第三十六話:アニエス王都に立つ!!
グラヴェロット領を出て二週間掛けてようやく王都が見えて来たわ。
「奥様、まもなく王都に着きますが、直ぐにでもコンテスティ男爵邸宅に向かわれますか?」
うーん…… それでもいいんだけど、折角久しぶりに王都に来たんだし、ちょっとだけ見回りたいわね。
それにお土産も持って行った方がいいわよね。マルガレーテにも久々に会うのだし。
「ねえ、メリッサ。お菓子とかお土産に持っていきたいのだけれど、おススメのお店とかないかしら?」
「それは良いお考えかと思います。付近の方達に最近の王都での流行でも確認してまいります」
その発言が終わったと同時にメリッサは馬車からいなくなっていた。
相変わらずあの子って動きが素早いわね。あの子ってもしかして馬よりも早いんじゃないかしら……。
なんて考えていたらもう戻って来たわ。凄いなんてものじゃないの。この子はなんでウチにいるんだろうってたまに思うの。
侍女よりも合ってる職業が他に幾らでもあるんじゃないかしら……。
「おまたせしました、奥様。王都で人気上昇中のケーキセットにございます」
「ありがとう、メリッサ。ねえ、随分早かったけど、並んでなかったのかしら?」
「行列でしたね。ですので、裏から回ってお願いさせていただきました」
裏から……? なんで今裏からが当たり前みたいに言ってるのかしら?この子……。
魑魅魍魎渦巻く貴族社会を生き抜いてきた私から見ても謎の生態を持つメリッサ。
そうだわ! 今後マルグリットちゃんに行う淑女教育の一つとしてメリッサの尋常ならざる動きを見せて表情を相手に悟らせない訓練に参加してもらおうかしら。
きっとマルグリットちゃんもメリッサの動きを見たら『ズコーッ』っておったまげるに決まってるわ。楽しみね、ウシシッ。
「奥様…… この間お嬢様に注意されていた表情を奥様も一瞬されておりました。ご注意ください」
いけない。私とした事が…… 娘のこと言えないわね。それにしてもやっぱりメリッサの眼力は凄いわ。これは是非とも協力してもらわないと……。
なんて考えてたらコンテスティ邸宅に到着したわ。
「お待ちしておりました、グラヴェロット子爵夫人。奥様が応接間にてお待ちしております」
「ありがとう。お土産も持ってきているの、良かったらお茶の時にでも出してもらえるかしら」
「ありがとうございます。これは人気店のお菓子ですね。中々手に入らないと聞きますので奥様も喜びます。先にご案内させて頂きます。こちらへどうぞ」
通してもらった応接室にいたマルガレーテは前回再会した時と変わらぬ美貌であるものの、目に見えて疲れが出ているみたい。これは結構重症ね。
私に気付いた時は嬉しそうにしているのが分かるのだけれど、やっぱり無理して笑ってる感が凄い伝わる。
「久しぶりね、マルガレーテ。元気…… ではなさそうね。手紙を読んだ時には思っていたけど」
「来てくれてありがとう、アニエス。重い内容の手紙でごめんなさいね。もうアニエスにしか相談できない内容なの」
「マルガレーテ、安心して頂戴。このアニエスさんがパパっと解決しちゃうわよ」
「フフッ、そういうノリの軽い所は学生時代と変わらないわね。なんか安心しちゃった」
子供達には厳格なTHE・貴族を演じているけれども、実は学生時代は困った時のアニエスさんとして色んな人たちの相談に載ってたのよね。
うん、我ながら変わり身の早さは自分でもようやるわと思う。そしてメリッサが『この人本当に奥様なの?本物かしら?』という驚愕の表情を向けている。
ごめんね、メリッサ。後でちゃんと説明するから、子供達には黙っておいて欲しいの……。
「もう面倒だから学生時代のノリで言っちゃうけど、娘さん…… クララちゃんと何があったかを聞く前に娘を領に置き去りにしたまま王都にどのくらい滞在してるの?」
「半年ほどになるわ……」
「アンタねえ、まだまだ親に甘えたい年頃の娘と半年も離れて暮らしておくなんて内容によってはいくらアンタでも許さないわよ」
「わ、わかってるの。でも、どうしてもあの時の恐怖が…… 娘が怖くて仕方ないの」
マルガレーテは本気で怯えている。どうやらその点を解消しないと根本的な解決にならない事は分かった。
「怖いって何があったの? まずはそこが分からないと解決の糸口すら見つからないわよ」
「ええ、実はね…… うちの娘って潜在魔力量が桁外れに多いみたいなの。それを聞いた旦那様が家庭教師を雇って訓練をしていたのだけれど、たまたま私が見学していた時に魔力暴走を起こしてしまって…… 娘は魔力耐性もあるから軽傷で済んだのだけれど、私は魔力耐性が無くて瀕死の重傷を負ってしまったの」
なるほど、その時に余程凄惨な目にあったのだろう。マルガレーテが震えているのがよくわかる。
「家庭教師はどうしたの?」
「家庭教師もクララのすぐ傍にいたから暴走に巻き込まれてしまって、重傷を負ってしまったわ。傷が癒えた直後に責任を取ると言って辞任してすぐに居なくなったわ」
はぁ~、責任を取るのであれば魔力暴走しない様に訓練させてから辞任しなさいよ…… ていうかただの逃げじゃないそれって……。
「旦那はどうしてるの?」
「えっと…… 旦那様は調べ物があると言って王立図書館に通ってるわ。私の容体を労わってくれたりしてるからあまり通えてないみたいだけど」
夫婦そろって王都にいるのね……。 しかも娘がそんな事態を引き起こしたら家でどんな扱いされるかわかってるのかしら?
「ねえ、マルガレーテ。クララちゃんが一人であの家にいる意味わかってる?」
「ど、どう言う事かしら? 使用人たちもいるし暮らすには何の問題もないと思ってるのだけど……」
「魔力暴走を起こした直後に領主夫婦が揃って王都に逃げて、問題を引き起こした娘が一人残されるって…… そんなの使用人たちに腫物を扱うようにされてると思うわよ。万が一自分たちが魔力暴走に巻き込まれでもしたらと思って、必要以上に近寄らない様にしてるんじゃないかしら?」
「じゃ、しゃあ、あの子は今……」
カタカタ震えてる…… やばいわ、この子本気で考えていないっぽい。とはいえ、解決策かあ…… 私は魔力がほとんどないから制御訓練とかちゃんとやってなかったのよねえ。だから私が家庭教師とか無理だし……。
誰かが改めて家庭教師になって教える? いや、また逃げられる可能性がある…… どうしようかと悩んでいたらメリッサが待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「横から失礼いたします。奥様、私の方から提案させて頂きたい解決策がございます」
流石メリッサ。めっちゃ自信満々っぽい。今は何でもいいから解決案が欲しい所だったのよ。
「教えて頂戴、メリッサ」
「はい、私の提案させて頂く解決策とは……」
私はその提案内容を聞いて愕然としていた。意味が分からなかった。
「メ、メリッサ? あなた正気なの? 本気で言ってるの?」
なおもメリッサは自信満々に応える。
「はい、むしろあの御方以外にこの件を解決するに相応しい方はいないとまで断言できます」
ムムム、でも丁度いいタイミングなのかもしれない。
「分かったわ。では、手紙を書くから届けてもらえるかしら。私はもう暫くマルガレーテと一緒にいます」
「畏まりました。手紙を届け次第、奥様をお迎えに上がります」
「ええ、お願いするわ」
手紙をメリッサに渡すと、一瞬でいなくなっていた。暗殺者の家系かしら?
やっぱり不安になって来た……。本当にあの子で大丈夫なのかしら……。
お読みいただきありがとうございます。
少しでも気に頂けたようでしたらブックマークのご登録及び下部の☆☆☆☆☆から評価を頂けると嬉しいです。
読者様の応援が私のモチベーションとなりますので、何卒よろしくお願いいたします!




