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第三十九話:マルグリットとクララ

 私はクララを連れて少し離れた喫茶店に入った。

 

 あまり近場だと、先程のチンピラ達に再度絡まれる可能性があり、そうなってはお茶どころではなくなってしまうから。

 

 そして、クララともう合流出来るとは思わなかったから私も少々動揺している。

 

 落ち着くため、お茶を注文しなければ。

 

「私はハーブティーを注文しようと思っているのだけれど、クララさんは何を飲まれます?」


「お、お、お、同じもので、お、お願いします」


 私は店員を呼んでハーブティー二つとついでに軽くつまめそうなクッキーを注文した。

 

 お茶が来る間に少しクララを観察することにした。前回の人生ではほとんど接点がなかったから人となりを知らないからだ。

 

 あの断罪の現場でもクララは殿下の一挙手一投足にいちいち驚いていたり、殿下の陰に隠れておどおどしていたけど、その挙動は今とあまり変わらない。この辺は生来の性格なんでしょうね。

 

 やはり殿下に無理矢理架空の婚約者として仕立て上げられたのだろうが、それでもやっぱり彼女も断罪する側に加担した事実は私の心にしこりを残している。

 

 頭じゃわかってる。彼女はきっと利用されただけなのだと、それでも心のどこかが拒否してしまう。

 

 彼女さえいなければ、フィルミーヌ様もイザベラもあんな目に会わなかったのではないかと……

 

 時が戻った今なら生きているんだからいいじゃないで済ませられる頭の中身がお花畑な性格だったら良かったのに。

 

 あの凄惨な現場を見せられて、経験した人間じゃないときっとこの想いは理解してもらえないんだろうな。

 

「あ、あの、マルグリット様?」


 私はクララの言葉に我に返った。いけない、どれだけ頭の中でマルグリット会議を続けてしまったのか。

 

 今はクララに集中しろ。お母さまからのミッションを実行中なのだから。

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまいましたわ」


 慌てて言い訳を捻りだしたらクララがぐずりだしてしまった。

 

「やっぱり私との話なんて…… つまらないですよね。…… ひっく…… ぐすっ……」

 

 げえっ、泣かせてしまったあああああああ。考えろマルグリット、今すぐ、急げ、はよおおおおお。

 

「違いますのよ。せっかく読書好きの同士に巡り合えたのですから、クララさんにガッカリされない様なおススメの本は何がいいかしらと考えていましたの」


 この言い訳令嬢マルグリットの渾身の一発! クララに届けええええ。

 

「……ぐすっ…… そうなんですか? ご、ごめんなさい…… 私、家で誰も話しかけてくれる人は一人しかいなくて…… てっきり……」


 やっぱりか…… メリッサとの話で危惧していた事は正しかったわけだ。

 

 念の為に本人から話を聞きだすべく探る事にした。

 

「クララさん、誰にも話しかけられないとはどういう事なのでしょうか? もしよろしければ私にお話ししていただけませんか? せっかくお知り合いになれたんですもの、解決できるか分かりませんが、お力になりたいのです」


 クララはぐずりながらも自身の置かれている状況について話してくれた。

 

 そこから先はお母さまの手紙やメリッサの言った通りの内容と差異がなかった。

 

 魔力暴走を仕組んだ犯人は間違いなくコンテスティ男爵家にいる誰か。

 

 であれば、私が家庭教師となって犯人を暴くしかない。

 

「クララさん、ここだけの話にして頂きたいのですが、実は私も魔力量にはそこそこ自身がありまして魔力制御(コントロール)にも自信がありますの。クララさんさえよければ私がお教え致しますが、如何でしょうか?」


 クララは突然の提案に吃驚している。俯き始めて口を開かない。

 

 むぅ、やはり暴走した事がトラウマになっているのだろうか、本人も『魔力』なんて単語も聞きたくないかもしれない。

 

 しばらく待っていると、ようやくクララがぐずりながらも口を開き始めた。

 

「わ、私…… 怖いんです。また暴走したらって…… また誰かを傷つけてしまうんじゃないかって…… そんな思いするくらいなら独りぼっちでも……」


 自分にとって大切な母親を傷つけてしまったという過去は変えられない。

 

 だからこそ、これから新たに出来るかもしれない大切な人を傷つけない為にも学んでほしい。

 

 ここから先は彼女が自分と向き合えるかどうかに掛かってる。

 

「確かに私は魔力暴走事故で大切な人を傷つけた事はありません。ですが、万が一自分の過失によって大切な人を傷つけたら貴方と同様に塞ぎこんでしまうかもしれない。だからこそ、その様な未来にしない為に自分の魔力としっかりと向き合って学ぶ必要があると思うんです。そして学んだその力は大切な人を傷つけるものではなく守る事の出来る力へと変える事ができます。今ここで学ばなかったら貴方は誰かを傷つけまいとずっと塞ぎこんでしまうだけになってしまいます。お母さまと向き合う事も出来ずに逃げるだけになってしまう。私は貴方にそうなって欲しくないのです。向き合うのは辛いかもしれない…… でも辛くなったら私にその思いをぶつければいいのです。貴方は一人じゃない――いえ、私が貴方を一人にしません。だから、もう一度だけ頑張ってみませんか?」

 

「どうして…… 会ったばかりの私にそこまで言ってくれるんですか?」

 

 どうして? 言われてみれば何をこんな熱くなってるんだ私は。仮にも目の前にいる相手は将来は私達を断罪する一味なのよ。

 

 それに…… 最初はお母さまの計画に沿って進めていただけのはずだった。

 

 でも、クララと実際に会って、話をしてみて、彼女の思いを聞いてみて――そうだ、私は気に入らないんだ。

 

 本来のクララは純粋に母親を喜ばせたかっただけの優しい少女のはずだ。そんな子を利用して、罠に嵌めて、両親を引き離して独りぼっちにして高みの見物をキメ込んで笑っているであろう犯人がムカついてしょうがない。ぶちのめしたくて堪らない。ボコボコのボコにしてやらないと気が済まない。

 

 だから、見返してやるのよ。クララと私で!

 

「私は貴方と友達になりたい。その友達が泣いている所を見たくない。理由なんて…… それだけで十分よ」


「わ、わわわたしなんかでい、い、いいんですかかかか?」


 クララが顔を真っ赤にしてアワアワ慌てている。


 落ち着け、小鹿。出会った当初並みの挙動不審具合を晒しているわよ。

 

 クララと話して思ったことがある。私はついさっきまで殿下一派の連中の事を私たちの事を断罪した連中だと、私達にとっての悪なのだと決めつけていた事は間違いない。

 

 けど、私にも彼らの知らない一面がある事が今回の件でよくわかった。

 

 クララ以外にも殿下の取り巻きである宰相子息、騎士団長子息にロイス、ディアマンテ、ジェイの三馬鹿トリオと言った連中ともクララと同様に対話が必要なのかもしれない。

 

 なぜ彼らが私達をあれだけ敵視したのか、どんな過去があって、どういった理由、経緯があってその選択をしたのかと私は彼らを知らなすぎる。だから知らないといけないと思った。

 

 まあ、殿下がクソなのはほぼ確定だけどね。

 

 もし未来を変えられるのであれば、クララを殿下に近づけさせないという事も可能かもしれない。

 

 やってみよう。どうなるか分からないけど、少しでも望む未来の為に。

 

「クララさん、早速なんだけれど、ご都合の良い時間は何時頃かしら?」


「わ、私は何時でも…… だ、大丈夫です」


「では明日から始めましょうか。魔法の訓練がひと段落したらおススメの書籍についてもお話しできたら嬉しいわ」


「ほ、ほ、本当ですか? 今の話で俄然やる気が出てまいりました。が、頑張ります」


 おい、さっきのシリアスシーンはどこ行った? 思ったよりも現金だわ、この娘。


 私達は明日の約束を取り付けて、喫茶店を後にした。

 

 私は宿を取っているという事で、クララとは一旦ここで別れる事にした。

 

 が、ヘンリエッタとナナとは未だに合流出来ていない。

 

 マズイ…… 徐々に暗くなっているのに二人の気配がまるでない。

 

 せめて宿の場所だけでも聞いてから動けばよかったと後悔した。

 

 

 

 

 私達はその数刻後にようやく合流出来た。ナナとヘンリエッタは一緒にいたらしいが、私と同じ時計回りで街を回っていたから互いが互いを追いかける形になってしまい、時間がかかってしまったのだと。

お読みいただきありがとうございます。

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