよ。戦いの経験が無い方がどれだけの人間を相手にどれだけ戦えるのかサンプルデータが必要なのは確かなのですから。でも、それ以上に『共犯者』が欲しいんです。裏切らない私の味方になってくれる人がね」


「貴方ほどの地位にある人であれば幾らでも集まるのではありませんか? 私みたいな役に立つかもわからない人間をわざわざ選ぶなんて……」


「自画自賛する訳じゃないんですけど、貴方が言ったように地位があります。容姿にも自信があります。女性であれば私との関係を、男性であれば私の持ってる資産を求めて近寄ってくるでしょう。そういった欲だけの人間はいつか裏切る――だから貴方に声を掛けました」


「私が何故裏切らないと? 急に欲を出して寝首を搔くかもしれませんよ?」


「先程も言いましたよね。貴方は既に覚悟を決めている人間だと…… 目的の為なら命すら惜しまない目をしている。そんな貴方が今更なんの欲を持つというのですか?」


 そうよ、目的を忘れたらダメ。私の両親を、村の皆をを裏切って、殺してのうのうと生きているアイツ等に復讐を――それさえ叶えば私はいつ死んでも構わない。


「仰る通りです。私は復讐さえ出来ればそれで構いません。それが叶えば、残りの人生も命も私には不要ですから貴方に捧げるとお約束します」


「ありがとうございます。理想の未来の為に貴方の力を貸して下さいね」


「理想の未来? それの実現の為に共犯者が欲しいという事なんですよね? 差支えなければ司教様の理想の未来についてお聞きしても?」


「私の理想の未来とは――」


 そこで私は司教様の力を必要とする目的を知る事となる。


お読みいただきありがとうございます。

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