第三話
あの雨の日から、もう来ねぇんじゃねぇのかと思った爺さんは、相変わらず俺のベンチに来て色々と話をしていった。
その日も、爺さんはやって来た。なんだかんだでこの関係はかなり続いていた。
―――だからだろう。
爺さんにあんな事を話したのは。
「うむ、また来たぞい。」
『へぇへぇ、相変わらず暇人だな。』
「ふぉふぉふぉっ。まあそれは置いておいて今日はの――」
『ちょっと、いいか?』
「む、なんじゃ?」
―只の気紛れだ。そんな事は言えず。
俺は言葉を発した。
『なぁ、―――』
――どうせ直ぐに死ぬんだ。
『俺の―――』
そうさ、人間なんて自分勝手だ。
『―――身の上話、して、いいか?』
そうさ、これは只の気紛れだ。
「ふむ、いいぞい。」
『そう、か。』
『俺はな、ガキの頃は熱血だったんだよ。』
「ほう、それが随分と捻くれたもんじゃの。」
『茶化すんじゃねぇよ。』
ほんの少し、気が楽になった。
『まあ、な。熱血だった訳だ。取り分けサッカーが得意だった。』
爺さんは、目を閉じて静かに聞き入っている。
…寝てねぇよな?
『んで、ダチがいた訳よ。そいつもサッカーが上手でな。二人でサッカー選手になろうって約束したんだ。』
『それが、俺のガキの頃の夢だ。
ま、もう雪として降っちまったかもしんねぇがな。』
ゆっくりと、時間がながれる。
『なんで雪になっちまったかって?そりゃあダチが死んじまったからだよ。』
『あいつは頭が良くてな、塾になんかにも通ってた。
…その、帰り道さ。』
『聞いた話じゃトラックにポーンとはね飛ばされたらしい。
…飲酒運転だそうだ。』
『んで、葬式の写真で再会ってな。
…なんで笑顔の写真にするんだろうな。もうそいつは死んじまったのに。』
『それから俺はサッカーにのめり込んだ。
ありがちな話だがサッカーが上手くなりゃ、あいつがひょっこりと帰ってきそうでな。』
もう昔の話だ。あの時みたいに悲しくは、ねぇな。
『そのおかげで俺はかなりサッカーが上手くなった。
才能も有ったんだろうし、努力もした。体育の時間なんてヒーローだぜ?』
悲しく、なんて、ねぇ、よ…!
『それでな、俺は中学生になったんだ。でも、中学でスランプに陥った。
それこそがむしゃらに練習したぜ?晴れの日も、雨の日も、いつだって。』
『でも、それが駄目だったんだろうな。
ある雨の日だ。いつも通り疲れ果てて、階段を降りていたら踏み外してな。
目が覚めたら病院だった。』
『どうなったかって?膝が砕けた。疲労だのなんだの言われたが、俺にとって重要な事を聞いたね。
サッカーはできるのか?ってな。』
『結果は出来ない。もしかしたら日常生活にも支障があるかもしれないってな。』
『そんで自暴自棄になって、退院と同時に蒸発。
んで、この有り様ってな。』
…ふぅ。一息ついて、目を開けたらハンカチが有った。
「酷い顔じゃぞ?」
爺さんは、したり顔でそう言った。
『…サンキュ。』
強がる気力も無かった。
「ふむ、せっかくお主の身の上話を聞いたんじゃ。
今度はわしの身の上話をしてやろうかの。」
そう言いながら爺さんはベンチから立った。
「それでは明日を楽しみにしとるがよい!あ、そのハンカチは明日返して貰うからの。」
『ケチな爺だな。』
そして爺さんは帰って行った。
そしてその次の日、そのまた次の日も爺さんは来なかった。




