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第三十四話:戦いの後……その後②

 マルグリットがグランドホーンを討伐した翌日。

 

 冒険者ギルドでは王都から対グランドホーン異常個体への討伐に向けて王都から送られたパーティが駆けつけていた。

 

 三人の冒険者が冒険者ギルドの入口手前でギルドの建物を懐かしそうに眺めていた。

 

「帰って来たね」


「二年ぶりか」


「マックスはエミリアさんに会いたいだけの理由で討伐の件受けたんでしょ?」

 

 ローブに身を包んだ魔法使いの様な出で立ちの青年に突っ込まれたマックスは満面の笑みで返答する。

 

「フフッ、エミリアさんだけじゃないさ。ギルド全ての女性に会いに来たんだからね」


「会いに来たのは女性じゃなくてグランドホーンだろうが…… こんな話は中でも出来るんだからさっさと入るぞ」


 軽装に双剣を携えた青年が二人のやり取りに口を挟んだ。二人のしょうもない話に付き合ってられないと思ったのかさっさと中に入りたいようだった。

 

 双剣の青年に押されるように入ると、ギルド内は彼らが居たであろう二年前よりも人が多く、賑わいの様相を見せていた。

 

 マックス達が懐かしそうにギルド内を見ていると、彼らが知らない顔ぶれから見たことがある、顔見知りなどもいるようだった。

 

 顔見知りの冒険者からは『久しぶり』などと言った声を掛けられ懐かしがっていた。

 

 戻ってきた理由について尋ねられると、現在グラヴェロット領で問題視されているグランドホーンの異常個体の討伐についてだと話をすると、ギルド内が一気に盛り上がっていた。

 

 どうやら彼らは今か今かと待ち望まれていた存在だったらしい。自分たちでは対処は難しいが対処可能な冒険者が来ると聞いていた、しかもそれがグラヴェロット領出身の冒険者である三人だと知ると盛り上がり方は想定以上だった。

 

 そして、その盛り上がりの原因に気付いた受付嬢エミリアは彼らに気付くと笑顔でお辞儀する。

 

 三人もエミリアに気付くとマックスが満面の笑みでエミリアの元に駆け寄る。

 

「ご無沙汰しております。エミリアさん、二年ぶりですね。相も変わらずお美しい。そろそろ僕の想いを受け取っていただきたいのですが」


「ご無沙汰しております。お待ちしておりました、『漆黒の黒き翼(ミッドナイトダーク)を持つ者達よ』(エンジェルズ)の皆様。私が受け取りたいのは想いではなくグランドホーンの異常個体なのですが?」


 しかしマックスは諦めない。

 

「では、こうしましょう。グランドホーンの異常個体を持ち込んだらデートをして下さい」


 まだまだ諦めようとしないマックスに頭を抱えるエミリア。


「マックスさんとデートしたがる女性は他にも多くいらっしゃるでしょう。私じゃなくてもいいじゃありませんか」


 デートの誘いを諦めないマックスと諦めさせようとするエミリアの一進一退の攻防が行われている中、一人の女性が二階から降りて来た。

 

 その女性の声だけでも相当な威圧感があるが、姿を見せるとその圧が一層に大きくなる。女性はマックスのナンパ行為に口を挟んだ。

 

「貴様、パーティ名だけではなく、中身も相変わらず痛々しいな。王都に行って成長したと思ったが、成長したのは煩悩だけか?」

 

 その声に盛り上がっていたギルド内が一気に静まる。

 

 割り込んだ声の主。ギルドマスターのフェリシア・ニコール・ラングフォードである。

 

 メガネをかけており、髪型はポニーテールで体つきも大きい訳ではない。

 

 パッと見た感じではギルドの事務員かと思われがちだが、彼女が放つ威圧は相当なもので軽い態度を取っていたマックスも周りで盛り上がっていた面子も一声で黙らせるほどだ。

 

 マックスは喉を鳴らし、ゆっくりと口を開く。

 

「ご、ご無沙汰しております。フェリシア様、グランドホーンの異常個体を討伐しに王都より救援に駆けつけました」


「うむ、早速で悪いが『漆黒の黒き翼(ミッドナイトダーク)を持つ者達よ』(エンジェルズ)の面々は応接室に来い。現時点での情報共有を行う」


「「「は、はい」」」


 三人はギルドマスターに連れられて応接室に入ると、ソファに座りゆっくりとフェリシアが口を開く。

 

「来てもらって早々で悪いんだが、最新情報を共有しておく。グランドホーンの異常個体は既に討伐されてしまったらしい」


「「「え?」」」


 三人は放心状態になっていた。はっとした三人はお互いに顔を見合わせて俺たちここに何しに来たんだっけ?と目的を再確認していた。

 

 フェリシアがため息を尽きながら話を続ける。

 

「お前たちの言いたいことは分かる。私もこの話は今朝突然聞かされたばかりでな、正直頭が痛い」


「だ、誰が討伐したんですか?」


「詳細は聞かされていないが、聖王教会から連絡があってな。そこには戦いを専門とした特殊部隊がいるらしくて、その連中が討伐したとの事だ」


「討伐されたという証拠はあるんですか?」


 フェリシアは立ち上がり、壁際の棚の上に置かれていた巨大な角を持ってくると、抱えながらソファに座りなおす。


「残念な事に死骸は既に聖王教会に持ち去られていた。その代わりに巨大なグランドホーンの角を渡されたよ。通常の倍以上のサイズだ……間違いないな。恐らくこれと引き換えに余計な事は聞くなという事なのだろうな」


「えっと…… 僕達はどうすればいいんでしょうか?」


 『漆黒の黒き翼(ミッドナイトダーク)を持つ者達よ(エンジェルズ)』がグラヴェロット領に戻ってきた理由はグランドホーンの異常個体を討伐するために戻ってきたはずだった。

 

 その討伐対象が既に討伐済みという事でメンバーは困惑している。それは先程軽率な態度を取っていたマックスとて例外ではない。


「すまないが、当分の間はグラヴェロット領にいて欲しい。聖王教とは基本的に協力体制を組んではいるが、今回の件では色々と怪しい点があってな。今奴らの全てを信用するわけにもいかん。事を構える気はあまりないが最悪のケースを想定する必要があるため、こちらもそれなりの戦力を確保しておきたい」


 フェリシアは聖王教会の今回の件について隠し事をしていることに対して大分苛ついている様だ。そのためか、背後にある棚の上に置かれている調度品などがカタカタ揺れながら位置ずれを起こしており、部屋全体が震えているのが分かる。

 

 その姿を見た三人は先ほどの勢いはなく借りて来た猫の様にフェリシアの姿を見て委縮しているものの、フェリシアが自分達に謝ってまで頼み事をする光景にただならぬ気配を感じ、グランドホーン以上に危険な何かがあるのだと察して三人はお互いの顔を見合わせ頷いていた。

 

「りょ、了解しました。何かあったら仰ってください。」


「あぁ、すまないな。話は以上だ。退室してもらって構わん」


 『漆黒の黒き翼(ミッドナイトダーク)を持つ者達よ(エンジェルズ)』の三人はフェリシアに頭を下げるとそそくさと応接室を出て行った。


(私の調査では聖王教会の特殊部隊はグラヴェロット領の外にいることがわかっている。ということは倒したのは別の奴だ。聖王教会め…… 一体何を隠してやがる。こちらには全て情報を回すつもりはないって訳か?この代償は高くつくぞ)




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 ここはとある国に建てられた宮殿の一室

 

 白を基調とした清潔感を感じられる部屋は時折入ってくるゆっくりとした風に揺られるカーテンから日差しが入り込み、それだけの光が反射されて部屋を明るく照らしている。

 

 その部屋で白いテーブルに置かれている紅茶を飲んでいる少女の姿がある。

 

 少女は部屋の内装と同様の色合いである白のワンピースを着ており風に揺られてブロンドのロングヘアーを靡かせている。

 

 その少女は近くで佇んでいるメイドに話しかけていた。

 

「ねえ、知ってる?」


「いいえ、知りません」


 メイドは少女と同じくらいの年齢の様に見えるが、見た目に反してその態度は大きい。

 

「ムッ、なんでそういう冷たい返し方するかな?」


 少女は頬を膨らましながら不満げにメイドに返答する。メイドは表情を一つも変えずに少女をあしらおうとする。


「いつもの事じゃないですか。主語も言わずに、ただ『知ってる?』とだけ言われても知らないとしか言い様がありませんよ。私は他人の心を読める訳じゃないんですから」


 毎度の事で飽き飽きですよと言いたげなメイドはわざとらしく『やれやれ』といったジェスチャーをこれでもかというほどにわざとらしく少女に見せつける。


「あなたはいつもそう。私としては『え~、何の話ですか~?私と~っても知りたいですぅ』って可愛く聞いてほしいんだけどなあ」


「絶対にお断りします。というか私がそういう聞き方をしないのはあなたが一番よくご存じのはずでは?」


「はぁ、残念。じゃあ、少し真面目に話をしよう。エシリドイラル王国のグラヴェロット領で発生したグランドホーンの異常個体の話は聞いているね?」


「はい、部隊長…… 司祭様から一通りの話は伺っております」


「うん、端的に言うとそのグランドホーンが討伐されたらしいんだけどさ……」


 少女は『続き聞きたいよね?』とでも言いたげなニヤニヤした表情でメイドからの言葉を待っている。


「そうですか…… その言い方だとまるで『思いもよらない人物』が倒したと言いたい様に聞こえますけど?」


「私の話を先読みするなんて可愛くないぞ」


「別に可愛いと思われなくて結構ですから」


 メイドはつーんとした表情で少女から顔を背ける。少女はそれを見ると頬をぷくーっと膨らませて不満げだ。


「くぅ…… 続けるよ。報告に上がって来た話だと討伐者は六歳の貴族令嬢だそうだ」


 その言葉に無表情のメイドのこめかみが『ピクッ』と揺れる。


「……六歳……ですか? それ本気で言ってます?」


 そもそも貴族令嬢以前に六歳で魔獣と戦うこと自体が論外だろうと言いたげなメイドは少女の話を話半分に聞いているような素振りを見せる。


「フフッ、君が六歳だった頃と比べてどっちが強いかな? 何しろ君は……」


 言葉を続けようとする少女にメイドは『いくら主人と言えども今の話はライン越えしてますよ』と言いたげな雰囲気を出すが、さすがにそんな主人を罵倒する様な内容を声に出すわけにもいかず、ニコニコしながら目だけは据わっている。


 それに気づいた少女は『やっちまった』と少し反省した表情をしている。


「ごめんごめん、今のは私が悪かった。話を戻すけど、報告通りであれば彼女は年齢帯的にも引っ掛かるし、能力的にも申し分無い…… つまり候補にはあがるわけだ。本当は私が会いに行きたいのだけれど止められちゃうからさ、君に直接会いに行って貰う必要があるかもしれないという事を知っておいて欲しい」


「それはいいんですが…… 『年齢帯』とか『候補』って単語がありましたけど、それってたしかヴェルキオラ教が調査していたというリストに関する話ですか?」


「うん、そうだね。その話を聞いた時に『ピンっ』と来たんだよ。そりゃ当然だよねって思ったよ。向こうにもいるんだからさ…… 私と同じ存在がね」


「……また面倒臭い話になってきましたね。あの人たちを相手にしないといけないって事ですか」

 

 『同じ存在』その言葉にメイドは敏感に反応する。やっぱりかという思いと面倒だなあという思いが混じり合う様な複雑な表情をしている。


「そして恐らく…… いや、十中八九次が最後になるからさ、お互い総力戦になるよ」


「次が最後?」


「そういえばこれは君にまだ話をしていなかったね。次…… 十二年後に来る聖女生誕祭に選ばれる聖女がこの()()()()の聖女となるだろうね。だからヴェルキオラ教も形振り構わず候補者を探している。そして、最有力候補に至っては連れ去るか、聖王教側に着く若しくは味方にならないのであれば最悪は…… って奴さ」


 少女は目線を窓の外に移し、これから起こるであろう教会間の争いだけでは済まないであろう世界を巻き込むかもしれない事態にため息を漏らす。


「今更、一人増えて何かそこまで大きく変わる事ってあります?」


 メイドは彼女等の膨大な力は理解しているつもりだが、一人増えた所で大局は変わらないのでは?と考えていた。しかし、少女は笑顔から突如真面目な顔をしてメイドに諭すように話し出す。


「ある。それだけ特別な存在って事を今は認識しておいて欲しい。だからこそ、そのご令嬢の保護が必要になった時に君に動いてもらうかもしれないって事さ」


 メイドからすると少女がこれ程真面目な顔はしばらく見ていなかった為、面倒がっていたメイドも真面目に話を聞き始める。


「であればすぐに動いた方がいいのではありませんか?」


「いや、報告の話では現場にはこちらの部隊と当事者達しかいなかったそうだ。ヴェルキオラ教の連中はいなかったからご令嬢が討伐した事は知らないとの事だ。迂闊に動いて彼らに余計な勘繰りをされても面倒だからね。こちらも余程の事が無い限りは大人しくしておこう」


「かしこまりました」


 一旦区切りは着けたためか、休憩を称して紅茶の入れ直しをメイドに依頼する。

 

 紅茶を一飲みして大きく伸びをするとテーブルに置かれていた資料を拾い上げて続きの話を始めた。


「次にグランドホーンの異常個体についてなんだが…… どうやら自然発生の個体ではなく人為的に生み出された個体の可能性があるらしい」


「……まさか」


「解剖の結果…… 通常魔獣に一つしかないはずの魔石が二つあったらしい。更に言うと、二つ目の魔石は明らかに人の手が加えられていた痕跡があったとの事だ。要するに魔道具の様な魔石になっていたとの事だ。これは真面目な話だから言わせてもらうが君にとっても他人事ではない事は分かっているはずだ」


 その内容を聞いた途端、メイドが過剰に反応した。その時の彼女本人が気付いてない程度であるが、言葉に怒気がこもっていた。


「やはり、彼らが?」


「あぁ、間違いなく魔導王国パラスゼクルが関わっているだろうね。そして彼らの裏にいるのが……」


「ヴェルキオラ教……ですか」


「それだけじゃない。まだ尻尾は掴めていないが、彼女等(・・・)が関わっている可能性すらある…… これから忙しくなるよ」


「それにしても本当に懲りない人達ですね。ですが、あの研究所は過去に壊滅したはず。……となると、誰かが復活させたという事でしょうか?」


「そういうことだね。正直に言うとこれは君の耳に入れるべきか悩んだんだけどね…… そうも言ってられなくなってきた。 ただ、その結果がこれさ。先代もそうだったが、新所長も中々に常軌を逸しているみたいだ」


 メイドは仕事をしながら考え事をしていた。過去に自分が壊滅させたはずの忌まわしい研究所が復活した。であれば再び私が……と。しかし、そんなメイドの思考を思いつめるような表情からに気付いたのか少女が口を挟む。

 

「君が行く事は許さないからね。今の君は立場が違う。気持ちは分かるが、勝手な真似は許さないし、誤った行動一つで私の居場所もバレかねない」

 

 少女は先んじて釘を刺し、断固としてメイドの行動を許そうとしない。

 

 こうなったら頑として譲らないのはメイドも承知だった為、一旦は諦める事にした。


「はぁ…… では、その前に有給貰っていいですか? 近場に居ますから大丈夫ですよね?」


「ダーメ、そうしてやりたいのは山々なんだけどね。君の代わりは世界のどこにもいない。分かるね?」


「嫌々ですが、重々承知しております」


「全く君って奴は…… まあいい、では私の唯一無二の守護者たる君に命令を下す。頼んだよ『神聖騎士』(ディバインナイト)シェリー」


 『命令』その言葉にシェリーの顔つきが変わりメイドから騎士に変貌する。彼女は少女の前に跪くと少女に向かって口にする。


「ハッ、聖女ステファニア様」

お読みいただきありがとうございます。

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読者様の応援が私のモチベーションとなりますので、何卒よろしくお願いいたします!

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