第二十一話:まるぐりっとさんのデビュタント③
どうも、ごきげんよう。ネーミングセンス壊滅令嬢マルグリットです。
咄嗟の事とは言え、あれはないと自分でも振り返って反省している最中でもあります。フィルミーヌ様にどんなお詫びをするべきかなぁ。
「マルミーヌちゃんは見た感じ八歳未満っぽいけど、まだ冒険者登録していないのよね?」
「そうです。今六歳なので二年後に冒険者登録する予定です」
この国では冒険者登録は八歳から可能なのだ。他の国では十歳からだったり年齢制限無しなんて国もあるらしい。
国ごとに民度も経済事情も異なる為、一概には言えないけど経済レベルが低い様な発展途上国は余計な制限を掛けると暴動が起き易くなるからそういう国ほど年齢制限が無く冒険者登録できるみたい。
だからこそ倫理観も希薄になってしまいがちなのか、人の命を軽視する傾向にあるのか、余計な人口を増やさないようにする為の国家ぐるみの口減らしを目的として年齢制限を取っ払っているのかもしれない。
そういえば、何故か発展途上国ほど一つの家庭から生まれる子供の数が多いみたいなのよね。
恐らくは労働力の確保の為なのだろうけど、その労働力になるまで育てられずに亡くなってしまうことも多いとか。ままならないものよね。
逆に比較的裕福な国ほど民の存在、育成を重要視しているから、無駄な被害を最小限に抑えるために制限を掛ける事が多い。
私の故郷でもある、このエシリドイラル王国は裕福な部類に含まれる。
裕福だと余裕があるせいなのか、ゆとり教育のせいか上位層に馬鹿が現れやすくなるけど、王子なんてその典型だと思う。
アイツで思い出したけど、元はと言えば馬鹿の代名詞たるアイツがフィルミーヌ様以外の女性に手を出すから私が過去に戻る嵌めになったのよね。
それにしてもアイツはフィルミーヌ様の何が気に入らなかったんだろう?
あんな美しくて性格もよく次期王妃としてあの人ほど完璧な存在なんて私は他に知らない。私が王子だったら一生愛を誓えるわ、マジで。
近くにいられるだけでも幸せだというのに…… 大方、完璧すぎるフィルミーヌ様にコンプレックスでも持っていたんでしょうね。
王子からフィルミーヌ様に上から目線で指摘できる様な箇所が全くなかったから。
だから何を指摘しても首を縦に振る様な忠実な飼い犬が欲しかったのかもしれない。そう考えるとクララ嬢も被害者よね。
そしてそんな人間を王妃にして国が回るかを考えない辺りあの王子が如何に頭が悪いかを表してるのよね。
いけない、また話が脱線しそうになってきた。
マルグリットの弱点その四。考え事がすぐに連想ゲームの様に斜め上に行きがち。気を付けないと…… 話をギルド関連に戻しましょう。
「そういえばオークと戦っていたみたいですけど、お二人の冒険者としてのランクはDくらいなんですか?」
「違うわよ。私たちのパーティーランクはEよ。普段この辺りはEランクしかいないはずなんだけどね、Dランクが現れるなんて珍しいから腕試しのつもりで挑んでみただけだったのよね。結果はあのザマだったけど……」
ルーシィさんは自嘲気味に笑っている。書籍を読んだ限りだとアリリアス大森林は森の外郭から内側に移動するにつれて高ランクの魔獣が現れるとの事らしい。
つまり彼女たちの言い分から察するにこの辺りはEとDの境界線というわけではなくEランクの領域真ん中ないしはFランクより付近だろうと推測はできる。
彼女たちのパーティーランクでEランクという事は、個人評価だと恐らくそれぞれがE以下で、もしかしたら最低ランクであるGの可能性まである。
パーティーランクを評価する場合は、パーティー全員の総合評価になるからメンバー同士の連携がうまくかみ合ってさえいれば、二段階上として見なされるケースがあってもおかしくはない。
ただ、それでも当時ソロランクでDランクだった私と彼女たちで模擬戦闘を行っても私には勝てないでしょうね。
あくまで評価の上ではだけど、それでも実際にオークに歯が立たなかったであろう彼女たちから結果は見えてる。
それだけランク間は一つ上がるたびに大きな隔たりがあるのよね。
GからFになることと、DからCになることはお互い一つずつしか上がっていないように見えるけど、数字で表すのであれば戦闘能力を一から五に上げたらランクがあがっていたのが五十から百にしなければランクが上がらない様なものだから。
ここを勘違いする人が多いからDランクで足踏みする人、命を落とす人が多い。そして私も一度そこを勘違いしてしまったクチ。
Dに上がって調子に乗ってCランク魔獣に挑んだら死にかけた経験がある……。だから私にとってCランクとは実は大きな壁でもあるわけ。
「そうなんですね。でも命さえあればいくらでも挑むことは出来ますから無理はしないようにしてくださいね」
「ええ、そうするわ。それにしてもマルミーヌちゃんはすごい強かったけど、どうやってあんなに強くなったの?」
「私の父が元冒険者で物心ついたときから手ほどきを受けましたので……」
半分本当で半分嘘。嘘をつくのは忍びないけど、これも正体を隠すためです。すみません……。
「すごいお父様なのね。お名前を聞いてみたいところだけど、マルミーヌちゃんの事情を考えてやめておくわね」
やはりルーシィさんの様な出来る女性は違う。『察する』能力が半端じゃない。チェスカさんもこの辺りは見習うべき。危うく酒の肴にされるところだったし……。
万が一、そのチェスカさんの耳に『父親は領主』なんて入った日には、翌日にはお母さまの耳にまで入ってるかもしれない。マジで注意しないと。
「そういえば、先ほど話の上がったエミリアさんとは何方かお聞きしても大丈夫ですか?」
「ええ、エミリアさんはギルドの受付嬢よ。あなたも二年後に登録するのであればお世話になると思うから今から知っておいても損はないわ。それに元冒険者上がりと聞いてるからもしかしたらアドバイスとかも貰えるかもしれないわ。正確なランクは知らないけど高ランクとか噂で聞いたわ」
それはとてもいい情報だ。少しでも強くなるために色んな強者から話を聞くだけでも勉強にはなる。
「だけど、ギルドマスターの方がもっと強いらしいわよ。実際に戦ったところを見たわけじゃないけど、何度か姿は見たことがあるの。正直に言うと蛇に睨まれた蛙と言ったところかしら。あの眼力で睨まれたら全身すくんじゃうわ。だから姿を見ても目を合わせないようにしてるの」
それ書籍で言うところの街中ではパンピーにイキってるドチンピラが歴戦の猛者が現れた瞬間に壁際に立って背景と同化するというケースと同じ感じかしら。まあ、下手に目を合わせて因縁つけられたくないものよね。
でもそれだけ強いってすっごい気になる。早く八歳にならないかしら。それまでにどれだけ強くなれるかわからないけど、一度お手合わせしたいものだわ。
「ふい~、解体終わったよ~」
「チェスカ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
「いや~、マルミーヌ様様ですよ。しばらくは足を向けて寝れませんなあ。あとルーシィは手伝え」
「私はマルミーヌちゃんとの大事な会話の最中だもの。私は私で重要な役目を担っていたの。サボっているなんて心外だわ」
「ズルい、その役目は私でもよかったはず。解体作業って身体が臭くなるから嫌なのよね。次は絶対にルーシィだからね」
「わかった、わかった。取り分は少しチェスカが多めでいいわよ。それならいいでしょ」
「なーんか、上手く丸め込まれた気がするけど、それでいいわよ」
「丸く収まったようで良かったです。それでは私はそろそろ帰宅しますね」
「あれ? 一緒に帰ろうかと思ったんだけど、ガルカダに住んでるわけじゃないのかしら?」
「はい、ガルカダから少し離れた場所に住んでます」
「そうなんだ。じゃあ、ここでお別れね。また会えるかしら」
「はい。定期的にここに通って魔獣狩りしてるので、結構会う事になるかと思いますのでその時はまた話し相手にでもなってください」
「ええ、わかったわ。また会いましょう」
「それでは、私は失礼しますね」
「「またね」」
いい話も聞けたし、なんか楽しくなって来た。魔力もほとんど減ってないし、全力で帰宅しようっと。
『魔力展開』
私は全速力でアリリアス大森林の外郭に向かって走り出した。明日以降頑張るぞー
「えぇっ、何あのスピード。もう見えなくなったんだけど……」
「まだ夢でも見てるんじゃないかと思うよ。あんな幼女がオーク一発とか普通ありえないでしょ」
「そうね。二年後までにどうなってるのか楽しみね」
「私たちは死なない様に無難に生きよう。あの子の様には無理だから」
「そうね。真似してはダメなやつね」
「「じゃあ、私たちも帰ろうか」」
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