第四十話:突撃!隣のコンテスティ邸
「お嬢様、朝ですよ。起きてください」
カーテンが引かれる音と同時に凄まじい光量が私の目を照射してくる。
まっ、眩しい。私の目が覚める前にオープン・ザ・カーテンは止めて欲しい。
「ま、待って、ナナ。私の心の準備が出来る前にカーテンを開くのは止めて欲しいのだけど」
脳は既に動き出しているのだが、目が開かない。
寝る時が一番幸せという人もいるだろう。勿論、私も寝る前にベッドに飛び込む時はそれなりの幸せを感じる…… が、逆に起きるとき、それも強制的に起こされるときは本当に地獄としか言い様がない。
「お嬢様…… お屋敷であるならともかく、今日はクララ様にお会いしに行くのではありませんか? 何の為にコンテスティ領に来たのか思い出してください」
ナナの言う通りである。全くもって反論の余地がない。
どうして人間という奴はこうなのだろうか…… さっさと起きて準備しなければならない重要な日ではあると分かっているのに目が言う事を聞いてくれない。
「分かってるわ、ナナ。でも私の目が言う事を聞いてくれないの。これはきっと目を覚ますのはまだ早いと私の身体が訴えているからなのよ」
少し間が空いた後にナナが意を決したかの様に私の耳元で呟いてくる。
「それではヘンリエッタさんにお嬢様を起こしていただく様にお願いしてきますね」
その発言を私の耳を通って全身の全細胞に行き渡ると同時に『危険信号』を発動している。
ナナ、あなたはなんて恐ろしい悪魔召喚を行おうとしているのが分かっているの? いや、それよりもヘンリエッタを使う事の意味を理解しているの?
勿論私は上半身を一気に起こして目も強制的に開かせた。
ナナの方を振り向くと、なんとそこにはナナの真横に無言でニコニコしているヘンリエッタが突っ立っていた。
しかし、私が起床した事が分かるとヘンリエッタは悲しそうな顔に変わっていく。
「ナナ、貴方…… 自分で何を言っているのか分かってるの? ヘンリエッタの…… その…… 特異性(真正の幼女好き)に」
しかし、ナナは『お嬢様は何を言ってるんですか?』と言わんばかりに私の言っていることが理解できていないらしい。
「何のお話か分かりませんけど、メリッサさんからお聞きしましたよ。お嬢様が駄々を捏ねる様ならヘンリエッタさんにお願いしたら良いと」
あー、そう言う事ね。メリッサなら気付いても可笑しくはないけど、まさかナナが気付いている様であれば私はナナに対する洞察力を改めて再評価せざるを得なかったわ。
そしてナナがまだ純真無垢な少女である事に安心した。
「さて、起きた事だし朝食を取りながら今日からのそれぞれの動きについて確認しましょうか」
「「はいっ」」
あまり他人がいる所でする話ではなかったため、宿屋で出してくれる朝食を部屋まで運んでもらう様にナナにお願いした。
朝食が運ばれてきてからは大きくはない部屋に備え付けられたテーブルにギリギリ三人分の朝食を乗せて三人が揃った所で朝食を食べ始める。
「あら、なかなかイケルわね」
「ご飯が美味しいと聞いたのでここを選んだというのが大きいですね」
どうやら宿屋をチョイスするのに周辺の聞き込みをしていたらしい。
ナナってこんなに行動派だったのね…… うーん、私の知らないナナの一面を見た感じがするわ。
「さて、満足する朝食を取りながらでいいから聞いて頂戴。今日のそれぞれの動きについて話をするわ」
二人は朝食を取りながら無言で頷く。
「昨日クララ嬢と接触出来た事は話したと思うけど、今日からコンテスティ邸にお伺いすることになったわ。暫くの間は通い続けると思うから朝からコンテスティ邸にお邪魔して夕方に宿に戻るから二人は朝は私に付き添って夕方に迎えに来て貰うまで宿で待機するか自由行動を取っていいわ」
本当は専属メイドであるナナも連れていくべきなんでしょうけど、魔力制御訓練だと知ったら後で根掘り葉掘り聞かれて最悪お母さまにまで情報が渡ってしまうかもしれない。
まだその段階ではないと思っているから魔力制御訓練時には二人はいない方が都合がいいのだ。
「お、お嬢様…… 私もですか? ナナはお嬢様の傍に居るのが当たり前だと思ってます。それともナナがいると困る事でもあるのですか?」
クッ、そう言う言い方をされると私が辛いんだよね。私だってナナを引き離すような真似を本当はしたくない。
やっぱりナナにだけは魔法の事を言ってしまうか悩んでしまう…… いつかナナにだけは打ち明けたいとは思っているけど…… 今回ばっかりはクララに専念しないといけないんだ。ごめんね、ナナ。
「ナナ、クララ嬢に起きた事の概要は話したわよね? 彼女は今精神面が不安定な状態なの。彼女にとって見知らぬ人間が大勢で押し掛ける事で精神的な負担を掛ける訳にはいかないの」
ナナはぷくーっと頬っぺたを膨らませて拗ねているが、クララ嬢の背景を知っているからか諦めてくれたようだった。
「ムムム、はぁー…… 事情は私も分かっています。今回は大人しくしておきます」
何でだろう…… 途轍もない罪悪感が押し寄せてくる。
今回の事が終わったら沢山ナナを可愛がってあげないとね。
ちなみにヘンリエッタは私達二人のやり取りを満面の笑みで聞きながら、時折鼻血を出しながらバレないようにササっと拭いているが私にはバレバレだ。
「ヨシ、準備が出来たら行きましょうか」
私達は準備をして用意してもらった馬車に乗り込んでコンテスティ邸に向かった。
コンテスティ邸の門番とはヘンリエッタに話をしてもらい呼んでもらっている。
少しして外にいたヘンリエッタから「クララ様がいらっしゃいました」と告げられてから馬車を降りると、そこには満面の笑みのクララがいた。その隣にはクララの専属メイドらしき女性もいた。
「お待ちしておりました、マルグリット様」
「御機嫌よう、クララさん。本日はお邪魔させて頂きますね」
「ヘンリエッタ、それでは夕方頃に迎えに来ていただけますか?」
私はヘンリエッタにそれだけ告げると「承知いたしました」と言葉少なげに馬車に乗り込み行ってしまった。
絶対アイツは私とクララのやり取りを見始めると止まらなくなるから断念して早々に切り上げたのだろうと邪推する。
「マルグリット様、こちらへどうぞ」
私はクララに導かれるように屋敷の中を進んでいく。
すれ違う使用人たちは言葉少なく私とクララに頭は下げるもののササっといなくなってしまう。
なるほど、極力関わらない様にしたいという私の嫌いな空気がプンプンする。
この中からクララを罠に嵌めてくれた人物を探し出さないと。
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