第十八話:まるぐりっとさんのお祭り⑤
~ 翌日 ~
「お嬢様~」
「……」
「お・じょう・さ・ま―――――」
「……ハッ! どうしたの?ナナ」
「さっきから話しかけてるのにずっと上の空みたいでしたので何かあったのかと思いましたぁ」
そうだよ~、今日の夜に賊に襲撃を仕掛ける事ばかり考えてました。てへっ! なんてナナに言えるわけがない。
世界のどこに五歳児が賊を襲う気満々ですなんて危険物がいるのよ。まあ、ここにいるわけですが。
という作戦当日の朝っぱらから物騒な事を考えている危険物取扱者乙種もとい危険物扱い令嬢マルグリットです。
「お嬢様、またブツブツ言ってますよ。心の声が漏れ過ぎでは? 気を付けてくださいねぇ」
マルグリットの弱点その二。考え事をしている最中に頭の中身が口から漏れ出す。
そういえばフィルミーヌ様にも言われたなあ、ナナはすぐに察して『心の声が漏れ出てる』なんていうけど、フィルミーヌ様の場合は『マルグリット? あなた突然何を言い出してるの? 大丈夫?』なんて私の頭の心配をしてくれるとても優しい方。
イザベラは口に出さなくても私の頭の中身が表情で伝わってるみたいで、すぐに訴えかけてくる超人技を披露してくる。
故に今日のイベントはフィルミーヌ様とイザベラの弔い合戦でもあるわけです。いやでも気合が入ってしまいますね。
よくよく考えたら、おかしな所があるのよね。前の人生では『赤狼の牙』がグラヴェロット領に現れたのは私が八歳くらいの頃だったはず。
今回の件はただ表に出てないだけで実は前からグラヴェロット領にいたって事かしら?
ということは、今回の被害者は一人だったからバレなかった。細かい事件を繰り返して、耳に入りにくいようにしていたのかしら?
それも今日に襲撃すれば全てわかるって事よね。
よーし、みんなが寝静まった頃にコッソリ抜け出して目的地の森まで一気に突っ走る。賊をボコしてまた帰ってくる。
朝までに帰ってこれるかしら……
今のうちに仮眠でも取っておこっと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、ご飯も食べたしお部屋で読書の続きでもしてようかしら」
「ムッ、お嬢様。今随分な棒読みになってましたが何か企んでますか?」
クッ、バレずにやり過ごそうと思った事を意識しすぎて逆に裏目に出るとは……
「そ、そんな事ないわよ。もう夜だし、部屋に戻って本を読むこと以外出来る事なんて他にないわよ」
「ムムッ、まあいいです。あまり遅くならないようにお願いしますね」
「わかったわ。明日もちゃんと起きるから」
案外私って即興の演技が下手くそなのね…… これはマルグリットさんの弱点その三にでもなりそうだわ。
「一旦ベッドに潜ってみんなが寝静まるまで待とうかしら…… 寝ないように気を付けないと…… 寝ない…… ように…… ZZZzzz」
……………………
………………
…………
……
「ハッ!! ヤッバ、寝ちゃった…… なんでこういう時に限って人は寝るんだろう」
にんげんだもの まるぐりっと。
「書籍のポエムを引用してる場合じゃなかったわ、急がないと!」
さっさと着替えてっと…… ヨシッ、窓からコッソリ出るわよ。
さて、ここからは一気にダッシュでガルカダの南東の森まで行くわよ。
『魔力展開』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、南東の森まで来たけど、思ったより魔力も減ってないわね。日頃の訓練の賜物というやつね。
どの辺にいるのかしら? 森の中央付近まで行ってようかしら。
中央付近を目指して走ってみるもののそれらしき建物も人の気配もなさそうだと思った矢先
ん? 灯りが見えてきたわね、あそこかしら。
バレないようにコッソリ近づいてみると灯りの発信源はどうやら小屋からみたい。
小屋の窓をバレない角度からのぞいてみると、見た感じ量産型とも言える風貌の賊が五人いる。
赤服がいない? というか人数が少ない。もしかして別動隊かしら?
聞き耳を立てていたら中の声が聞こえてきた。
「おっせーな、運び屋の野郎」
「仕事しくじったかぁ?」
「もしくは、お愉しみすぎて時間かけてんかもしれねーな」
「いきなりキズモノにしてたらカシラにぶち殺されんぞ」
カシラってのが赤服の事っぽいわね。
「早く来ねえと、俺らはいつまでもここにいなきゃいけねえじゃねえかよ」
今の話を聞く限りだとこいつらは只の受け取りをするための人員って事かしら? 等と考えていたら……
「飲み過ぎたから外で小便してくるわ」
ヤバッ、一人外に出てきちゃうじゃん。
『魔力展開』
一旦、屋根にでも退避して様子見。バレませんようにっと。
「うぃ~、早く来ねえと俺らがいつまでもここにいなきゃいけねえじゃねえかよ」
外に出た賊は立ったまま用を足しているのが私の視界上に残っていた。
ひぇ~、男性ってこうやって用を足すのね。ってちがーう、これ以上は見たいわけじゃない!
背筋が凍る思いだわ。鳥肌が全身に立ってくる。けど、一人仕留めるなら今がチャンスね
うぅ~、触りたくないけど今は仕方ない。帰ったら即お風呂に入らないとね。
『認識阻害魔法』
私は小屋の賊たちにバレない様に外に出た男にコッソリ近づいて『音』が止まるまで待機した。
いや、だって跳ねてるんだよ? 絶対に近づきたくないでしょ。
これ以上近づいたら地面に流れたアレを踏んでしまうかもしれないけど贅沢はこれ以上言っていられない。
『音』が止まった瞬間に私は背後から一気に近づいて両手で頭を掴んで、一瞬で首の骨をへし折った。
倒れた音を聞かれたくないため、仕留めた賊をゆっくりと小屋の中から見えない位置まで移動させる。
もう一度小屋の窓際付近まで移動して奴らの会話を聞き取ろうとするが
「おい、ペンダントの色が変化した。外に出たダグがやられたくせえな。すぐそこに敵がいるぞ」
ペンダント? 何それ? もしかして仲間の生死でも確認できる魔道具かしら。でもバレたら仕方ないわね。あいつらは今ドアの方に注目しているはず。
私は一旦屋根に上って、屋根をぶち壊してから残りを襲うことにした。
「ハァッ!」
私はオンボロの屋根を破壊すると同時に手前にいた賊の一人目の首をへし折る。
「なんだっ?」
「なんか今いたぞっ」
思った以上に小さいからバレにくいのね。
私は一人目を仕留めた直後にバレにくいようにテーブルの下を経由して二人目の『股間』を一気に蹴り上げた。口から泡を吹いて倒れていく。
嫌な音がしたし、この感触はさっさと忘れたい…… お風呂入りたい。
「いたっ、ガキだと?」
賊たちは見ている光景が信じられないかのように私の事を見つめていた。
「ねえ、教えてくれない? ここにいるのは貴方たち五人だけなのかしら? 貴方たちの言うカシラってここにはいないのかしら?」
「なんだ、お前は? 運び屋? ちげえか、運び屋は男だと聞いているからな。もしかして荷物の方か?
にしても随分小綺麗な恰好してやがるな。しかもかなり上玉じゃねえか。外にいたダグをやったのもお前か?」
質問に質問で返さないでほしいわね。しかも質問多すぎだし…… まあ、すんなり答えるとは思っていないけど。
「外にいた男を仕留めたのは私よ。私がここに来た理由は貴方たちが言う運び屋から、ここの場所を聞き出したからよ。
運び屋は衛兵に捕まったし、荷物と呼んだレディは無事に保護したわ。私は答えたのだから貴方も答えなさい」
男は汚らしい表情で『ニヤッ』とすると、残りのもう一人に合図を出していた。
「いまだ、捕まえろ」
私と会話をしている最中に私の真後ろに迫っていたようだけど、なんで私が気づかないと思っているのであれば大間違いよ。
かつて学園で『意思疎通の取れる魔獣』と呼ばれた私が近場の人間の気配に気づかないわけないわ。
私の真後ろにいた男は私を殴って気絶させるつもりか、木の棒を振り上げていたが、そんなものはお見通しである。
バックステップで真後ろにいた男の股の間を搔い潜り、手の届く範囲にあった木で出来た椅子を持ち上げて男の後頭部に思いっきり叩きつけて倒した。
「残念ね、麗しの幼女だと思って甘く見たのが運の尽きね」
「さて、次は私の話を聞いてもらえる番よね? 答えなさい、カシラはどこ? ここには貴方たち五人しかいないの?」
「そうだ、お前がカシラの何かは知らねえが、もうここには来ねえぜ?」
「どういうこと?」
「俺たちがつけてるペンダントはな、人間の心臓の鼓動を感知してから起動する。
起動後に一度でも心音が停止すると判断された場合はペンダントは色を変色させる。
仲間内でつけてるやつにも異常が発生した場合は、その内容が共有されるから俺たちにも伝わる。
それと同時に俺たちの本隊にもその連絡がいくってわけだ。だからここの仕事でしくったと本隊は判断してるはずだ。
よってここにはもう誰も来ねえってわけさ」
まさかそんな高性能な魔道具を所持していたとは……
足がつかないようにするためとはいえ、こいつ等が十年以上もこんな仕事を続けていられた理由はこれなのかもしれない。
思った以上にやっかいな相手ね。振り出しかな…… いえ、前回と同じであれば八歳になれば本体がグラヴェロット領に現れるはず。
そこまでお預けかしらね。
「そう、ならもういいわ。私は『赤狼の牙』は壊滅させるつもりなの。
つまりあなたにどんな事情があったとしても生きてこの森から出られることはない」
「舐めるなよ、ガキィ」
男は背中に隠し持っていたであろうナイフを投げつけてくる。
私がそのナイフを避けると同時に男は壁に立てかけてあった剣を抜いて私に切りかかってくる。
「遅すぎる」
私は剣を躱しつつ懐に飛び込み魔力を込めた拳を男の腹部に思いっきり打ち込んだ。
腹部には穴が開き、反対側がくっきり見えていた。男は最後の言葉も残せないまま倒れた。
「ふぅ、終わったはいいけど結局の成果も得られなかったわね。赤服もここには当分来ないだろうし……
前回はここでの誘拐の結果は私がいない以上、防げていないって考えると今回の八歳の時にちゃんと来てくれるのかしら?」
私は一抹の不安を覚えながらも森を後にした。
そして、私は戻った後で結局起きれなくてナナのお説教を沢山頂くことを今はまだ知らない。
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