表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/111

第四十四話:マルグリットさん、犯人と対峙する

 間に合わ……

 

 

 

 

 った。

 

 

 

 

 止まった……。


 マジで息をするのを忘れていたせいか唐突に苦しくなって思いっきり息を吐いて呼吸を思いっきりしていた。

 

 クララはというと顔面が青白くなってカタカタ震えながら私にしがみついている。

 

「クララさん、しっかりして。私の方を見なさい」


「マ、マルグリット…… 様……」


 クララはそのまま意識を失ってしまった。胸に手を当ててみると…… 大丈夫そうね、心臓はちゃんと動いてる。

 

 それにしてもこのヘアピンが原因? 状況から察するにこれが原因としか言い様がない。

 

 もしこれが無理に門をこじ開けていたのだとしたら、これは只のヘアピンじゃなくて魔道具の一種だ。

 

 咄嗟に握りつぶしたから良かったものの、潰さなかったら握っていた私も次は被害にあっていたかもしれない。

 

 そしてこれをクララに何の疑いも持たせる事なく着けさせることが可能な人物は一人しかいない。

 

 今回の一連の犯人であることはほぼ確定してたけど、これで完全に裏が取れたわね。

 

 いつまでも彼女をここに寝かせておくわけにはいかない。

 

 一旦屋敷の寝室で寝かせた方がいいでしょう。

 

 と思っていたら犯人が何食わぬ顔で戻って来た。

 

「あの…… お嬢様とマルグリット様の大きな声が聞こえたので戻って来たのですが何かありましたか?」

 

 思ったより冷静にしてるわね。私が無傷であることに疑問を持たなかったのかしら?

 

「いえ、クララさんが急激に魔力を消費してしまったせいか倒れてしまったの。一旦お部屋で寝かせてあげたいのだけれど私が運ぶから案内してもらえるかしら?」

 

「は、はい。畏まりました。お手数をおかけいたします。あの…… マルグリット様は特にお変わりはないでしょうか?」


「私? 見ての通り、私は何ともないわ。クララさんも『魔力暴走』した訳ではありませんからね」


 わざとらしく漏らした単語を聞いて、今たしかに眉がピクッと動いたのを確認した。

 

 ド素人め、その程度で観察令嬢マルグリットの視線から逃れられると思わない事ね。

 

 本当は今ここで問いただしてもいいんだけど、倒れてしまったクララを放ってペトラとやり合う訳にはいかない。

 

 それに恐らくだけど、彼女が傍にいる限りはペトラも私に直接手は出してこないでしょう。

 

 うーん……

 

 あ! そうだわ、いいこと考え着いちゃった。けどその前にクララを寝かせてあげないと……

 

 それからペトラの案内でクララの部屋に通して貰い、彼女をベッドに寝かせた。

 

「ペトラ、一つお願いがあります。今日クララさんがこのような状態になってしまったので看病したいのですが、何かあった時にすぐに駆けつけられるように隣のお部屋を借りて泊まらせて頂きたいのだけれどよろしいかしら?」


 予想外の提案に「その様な事をご令嬢にさせる訳には参りません」と拒否反応を示しているが、私も負けじと食い下がるとペトラは根負けしたような表情をした。

 

「ですが…… いえ、わかりました。すぐにご用意致しますので、準備するために今しばらくお待ちください」

 

「わかりました。ありがとう」


 私はペトラがお部屋の準備をしてくれている間にクララの傍に付きっきりで容体の確認をしていた。

 

 そしていつもの時間に迎えが来ると、メリッサが居たので彼女に簡単に状況の共有と今日コンテスティ邸に泊まる旨を伝えた。

 

「お嬢様、危険ではありませんか? 私も一緒にお供させて頂けませんか?」


「いいえ、それだと相手に余計な警戒をさせることになるわ。恐らく向こうから接触してくると思うから、こちらはわざと隙を見せて無防備な状態で待ち構えておく必要があるのよ」


「奥様の大切なお嬢様を危険な目に会わせてしまったら、私は奥様に顔向けができません」


「こうしましょう。私は今日で決着を着けるつもり。だから貴方は夜間にこの周辺で待機してほしいの。万が一に備えてね…… 異変を感じ取ったらすぐに屋敷内に侵入して頂戴」


 メリッサが難しい顔をしている。けどここは納得して今は引いてもらわないと困るの。


 私はわざとらしくキラキラした目でメリッサにお願いをしてみると、メリッサは諦めたのか納得してくれた。

 

「わかりました。でも本当の本当に危険になったら私が参戦するまでは絶対無理だけはしないでくださいね。魔術の家庭教師を一撃で葬るかもしれない相手なのですから」


「もう一つお願いがあるの。私の着替えの中に軽装を入れてあるの。それを急ぎで持ってきてくれないかしら」


 メリッサも言ってたようにペトラが直接的に犯行に及んだとした場合、相応の手練れである事が伺える。

 

 こちらもすぐに戦闘可能な様に万全の用意はしておかないといけない。要するに慣れ親しんだ服でないと戦いにくいと言うだけの話なだけなんだけどね。


 メリッサは宿に戻った後に私の服を持って来てくれた。

 

 ペトラも付いて来たが、他人から見たらただの服だから特に疑う事もなく受け渡しは完了してメリッサは宿に戻っていった。

 

 その後、クララの部屋で看病を続けていた私にペトラから部屋の準備が整ったと言われたので「寝るときにお部屋を借りますね。ありがとう」と返したらペトラは部屋を後にした。


「クララ…… あなたは私が守ります。もう少しだけ待っててね」


 そういえば、クララの顔をこんな間近でじっくり見るのは初めてかもしれない。私と同じ黒髪だけどロングヘアーでさらっさら。

 

 しょっちゅうビクビクしてて気が小さいのと暗い印象があるせいか気付きにくいけど普通に美少女なんだよね。

 

 あの王子がクララを添えるのも分からんでもないけど、王妃は見た目だけで選んじゃダメだよね。

 

 ただ、今回の件でクララはもしかしたら大化けするかもしれないから自信がついたらどうなるか分からない。

 

 自信満々なご令嬢になって私の前に立ちはだかるのか…… できればそんな事はしたくないなあ、ここまで仲良くなっちゃったんだもん。

 

 クララの頭を撫でながらそんなことを思っていたら大分夜も更けて来た。

 

 私もそろそろ準備しようかなと考えながら隣の部屋に移動する。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 夜中になって屋敷全体も静まり返っている。

 

 だからこそ、この部屋に向かって歩いてくる足音は消そうとしても部屋の外からだとしても分かりやすかった。

 

 足音は私のいる部屋の前で止まり、ゆっくりとカチャリと小さな音を立ててドアが開かれてく。

 

 部屋は暗くなっており気付きにくいが、窓から漏れる月の光に微妙に照らされて入って来た人物の手に持っている金属がキラリと光っている。

 

 その金属は刃物。ナイフよりは少し大きめの包丁の様なサイズの刃物…… そんなもので刺されてしまえば七歳児ではどうにかするまえに即死してしまうだろう。

 

 そしてその刃物はゆっくりと振り上げられ――無情にもベッドの膨らみ目掛けて振り下ろされる。

 

「あなたがいけないんですよ。クララお嬢様とどんどん親密になるから…… あの人を支えるのは私一人でいいんです。今までも…… そしてこれからも」

 

 ドスッ……ドスッドスッと何度も何度も刃物を振り上げては降ろすを繰り返しているが、何度目かの時に違和感に気付いた様だった。

 

 何故ならその刃物には血がついていないのだから。

 

 良い頃合いだと思い、私も姿を現す事にした。

 

「そこに私はいませんよ、ペトラ」

 

 私は認識阻害魔法(インビジブル)を使って窓際に突っ立っていたが、何時までも自分が寝ていたであろう場所に刃物を突き立てられるのは見ていていい気分にはならない。

 

 私の声に気付いたペトラは刃物を振り下ろしていたシーツを捲った。そこにあった膨らみは丸めた毛布だった。

 

()()()上手くいかずに残念でしたね」

 

「な、なんのお話でしょうか……?」


 最早勿体ぶる必要もない。だから私は彼女に突きつける事にした。


「とぼけなくて結構。改めて説明が必要かしら? クララの前家庭教師及びゲンズブール辺境伯殺人犯のペトラさん」


 ペトラは忌々し気に唇を嚙みながら私を睨みつけている。

お読みいただきありがとうございます。

少しでも気に頂けたようでしたらブックマークのご登録及び下部の☆☆☆☆☆から評価を頂けると嬉しいです。

読者様の応援が私のモチベーションとなりますので、何卒よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ