第四十七話:ペトラの過去①
私の生まれはエシリドイラル王国の北端に位置するゲンズブール辺境伯の中でも最も北に位置する寒村なんです。
そんな場所に位置していますから、夏は短く気温がそこまで上がる訳でもありません。
また、冬は長いためとにかく寒い時期が多く生きるだけでも大変です。
土地もやせ細っており農作物の育ちもあまりよくありません。
他の領の事はあまり知りませんが、税は八割と生活がまともに生活する事も出来ずとても苦しい日々を過ごしておりました。
それでも…… 家族が、村のみんなが無事に生きていけるなら耐えていけると思っていました。
運命の日が来るまでは……
今から一年半ほど前の事です。この年は不作で例年納められていた収穫量の四割程度しか出荷できませんでした。
その内容に脱税を疑った領主様の監査官だけでなく領主様ご本人が自ら監査に来たのです。
領主様は村に到着し、馬車を降りるなり村を一通り確認した後に村長宅で今回の収穫量について直接ご報告することになったのです。
「今までは毎年キッチリ既定の収穫量は問題なく納められていたはずだが、今年に限って大分少ないようだな。」
「はい、今年は例年よりも日照時間が短く思ったより作物が生育しなかったのだと思われます」
不作による納税不足はちゃんと理由さえあれば控除して貰えるはず。理由なき納税不足は追徴される恐れがあるし、虚偽申告なら以ての外で下手すると極刑だってあり得る。
「監査官! 真偽の程はどうか?」
監査官も領主様もクスクス含み笑いをしながらこう言うのです。
「いいえ、今年は例年通りの気候であると記録されております」
「やはりな。虚偽申告は重罪であるぞ」
そ、そんなはずはない。だって私も今年は随分空が晴れた日は少ないと思っていたから…… 普段は今年の天気は何が多かったかなんて考えもしない村の皆も「今年は曇りが多いよねえ」とか言っていたくらいなのに。
なんでそんな嘘をつくのですか? まさかお父さんを処罰するためにこんな嘘を?
いや、でもそんなメリットないはず。領主様だってしっかり納税してくれた方が嬉しいはずだし、余計な諍いを起こす理由なんてないはず……。
わからない。そう考えていた時に領主様が口を開いたのです。
「ではこうしよう。今年の不足分は来年に上乗せしてもらう形で納税してもらうが、虚偽申告はイカンよなあ? 本来であれば極刑として村長一家の首を貰うところだが、優しい私は君達に慈悲を与える事とするよ」
何か条件を付けるという事? 虚偽申告扱いされてショックのあまり俯いていた私は領主様から向けられていた視線に気付いていなかったのです。
「村長の娘を私が貰い受ける事が条件だ。妾になれば虚偽申告についてはお咎めなしとしてやろう。ンン? 悪い条件ではあるまい」
もう理解が追い付かない。この人は一体何を言ってるのだろうか?
私が領主様の妾? 私の身柄が狙いだったとでも? 意味がわからない。私はただのどこの村にでもいる娘でしかないというのに……。
そう思って領主様に視線をやると、とても言葉では言い表す事の出来ない程に背中に怖気が走る表情を見てしまった。
こんな人の妾にされたら私は一体どうなってしまうのか……。 そう思っていた時にお父さんの言葉を聞いて我に帰ったんです。
「お、お待ちください。娘だけは…… 娘だけは何卒勘弁して頂けないでしょうか。他の事であれば何でも致しますから」
「ハァ…… 言ったよな? 本来であれば重罪で村長一家の首を貰うはずだったとな。だが、慈悲深い私はお前の娘の身柄一つで済まそうとしているのだ。この有難みが何故理解できない。所詮は学の無い人の皮を被った家畜という事か」
お父さん…… 身体を震わせている。侮辱に耐えているのか、代案を考えているのか…… 仮に代案があったとしても領主様はあの手この手で私を妾にしようとするでしょう。となれば、私にはもう選択肢は残されていない。それにこれ以上時間をかければその分村のみんなに嫌がらせをされるかもしれない。迷惑をかける前に決断するしかないと考えました。
「お父さん、私行きます。領主様の妾になります」
「なっ! 待ってくれ、ペトラ。もう少し何か……」
「ほう、娘は随分と聞き分けがいいようだ。」
領主様はまるで獲物を見る獣の様な視線で私を捉えていました。
私はお父さんが、みんなが心配しない様に虚勢を張る事しか出来ませんでした。
「大丈夫です、お父さん。私が行けば村の皆に迷惑を掛けずに済むから。領主様も約束してください…… 私が貴方様の妾になりますから村のみんなを助けてくださると」
領主様は舌なめずりしながら私の身体の全身を隈なく見ると「楽しみだあ」という小声で呟いた内容を聞き逃しませんでした。
この人の一挙手一投足が生理的に受け付けない。でも我慢するしかない。私がこの人を抑えられれば村の皆は助かるのだと思っておりました。
「いいだろう、お前と村の連中が私の言う事をちゃんと聞く限りは村に手出しはしないと約束しよう」
「ペトラ…… すまない」
私はこの日を最後に村を出て領主様の別館での生活が始まりました。
毎日ではないにせよ定期的に領主様は私の元に足を運ぶようになりました。私の事なんて気にしないで欲しいのにという淡い期待など抱くだけ無駄だったのでしょう。
領主様は暴力に性的興奮を覚える方の様で、私に散々暴力を加えた後で興奮滾ったモノで私をベッドに押し倒すのです。
どのくらいの時間が経過したのか…… 領主様の口から洩れる荒い息遣いを聞こえないフリして私はただ天井を見つめながら『明日は領主様は来ないはずだから何をして過ごそう』と他の事を考えるようにしました。
今行われている目の前の地獄からせめて頭の中だけでも逃げ出したかったから。
それから一カ月が経過した頃……
別館で働いているメイド達が立ち話をしている内容が偶々私の耳に入りました。
その内容は私にとって信じられない内容でした。
いつもであれば立ち話をしているメイドを咎める事などはせずに聞かなかったフリをするのですが、今回はそういう訳にもいかずメイド達に掴みかかる形で問いただしました。
「領主様が私の故郷の村に多数の兵士を送ったというのは本当なのですか?」
メイド達は「しまった」と言う表情で「い、いえ…… そんな様な話を人伝に聞いただけで本当かどうかまでは……」と言っていました。
そんな…… 話が違う……。村に戻ってみんなの様子を確かめたい。
だけど、私がその立ち話を聞いてメイド達に詰め寄ったのを他の人も見ていたせいか、抜け出す事を予測されてしまいその日の夜から警備がいつも以上に厳重になってすぐに屋敷を飛び出す事が出来なくなりました。
私は居ても立っても居られなくなり、なんとか抜け出そうとしましたが厳重な警備の目を掻い潜るまでに時間を要しました。
ですが一週間ほどしてようやく警備パターンを把握することが出来てコッソリと屋敷を出ることが出来たので一人故郷に向かう事にしたのです。
そこで私が目にしたものは……。
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