第一話
豚トロの初めての小説です。お気軽にどうぞ。
俺と爺さんが会ったのはある冬の日だった。
その日もいつも通り公園のベンチに寝そべって、空を見ていた。
ふと、雪が降ってきた。
「お若いの、こんな時間に公園で寝そべって、どうしたのかの?」
いつの間にか、その爺さんは俺の近くに居た。
『…うるせぇな。そんなの俺の勝手だろうが。』
こういう類いは大抵説教をしてくる。
……厄介なのに絡まれちまったな。
「そうか。…隣り、いいかの?」
席まで求めるたぁ図太い爺だ。
別に断る理由も無かったし。ちょうど暇だったし。説教が始まりゃ直ぐに逃げりゃいい。
という考えで俺は起き上がった。
『おらよ、好きにしろ。』
「では、好きにさせてもらおうかの。」
そのまま、十分だか二十分だかした頃にいきなり爺さんは話しだした。
「若いの、お主は雪をどう思う?」
…こりゃ、何だ?痴呆の類いか?
『別に。どうとも思わねぇよ。ただ、綺麗だな。とは思う。』
そのまま会話が途切れたまま数分…。
「そうか。綺麗だと思うか。」
…そんだけか?会話のテンポも遅ぇし面白そうな話もしなさそうなので、もう逃げるか。と思った時、爺さんはぽつぽつと喋りだした。
「お若いの、何故、人は雪を綺麗なんじゃと思う?」
「それは、雪が夢だったからじゃよ。」
人に問い掛ける様に言っておきながら、直ぐにその爺さんは喋った。
「お若いの、お主にも夢は有ったじゃろう?子供の頃の夢、青春しとった頃の夢、社会に出てからの夢。」
『……そうだな。確かに俺もガキの頃は夢が有ったな。』
思い出すは、あの頃の夢。二人で誓った、陳腐で、ありがちな夢。
「じゃろうな。しかしの、夢というのは、必ずしも報われる物ではないのじゃよ。」
そんな事は分かっている。俺は、こういう話は大嫌いだった。
でも、何故だかその爺さんの話には引き込まれる物が有った。
「そんな時、報われなかった夢はどうなると思う?」
『…さぁな。忘れちまうんじゃねぇの?』
忘れていない人間がよく言うものだ。
「ふむ、そうじゃの。確かにその通りかもしれん。しかしな、わしはこう思うんじゃよ。
夢というのはの、報われなくなった瞬間に空へと昇って行くのじゃよ。」
随分と、メルヘンな爺さんだった。
……やっぱ痴呆の類いだったか…。
『随分とメルヘンチックじゃねぇか。』
「ふぉふぉふぉっ。メルヘンか。いい響きじゃの。」
「それでの、報われなかった夢は空に溜まるんじゃよ。
報われなかった夢はの、段々と色を失ってく。空に到達した時にはまだ色が着いていたとしても、の。」
「その辺は、物と一緒じゃの。時間が経つ度に、風化し、色褪せていく。」
ふと、爺さんの横顔を見る。その横顔は、大切な子供に童話を聞かせてるみたいに、穏やかで、少し、悲しげだった。
「そして、その色褪せた夢が空の限界値を超えた時にの。古い夢からパラパラと、パラパラと落ちてくるんじゃよ。」
「そして、人々は雪に夢の残り香を感じるんじゃろうな。」
「だから、美しいと言う。
だから、綺麗だと思うんじゃよ。」
そう、爺さんが言い終え、さっきみたいなゆっくりな時間が流れた後、俺は言った。
『そうかよ。どっちにしろ、俺には関係の無い話だ。』
すると、爺さんは驚いた様な、懐かしげな様な、嬉しそうな様な、訳の解らん顔をした。
「また、来るぞい。」
決定してんのかよ。図太い爺だ。
『好きにしやがれ。』
これが、俺と爺さんの出会いだった。




