第十九話:まるぐりっとさんのデビュタント①
どうも、ごきげんよう。無事に六歳になりました。大人の階段上る令嬢マルグリットです。
『赤狼の牙』の別動隊を叩き潰してから半年が経過しました。あれからも訓練は続けていたため、日々成長できている実感はあります。
かねてより考えていた六歳になったらドキッ!魔獣だらけのパラダイス『アリリアス大森林』で魔獣界デビューをして腕を磨こうと考えていたわけです。
前回の人生では引きこもっていたから知識としてはあるけど行くのは初めてなのよね!
場所はガルカダの南西で『魔力展開』で走っていけば十分に日帰りが可能な距離なのよね。
というわけで既にアリリアス大森林まで来ているのだけど、初めて見た感想やっぱり大きいわね。すでに端から端が見えない程に遠いところにあるのね。
「それにしても気持ちいいわね。どうしても森に来ると森林浴気分になってダメね。裏の森と違って魔獣が生息しているのだから油断は禁物なのに」
私が森に入って気が抜けそうになった直後の事に人の声が聞こえた。
「「ひええええええ、お助けえええええええええ」」
え? 聞き間違えかしら? こんな素っ頓狂な助けを求めるセリフは書籍に登場する馬鹿丸出しの三枚目がヘマをした時くらいのものかと思ったけど現実に言う人いるんだ……。
『ぎゃふん』並みのレア度を感じるわ。
女性の声だったけど、どんな愉快な人がこんな叫びをあげたのかとても気になるわ。助けに行ってみましょう。
私は声のする方向へ走り始めたが、向かう途中にも色々叫んでいた。
「私たちは美味しくないから~~~~~」
「豚に犯されるなんて嫌すぎるうううううう」
複数の女性の声が聞き取れたわ。内容から敵が何なのか理解したけど、それだけ叫ぶ元気があるならその状況をなんとかしようと思わないのかしら?
声がどんどん近づいてきている。
……見つけた。二人の女性が地べたに座り込んでいる。風貌的に一人は鎧と盾や剣を持っている前衛、もう一人は如何にも魔法使いという恰好をしているから後衛かしら。
相手はやはり『オーク』。Dランクモンスターではポピュラーなモンスターだ。
オークと言えば学園時代の私とフィルミーヌ様の仲を取り持ってくれた某サイモン氏。
もちろん思い入れはあるので、ぶちのめすには些か抵抗もありますが、人命が掛かっているので仕方ないわね。
私が学生時代にDランク冒険者だったからオークをソロで倒せる力量は既にあった。ただし、一度に複数となると結構キツイ感じ。
今の私はどのくらいの力で倒せるんだろうか。かなり興味がある。
私は一気に駆け抜けて、彼女らとオークの間に割り込んだ。
「ご無事ですか?」
「神が遣わしたもう天使降臨? 違った、幼女だった」
「お礼にハグしたい…… そうじゃなくて、なんで子供がこんなところに?」
オークに殺されかけたり、突然の見知らぬ人物による介入があったらもっと錯乱してもおかしくないはずなのだけど
思ったより余裕あるわね、この人たち……
「立てそうですか?」
「腰が抜けてるからもう少し待って」
「危ない、後ろ!」
私が二人に話しかけている最中は身体を二人の方に向けていたため、当然オークから見たら背中を向けている。
オークはチャンスと思っているのか、こん棒の様な物体を振り上げている。
なんのデジャヴかしら、似たような襲われ方を半年ほど前にされたわね。
「ダメ、間に合わない」
女性二人は私の回避が間に合わないと悟ったのか本能的に顔を手で覆い隠していた。
私の方はもちろん、最初から回避するつもりは全くないの。せっかくだから実際に受け止めてみて、ダメージはあるのか? 衝撃はあるのか? 今の私は当時の私と比べてどのくらい変わってるのか?
それを確認したくて攻撃させてみたというところかしら。
私はこん棒が降ってくるであろうポジションに手を広げて腕を突き出していた。振り下ろされたこん棒は私の手のひらと衝突し、お腹に響くような鈍い重低音が周辺に鳴り響いた。
「あら、大袈裟な音量でしたが、思ったより威力は大したことありませんのね」
予想に反して、私の身体に衝撃と言える様なものはあまり感じられなかった。
私は受け止めたこん棒を握るとと私の手のひらの範囲にあった箇所は抉れていた。
「ごめんなさい、ついつい力が入っちゃいましたわ。あなたの大事な武器の一部をおがくずにしてしまいました。許してくださるかしら」
「脳筋幼女!」
それは褒めてるのかしら? 貶されてるのかしら?
「最後にいいものが見れたわ」
いえ、助けに入ったのだから死ぬ気満々でいられても私が困ります。
「ブヒィ――――!」
武器を片手で受け止められようが、握りつぶされようが、オークの闘志は燃え尽きてはいなかった。
私に一矢報いてやろうと考えているのか、両腕で私を掴もうとしていた。
「『当たらなければどうという事はない!』ですわよ」
書籍の引用するくらいの余裕を見せつつ、オークの迫りくる両腕を跳躍して回避する。
そのままの勢いでオークの側頭部に蹴りを入れると、オークは蹴りの勢いで身体ごと吹っ飛んで行った。
「今の感触だと首の骨もポッキリいってるでしょうから、解体するならどうぞ。オークの素材は私には不要なのであなたたちの自由にして構いませんよ」
女性二人はまるで時が止まったように目を見開いて、口をぽっかり開けて私の事を見ていた。
「めちゃくちゃ強っ、本当に人間? 人間の皮を被った高ランク魔獣とかじゃないよね?」
散々な言いようである。まあ、魔獣扱いされるのは慣れてるからいいです……。
「えー、勿体ないよ! それに君が倒したのだから所有権は君にあるんだよ。私たちは何もできなかったしね」
正直言うと私はオーク程度の素材で小銭を稼ぐことは特に考えていなかっただけ。
今回も国外追放されたと仮定して、お金を稼いでおく事ももちろん重要だと考えてるんだけど、今分かってる限りだと無事に国外に出れるかが最も大きな壁だから強くなることが何より最優先。
それに強くなればよりランクの高い魔獣を狩れるようになるから必然的に買取料金も上がっていくからそっちの方が最終的に稼げる金額は大きいと思う。
せめてCランクからよね。前回の私はCランクなんて無理だったし、DランクとCランクが一つの壁みたいなものだから価格も一気に上がるんじゃないかと思ってる。
それに彼女たちに素材を譲るのにも理由はある。
「構いません。その代わりと言っては何ですが、少しお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」
そう、このアリリアス大森林で現役の冒険者をやっている彼女らに話を聞いてみたいのだ。
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